第104話

「健吾さん」


由梨はまたしても健吾の名前を口にした。


(由梨、まだ俺の記憶はあるんだな)


「健吾さん、どうされたんですか、大丈夫ですか」


一真は驚いた。


(昨日のことは、記憶から消えているのに、若頭の存在は残っているんだ)


由梨は一真に顔を向けて、一礼し、言葉を発した。


「はじめまして、あなたが健吾さんを助けてくださったんですか」


一真は固まった。


由梨はじっと見つめられて、戸惑った。


(なんでじっと見てるの、この人誰だろう)


「由梨、そいつは東條一真だ、俺を助けてくれた命の恩人だ」


「そうですか、ありがとうございました」


一真は我に返り、一礼した。


「しばらくこのマンションを使ってください、俺は女のところにいます、ほとぼりが冷めるまで目立った動きは控えてください」


「何から何まですまねえ、感謝する」


渡辺も一真に頭を下げた。


一真はマンションを後にした。

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