再審のその後(弍)
「自覚はないか?」
幸人は頷く。
大王は、幸人の反応を確かめるように黙っていたが、やがて深くため息をつき、頭にのせていた帽子を乱暴に脱ぎ取った。
帽子を握った手を勢いよく机に打ち付ける。その衝撃で、書類が何枚か宙を待った。
ギョッとする幸人の前で、大王はガシガシと後頭部を掻きむしって唸った。
「こんなに糞面倒なことにぶち当たったのは幾年ぶりだ。凄いぞ。全くやる気が出ん」
威厳もクソもないその様相に、幸人は間抜けに口を開けた。
先程まで、自分を小僧呼ばわりしていた王はどこへ行った。ふてくされているその様は、見た目の年相応に見える。
しかし、それを許さない者が、この場に約1名いた。
「大王様、死者の前です。だらしない姿を晒すのはおやめください」
片眼鏡男の片眼鏡がきらりと光り、その口からは大王を諫める言葉が放たれる。
大王は気だるげに片眼鏡男を見上げた。
「あア?別に今さらじゃねえか。どうせこの餓鬼とは長い付き合いになる」
意味深に言い放ち、大王は立ち上がった。
身を翻し、扉へと向かっていく。
「大王、どこ行くねん」
オレンジ髪の男が、大王に問いかけた。
大王は目線だけでこちらを振り向くと、わずかに口角を上げた。
耳飾りがしゃらりと揺れる。
「————現世だ」
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