第81話

健吾は観念した。


今度こそ死を覚悟したのだ。


しばらくして意識が回復して、全く手も足も動かない現状に頭が真っ白になった。


しかし、その時由梨の声が聞こえてきた。


「健吾さん、早く帰ってきてね」


(そうだ、由梨が待ってる、俺の妻の由梨が、こんなところでくたばってたまるかよ)


しばらくは全く動けなかった。


喉が渇き、その時水が流れる音がした。


(水の音、川だ)


健吾は必死に身体を動かして、川のそばに近づいた。


決して動ける状態ではない、車ごと崖から落下して、強く身体が打ちつけられた状態だったのだ。


全身骨折していた。


奇跡としか言いようがなかった。


一晩その場に放置され、水が命を救った。


あのままなら、命の炎は消えていたかもしれない。


しかも、またしても由梨が健吾を見つけてくれた。


誰もが移動したなど思いもよらなかった。


(由梨、俺はいつもお前に助けられている、今度は俺がお前を助ける番だな)

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