第49話

「由梨、由梨」


由梨の声も聞こえず、手にも触れる感触がない。


健吾はガバッと起き上がり、部屋の中を見回した。


「由梨、由梨」


その時、部屋の外から声が聞こえた。


「失礼致します」


襖が開き、女将が入ってきた。


「西園寺様、おはようございます」


健吾は咄嗟に察知した、由梨は東條の元に帰ったのだと……


「女将、由梨は……」


「お連れ様でしたら、先程、おかえりになりました」


「そうか」


健吾は慌てる様子もなく、落ち着いていた。


予想はしていたのだ、由梨はもう健吾との最後の夜のつもりだったんだと。


(何でだよ、俺はそんなに頼りないのか)


「西園寺様、お連れ様からありがとうございましたとの伝言を承っております」


「わかった、色々世話をかけたな」


健吾は表に待機している車に乗り込んだ。

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