第八章 由梨の寿命

第58話

健吾は仕事が終わると、まっすぐ由梨が待つマンションへ帰った。


「それでは、若頭、また明日お迎えに参ります」


「ああ、よろしく頼む」


「あのう、若頭、嬉しそうですね」


「はあ?いきなりなんだよ」


「いや、いつもは飲みに行って、マンションは寝るための場所だったのに、生活の場所になってますよね」


「当たり前だよ、由梨が待ってるんだからな」


「へい、そうでした、ではおやすみなさい」


裕也は健吾がエントランスに入っていくのを見届けて、車を発進させた。


健吾はいつもは部屋番号を押して、オートロックを自分で解錠するのだが、インターホンを鳴らした。


一回、二回、インターホンが鳴り、由梨の可愛らしい声が聞こえた。


「は〜い、どちら様ですか」


「由梨、帰ったぞ、開けてくれ」


由梨はオートロックを解錠した。


エレベーターで最上階のボタンを押す。


エレベーターが上昇する時間が、今までこんなにも長く感じたことはなかった。


最上階に着くと、ドアが開く時間さえも、惜しいくらいに、早く開けよと開くを連打する。

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