第29話
彼はそう答えて、車を会社に走らせた。
「美希ごめんな、今度の休みまた出かけような」
「大丈夫です」
社に戻ると、早川社長が待っていた。
早川社長は彼の仕事仲間である、大学時代からの親友、いや悪友と言った方がいいかもしれない。
「鏑木、社長就任おめでとう、これでやっと俺と一緒のラインに立てたな」
「別に社長になりたかった訳じゃない」
東條さんに教えてもらったのだが、犬猿の仲なのか必ず衝突するらしい。
私は挨拶も含めて社長室にお茶を運んだ。
「紹介するよ、俺の秘書の藤城だ」
彼は早川社長に私を紹介した。
「はじめまして、鏑木の秘書の藤城と申します」
「ヘェ?美人だな、鏑木、お前には勿体無いよ」
そう言って席から立ち上がり、私に近づいて来たそして名刺を差し出した。
「早川と申します、今度お食事でもご一緒に如何ですか」
早川社長から名刺を差し出され、受け取ろうとすると、彼が二人の間に割って入ってきた。
「名刺は東條が管理している、藤城に渡す必要はない」
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