お茶会
「あの、ルシナ様」
「何かしら」
「これはいったい……?」
目の前にずらりと並びたてられた菓子の数々を見て、思わず半眼になった。
「甘味は嫌いだったかしら」
「いえ、そういうわけでは」
ただ、なぜ今こんなことになっているのか、説明が欲しい。
いや、記憶はある。
中庭で、ルシナと一緒に歩いていた。
オリビアを撃退してくれた時の感想を、彼女に伝えた。
ルシナが笑った。穏やかに、微笑んだ。
そこまでは覚えている。流れも理解できる。
だけど、その後何んとなしに立ち寄った東屋に、なぜか大量の甘味が用意され、茶会の用意が整っているこの状況だけはどうしても理解ができない。
「私か主催する茶会よ。お客はあなた。どうぞお座りになって」
促され、戸惑いはそのまま椅子に腰かける。
ルシナも向かいの席に座り、用意されていたティーカップを手に取った。
無駄のない、流れるような手つきでカップに口をつけ、ゆっくりと中身を飲んだ。
その姿がとても絵になる。
「私、柑橘の香りが好きなの。だから今回はオレンジティーを用意したわ」
ティーカップを置き、口元を拭いて言った。
優美な微笑みが目の前にある。
「あなたはどの紅茶が好みかしら?」
とても凛とした顔立ちをしているのに、その瞳の奥にある好奇心は隠しきれていない。
優しく笑ったと思ったら、相手を委縮させる目をする。かと思えば、子供のような好奇心を露わにする。
出逢って早々申し訳ないが、私はこのルシナ・オリヴェーティオという人物が全く理解できない。
「すみません、紅茶は詳しくなくて」
前世日本人の私は、西洋の紅茶より、どちらかといえば緑茶とか麦茶が落ち着く。
「そう。ならお菓子の方はいかが?上手く焼けたと思うんだけど」
「ルシナ様がお焼きになったのですか」
正直、このご令嬢が厨房に立って菓子を作っている姿は想像できない。いや、大変失礼なんだが。
というか、いつの間に用意していたのだろう。そんな時間あっただろうか。
疑問を感じながらも、勧められるがままにクッキーを一つ手に取った。何の装飾もない、ノーマルのクッキー。
サクリと一口齧ってみる。
「……美味しい」
お世辞ではなく、本当に。
甘さ控えめなビタークッキーだが、そのほろ苦さがこのオレンジティーとよく合う……と思う。
紅茶には詳しくないが、何となくそう思った。
「美味しいです、ルシナ様」
顔を上げてそう伝えると、ルシナはほっと胸をなでおろしたように息をついた。
嬉しそうな笑みを浮かべる。
「よかった」
そして、自分もクッキーを頬張る。
しばらく無言で、目の前の菓子を食べ続ける時間が続いた。。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます