前世のデジャヴ
(今世でもいじめ決定かな)
前世の日本では、いじめられていた女の子が、実は聖女か何かで、その力を使ってのし上がっていく系の異世界転生漫画が流行っていたっけ。
そして大抵、主人公をイジメていた令嬢たちは、主人公にベタ惚れした王子たちにコテンパにやられ、最後には主人公の慈悲で仲直り。ハッピーエンド。
しかし残念ながら私は、転生者ではあるが聖女でも何でもないし、自分をイジメた輩を許す気などない。
慈悲など、とうの昔、それこそあちらの世界のごみ箱にでも捨ててしまった。
(せめてあまり大ごとにはしないでほしい)
「ちょっと、聞いているの!?」
前世のことを思い出して物思いにふけっていると、いつの間にか壁際に追い詰められていた。
イジメになれているとはいえ、大勢で囲まれるこの状況は、やはり居心地のいいものではない。
ここは「ルシナ様にはもう近づきません」とでも言って許してもらうべきか。
面倒ごとにしたくないのならそれがベストな方法だが、如何せん私とルシナは同室である。
あからさまに避けたりしたら、不審がられるだろう。
(大人しくするつもりだったんだけどなあ)
これ以上ウザ絡みされると、予定が狂う。致し方ない。
私はため息をつき、真正面の令嬢、伯爵令嬢のオリビア・キャロラインを見据えた。
「お言葉ですが、キャロライン様。無礼なのは貴女も同じかと」
「な……っ!?」
私の発言に言葉を詰まらせた令嬢たち。押し切れば、この場を切り抜けられるかも。
「この学校の校訓をお忘れでしょうか。『この学園にいる者、皆等しくあれ』……今日、入学式で説明されたばかりですが」
この学校の理事長は、随分寛大な心をお持ちのようだ。
階級に捕らわれず、時に平民ですら入学するミネルバ王立学園。
その基本原理は、校訓にある。
正直、偽善極まりないが、夢を見ることは悪いことではないと思うので黙っておく。
「あなたは明らかに私のことを下級だと見下している。事実なので否定はしませんし、礼儀は重んじるつもりですが、それでも、到底看過できるものではないということを、お忘れ無く」
でまかせだ。
いくら校訓で平等が謳われていたとしても、バックに大きな権力者がいれば関係ない。
入学して早々、退学するのにいったい何日かかるかしら。
それでも、頭に来たことは伝えておきたかった。
前世では、何も反撃できずに終わったから。
「下級貴族の、分際で……っ!」
オリビアの額に青筋が浮かぶ。
怒りに歪んだその顔が、いっそ可愛らしい。
「調子に乗るんじゃないわよ!」
右手が振り上げられた。
せめて上手に殴ってほしいと、どこか他人事のように思いながら痛みに備えて歯を食いしばったその時。
「何をしているのかしら」
凛とした声が響き、同時に取り巻きたちの恐れおののいた声が聞こえた。オリビアがさっと顔を青ざめさせる。
「ル、ルシナ、様……ッ」
私たちの左手前方、ちょうど廊下の曲がり角から、ルシナがこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。
図書室にでも寄って来たのか、手にはいくつか本を抱えている。
ルシナはオリビアたちを無視して、私の目の前に立つ。
「怪我は?」
私の目線に合わせて屈みこみ、顔を覗き込んでくる。
存外優しさに溢れたその視線に、驚いた。
「……ありません」
「そう。ならいいわ」
———ほんの一瞬。
今まで冷たさを帯びていたルシナの表情が、一瞬だけ微笑んだ。
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