第93話

「あなたは西園寺組の姐さんですよね」


「健吾さんの奥様はちゃんといますよ」


一真は人違いをしたのかと戸惑った。


(いや、そんなはずはない、でも助かりたくて嘘を言ってるようにも見えない、どう言うことだ)


「あのう、この人、手当しないと、ダメなんじゃないでしょうか」


一真は混乱していた。


「私のロープ解いていただけますか、救急箱ありますか」


一真は「ああ、はい」と言って由梨のロープを解いた。


「今、救急箱持ってきます」


一真が持ってきた救急箱で裕也の傷の手当をはじめた。


(不思議な女だ)


すると、由梨は一真の傷の手当もしようとした。


「俺は大丈夫です」


「だって、血が出ていますよ、痛いでしょ」


一真は由梨に対して、初めての感情に戸惑った。


由梨は一真の手当も始めた。


「さっきは助けてくれてありがとうございました」


由梨はにっこり微笑んだ。

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