第106話

由梨は真っ赤な顔で恥ずかしがった。


「由梨、キスしてえ」


「えっ?」


「ダメか?」


健吾はいつもなら、いきなり奪うが、今の由梨には拒否される可能性が高い。


自分の名前を覚えてくれていることが奇跡なのに、自分に対する気持ちまで、同じとは限らない。


「ダメですよ、奥様が悲しみます」


「だから、俺の奥さんは由梨だって」


由梨はキョトンとした表情を見せた。


「ごめんなさい、わかりません」


「そうか、そうだよな、気にするな、俺のそばにずっといてくれ」


「はい」


健吾はそれだけで十分だった。


(これ以上望んだらバチが当たるよな)


健吾は回復に向かっていた。

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