第8話

「えっ、俺、好きな料理だ」


そう言ってニッコリ微笑んだ健吾の笑顔に、由梨は安堵した。


いきなりプロポーズしたり、ドアの前に座り込んだりするヤクザの若頭。


こんな素敵な笑顔をするなんて、誰が想像出来るだろうか。


由梨は気が緩んでクスッと笑った。


健吾は由梨の笑顔に思わず腕を引き寄せ抱きしめた。


「きゃっ」


「少しこのままでいてくれ」


健吾は由梨を強く抱きしめた。


抱きしめた由梨の身体は震えていた。


健吾はまずいと思い、身体を離した。


「悪い、怖がらせたな、すまん、つい思いが溢れた」


「あのう、私、初対面ですよね、なんでプロポーズされたんですか」


「俺は由梨と初対面じゃねえ」


由梨は健吾の言葉に驚きを見せた。


由梨のアパートは三部屋の二階建てで、由梨の部屋は階段側のため、奥の二部屋の住人は、


由梨の部屋の前を通ることになる。


丁度帰りの時間帯のため、通路に健吾がいると迷惑になるのだ。

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