第71話

由梨は健吾に説明をした。


「お前、ずっと悩んでいたのか」


「だって……」


健吾はすぐに病院へ確認の電話を入れた。


「由梨、これから俺は病院へ行って先生の話を聞いてくる、その前に、これにサインしろ」


由梨の前に差し出されたのは健吾がサイン済の婚姻届だった。


「健吾さん、これって」


「俺はお前を妻として迎える、つべこべ言わずにサインしろ」


由梨は婚姻届をじっと見つめていた。


「でも、もし私が死んじゃうなら、サイン出来ません」


「はあ?誰が死ぬって」


健吾の強い口調に圧倒されて由梨は何も言えなくなった。


「由梨、よく聞け、お前の病状を聞くにも、手続きするにも今の俺の立場では何も出来ないんだ」


由梨は黙って健吾の話に耳を傾けていた。


「お前が気にかけてる一年前のことも、家族以外には話せねえって言われた、もちろん本人に死の宣告する医者はいねえ、今日行った病院だって、結婚の予定はあるかとぬかしやがった、つまりだ、俺はお前と生涯を共にする覚悟だ、だから、俺の妻になれ」


由梨は健吾にプロポーズされた、真剣な眼差しで。


初めて健吾が由梨のアパートに現れて、プロポーズされた時には、真剣さは微塵も感じられなかった。

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