第3話「出発前夜」

「パーティメンバーを連れて行かないのであれば、せめて武器くらいは支給しよう。これを持って行ってくれ」


 そう言って国王は側近たちに、一式の剣と盾を持ってこさせた。剣の方は鍔の部分に太陽を模した装飾がなされ、鞘に納められてなお神々しい輝きを放っている。盾の方は剣に比べて渋い臙脂色をしているが、中央にあしらわれた紅い宝玉が妖しい輝きを放っている。


「『太陽の聖剣 ガラティーン』と『不知火の盾』だ。どちらもイサベラの炎を制するのにきっと役立つであろう。持っていくがよい」


 これはありがたい。見るからに強そうだし、何よりもカッコいい。助けに来た勇者がこんなカッコいい武器を持っていたら、きっと姫たちもメロメロになること間違いなしだ。


「ありがたく使わせていただきます」


 俺は恭しく、聖剣と盾を受け取った。


「姫たちを頼んだぞ……」


 内心祈るような面持ちだろう。国王は最後にそう告げた。


「お任せください。必ずや救い出してみせますよ」


 俺は颯爽と立ち去りながら、背中を向けてそう残した。


 とはいえ、今日はもうすっかり遅くなってしまったな。出発は明日にして、今日は街にでも繰り出すとしよう。


         ***


 いい酒場でもないかと夜の街をぶらつく。


 選ばれし勇者だと、俺のことは街中に知れ渡っており、客引きのために声をかけてくる者も多い。


 なかなか魅力的な店が揃ってはいるが、どこも今ひとつ決定打に欠ける。そんな中、とある一つの店の看板が俺の目に止まった。


「ハーレム酒場~極上のハーレム体験を貴方に(はぁと)~」


 これは素晴らしい。ぜひとも行ってみたい。


 誤解の無いよう言っておくが、あくまでもマイフェイバリットは「百合の間に挟まること」だ。奇しくも結果的に得られるものはほぼ同じかもしれないが、あくまでもこの二つは似て異なるものだ。ハヤシライスとハッシュドビーフみたいなものだろう。


 たとえ一番好きなものがハヤシライスであろうとも、ハッシュドビーフだって美味しく食べられるだろ? むしろ好物の部類に入るはずだ。まあつまり、そういうことだ。


 少々御託が長くなってしまったな。早速極上のハーレム体験とやらを味わい尽くそうではないか。ぐへへ。


 早速入り口の前まで進み、料金表を見て足が止まる。さすがに高いな……。いくら勇者に選ばれたとはいえ、先日まで一介の村境警備員だった身ではとても出せない金額だ……。


 しかしこの手の店において、値段の高さというのは往々にして自信の表れであることが多い。この機会をみすみす逃すのはあまりにも惜しい……。


 何かよい方法はないものか……と店の前で葛藤すること数分。俺はふと、自身の背中で燦然と輝くそれの存在を思い出す。そうか、ちょうどいいものがあるではないか。


 こうしてはいられない。俺はとある店を探し、妖しく煌めく夜の街を駆け抜けて行ったのだった。

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