隣席のご令嬢
◇◇◇
「隣、いいかしら」
入学式と言え、この学園では午後から普通に授業がある。
だから粛々と準備をしていたら、急に横から声を掛けられて驚いた。
顔を上げると、目の端を月光色の髪がさらりと流れていくのが見えた。
ルシナ・オリヴェーティオ公爵令嬢。
まさか四つ上の階級の御方から声を掛けられるとは。
「ええ、どうぞ」
無礼の無い言い方だっただろうか。
前世から変わらず、こういう畏まったならいは苦手だ。
「……失礼するわ」
ルシナは、少しの沈黙ののちに隣席に腰を下ろした。後ろの方から視線を感じるけど、気のせいだと思っておこう。
「……面白い本を読んでいるわね」
ルシナが、私が手に持つ本に目を向けて、小さくそう言った。私は少し驚く。
この本は、かなり前に出版され、今はもう市場には出回っていないもの。自分が読んでいてなんだが、よく知っているものだ。
「〝迷宮時計〟……私も好きよ」
くすりと微笑んだ彼女を見て、私は目を瞬かせた。あ、笑った。と思った。
案外、優しく笑うんだな。
「私はルシナ・オリヴェーティオ。公爵家よ。あなたは?」
姿勢を正し、こちらに向き直ったルシナを見て、私もまた、本を閉じた。
椅子から立ち上がり、制服のスカートの裾を持って、ゆっくりと頭を下げる。
それが、下級貴族が上流貴族への、挨拶の仕方だった。
「アナスタシア・ライリー。男爵家です。……以後、お見知りおきを」
願わくば、これ以上深く関わりたくなどないが。
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