第70話

マンションに戻ってから、健吾は一点を見つめて、何か考え事をしているかの様子が伺えた。


「健吾さん、大丈夫ですか」


健吾は返事をしない。


由梨はもう一度健吾に声をかけた。


「健吾さん」


健吾はやっと由梨に呼ばれていることに気づいた。


「あっ、ごめん、何?」


「私、後、どのくらい健吾さんのそばにいられますか」


健吾は驚きの表情を見せた。


「な、何言ってるんだ、ずっと一緒だ」


健吾は狼狽えた。


(由梨はわかってるのか、自分の病気のこと)


「一年前、入院したことがあって、その時、看護師さんの話を聞いてしまったんです、もう手遅れだって」


「何の話をしているんだ」


「だって、健吾さん、病院から戻ってからずっと考え込んでるから」


「ちょっと待て、手遅れって、本当にお前のことか」


「えっ?」


「どんな症状でどこの病院に入院したんだ」

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