第13話

(命の恩人って、そんなこと記憶にない)


「お願いですからお帰りください」


由梨に背中を押されて、ドアの外に追い出された。


ドアは閉まり無常にも鍵がかかる音が響いた。


「おい、由梨、俺は諦めないぞ、また飯を食わせてくれ、由梨の飯はすげえ美味かった」


健吾の言葉はすべてはじめて言われたことばかりだった。


健吾を信じられないと思いながら、心臓の鼓動が警鐘を鳴らしてる。


由梨は少女のようにときめいて、健吾に惹かれ始めていた。


夜は一睡も眠れず、朝を迎えた。


健吾も同じだった。


由梨とのキスは健吾の独占欲に火をつけたのだ。


(東條優馬に触れさせてたまるか)


次の日も健吾は由梨のアパートへ向かった。


しかし、ドアをノックしても応答がない。


(仕事から戻らないのか、それとも居留守か)


辺りは闇に包まれて街灯がつき始めた。


でも由梨の部屋の電気は一向につく気配がない。


(俺は無視されてるわけじゃねえな)

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