アナスタシアとルシナ
アナスタシア・ライリーという人生
時は数か月前に遡る。
(和菓子が食べたいなあ)
窓際の席から青い空を見上げ、ため息をついた。
ここはミネルバ王立学園の新入生の教室だ。
周りは、入学式を終えたばかりの貴族の子息やら令嬢やらで埋め尽くされている。
(政治家の息子に侯爵家の娘、隣国の皇太子様まで居る)
今年の入学者は、高位の爵位を持つものが多いようだ。その中でも一際目立っているのが……
「ルシナ様だ」
「公爵家のルシナ様もこのクラスなのか……!?」
今しがた扉を開けてこの教室へと入ってきた女子生徒に、このクラスの全員の視線が注がれる。
月光色を映した、艶やかな長髪。
澄んだ翡翠色の瞳。
陶器のように白い肌。
誰もが認める絶世の美女。
彼女の名前はルシナ・オリ―ヴェティオ公爵令嬢。
まあつまり、とても有名な家のご令嬢なわけで。
「ごきげんよう、ルシナ様」
ほら、さっそく公爵家のおこぼれを貰いに来た子爵家の子息や令嬢が彼女に群がりだした。
私はその様子を冷めた目で見つめている。
利益でしか繋がりのない絆を結ぼうとする、愚かな生徒達。その末路がいかに悲惨かを、知らないで。
(まあ、私には関係のないことだけど)
朝礼を知らせるチャイムが鳴り、生徒たちはルシナの下から離れ去る。
私もまた席に着き、もう一度だけルシナの姿を横目に見た。
彼女はこの教室に入ってきてから、一度も笑っていない。
◇◇◇
私の名前は、アナスタシア・ライリー男爵令嬢。
家族や親しい者たちからは、アーニーと呼ばれている。
実のところ私は、転生者である。
幼少期に前世なるものの記憶を思い出してから、かれこれ十数年経つ。
初めは戸惑った転生生活も今になっては苦ではなく、むしろこちらの方が楽しい。おそらくそれは、私の前世に関係がある。
前世の名前は
その世界では、私はただの女子高校生だった。
ただの、クラスメイト達からいじめを受けていた、女子生徒だった。
最初にいじめを受けていたのは、当時仲良くしていた大人しい友人。その子を庇った途端、標的が私になった。
学生のイジメなんて低レベルで、私は全く相手にしていなかったのだが、それが相手の癪に障ったのか、どんどんエスカレートして行った。
友人は、私がいじめの標的に成り代わってまで助けたあの子は、自分が矛先から免れた途端、私を見捨てて、相手側についた。
その時は、私もそれなりにショックを受けたが、おかげでいい勉強になった。
友情なんて、絆なんて嘘っぱち。
そんなものは全部、偽りだ。
そして高校3年生になったある日、気が付いたらこの世界に、赤ん坊として生を受けていた。
前世で私に何が起こったのか、それは今でも思い出せていない。
今世こそは平穏に。
何の厄介ごとにも巻き込まれず、ひっそりと過ごしていきたいものだ。
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