第32話

健吾は咄嗟の出来事に戸惑った。


じっと見つめていた視線を逸らし、部屋から出ていった。

(どう言う事だよ、今、由梨がキスしてきたよな)


健吾は心臓の鼓動が早くなるのを感じた。


(でも、契約の役割を実行しただけだよな)


ドアの向こう側で由梨もドキドキが止まらなかった。


(私、なんて事しちゃったの、自分からキスしちゃうなんて、絶対に嫌われたよね、


でも、私は確信した、西園寺さんが好き。


しかし、好きになってはいけない。


私は東條優馬のフィアンセなのだから、そして父の残した借金を


払わないといけない。


西園寺さんとは結婚出来ない、愛を望んじゃいけない。


唯一、叶うとすれば、西園寺さんにはじめてを捧げ、抱きしめてもらう事。


毎月の手当てはまとめて返そう)


健吾はアパートの階段を降りて、待機していた裕也の元に戻った。


「若頭、随分と早いお帰りで」


「飯食っただけだ」


「えっ、彼女を抱かなかったんですか」


「由梨は俺の指示で服を脱いだ、無理をしていると感じた、身体が震えていたんだ、そんな女を抱けねえだろ」

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