第85話

健吾から何も聞いていなかった裕也は理解出来ずにいた。


「嫌だな、姐さん、冗談はよしましょうよ」


「あのう、姐さんって、どなたかと人違いされているんじゃないでしょうか」


裕也はとにかく、若頭の元に連れて行こうとした。


「えっと、会ってもらいたい人がいるんです」


由梨はポカンとしていた。


「大怪我して、以前姐さんに助けてもらったらしく、お礼を言いたいとのことです」


「私がその怪我をした人を助けたんですか」


「はい」


「でも……」


「とにかく、姐さんを連れて行かないと、俺がその人に怒られるんです、お願いします」


裕也は強引に由梨を連れて、病院へ向かった。


由梨の頭の中は今、この瞬間の記憶がない。


自分は何をしようとしたのか。


目の前の人が誰だかわからない。


しかも急にその状態になってしまうのである。


「姐さん、こちらです」


裕也は健吾の病室を案内した。

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