第10話

「それで、大王様」


世の中、常に不思議なことは尽きないものである。


例えば、不治の病とされていた者が突然元気になったり。

例えば、貧乏人が運よく宝くじを当てて、億万長者になったり。

例えば、いじめっ子がある日改心して、皆のヒーローになったり。


閻魔大王は博識であった。

故に、大抵のことは説明することができる。

不思議だ、分からないというそれは、己の知識や理解が足りていない証拠であり、知識さえあれば分からぬことなどないと、常日頃思っている。


しかし、そんな大王でも分からないことがあった。

それが今、この状況である。

何故、己より格下である秘書が大王を正座させ、説教を垂れているのか。

地位的に、普通逆じゃないか?


「ご説明ください。何故、死者の餓鬼と抱擁なさっていたので?」


にこやかであるが目元が全く笑っていない。

昔から、マジギレすると、識はこんな感じで怒るのだ。

大王は、眠気によってぴくぴくと痙攣する瞼を擦り、言い訳をせんと口を開いた。


「あれは別に、抱擁していたわけではない。突然あの餓鬼が寝落ちしおったから、抱き留めただけだ」


「では、何故そんな状況になっているので?」


「そんなこと知るか」


むしろこっちが聞きたい。

死者は通常、閻魔宮の奥——つまり大王のプライベートエリアには入れないようになっている。

それが当然の如く湧き出てきたのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る