第23話

「お名前をお聞かせください、改めてお礼させて頂きます」


由梨はちょっと躊躇していた。


極道の人と関わりは持ちたくないのが本音だ。


でも、名前だけなら、それにもうすぐ引っ越すし……


「夕凪由梨です、私は大したことはしていませんので、お気になさらないでください」


由梨は足早に病院を後にした。


由梨はこの後父親の会社が倒産して、借金を払う人生がスタートしたのだ。


借金を払うため、必死に働いた。


闇金にも手を出した。


仕事も、住むところも転々とした。


他のことは何も考えられなかった。


そんな時、東條ホールディングスの仕事が決まり、返済の目処がたちそうだった。


質素な生活をしながら、なんとか人間らしい人生を送れる、そう思っていた矢先に、


会長との契約を持ち出されたのだ。


「君は相当の借金があるんだな、本来なら解雇を申し渡すところだが、我が社を辞めることは出来ないだろう、どうだね、息子のフィアンセとして契約してくれたら、今回の解雇件はなかったことにしよう」


(私は一生借金を払い続けて、一生会長に雇われる身なんだ)


その時から由梨の記憶はリセットされた。

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