第2話「罠」
「お主がユーリ=ハサマールか……。なるほど。噂に違わず腕の立つ者のようじゃの」
目の前の玉座に座る初老の男性は、まるで俺を見定めるかのような目線を向けた後でそう言った。どうやら国王のお眼鏡にかなったようで一安心だ。
「最早一刻の猶予もない。早速本題へと移ろう」
俺のことを、任せるに足る人物だと判断したのだろう。内心の焦りからか、途端に急ぎ足で事を進めようという意図が見える。
そりゃ大事な姫たちを攫われたとなれば落ち着いてなんていられずとも当然だ。それでも他者にそれを悟られないよう振る舞おうとするその姿は、なるほど王たる器というやつなのだろう。
「偵察部隊からの情報によると、セーラとブレザは無敵要塞シラカワに囚われているそうだ。お主の最優先任務は、シラカワに乗り込み両姫を奪還することとなる」
最優先は両姫の奪還。スパイ映画のように無駄な戦闘を避けて、両姫と共に華麗に脱出できれば話は早いが……。
「とはいえ、シラカワの守備を任されている魔族『劫火のイサベラ』との戦闘はまず避けられないだろう……。イサベラは『ネトール四天王』の一角とも称される強力な魔族。普段村にちょっかいをかけてくるような連中とは、文字通り次元が違う相手だ……」
だろうな……。だからこそ魔物の相手に慣れた俺の出番という訳だ。
「お主の腕は信頼しているが……相手が相手だ。儂としても万全の支援をしておきたい。儂の側近をパーティメンバーとして同行させよう」
なるほど。確かに戦闘が避けられないとならば、パーティメンバーはいるにこしたことはない。ただし、一つだけ懸念事項があるが……。
「ウェイン。セト。前へ」
俺の心配をよそに、国王は側近の名を呼ぶ。すると、白銀の鎧に身を包んだ若い騎士と、風格のあるローブに身を包んだ初老の魔法使いが、俺と王との間に入った。
「こちらが聖騎士ウェイン。まだ若いがその腕は確かだ。そしてこちらが大賢者セト。かつては儂と共に戦った経歴もある大ベテランの賢者だ。歳老いてもその魔力は健在だ」
国王から二人の側近についての紹介を受ける。しかし、既に俺にとっては紹介の内容などどうでもよかった。
クソッ! やはり男か!?
特にあの聖騎士の色男! あんな奴を連れて行った暁には、せっかく姫を助けてもアイツに取られてしまう可能性が高い。賢者の方なら大丈夫かもしれないが、女性のストライクゾーンはどこにあるかもわからない。念の為、男は連れていかないに限る。
仲間としては強力そうなだけに残念だが、背に腹は代えられない……。
「せっかくのご紹介で残念ですが、私めのパッシブスキル『男NG』の効果により、男性がパーティメンバーにいると弱体化してしまい本領を発揮できないのです……。申し訳ありませんが、彼らを連れて行くことは適いません……」
苦渋を飲んだような顔を作りながら、国王へとお断りの言を述べる。
「そうなんですか……。お役に立てず残念です……」
「……」
心の底から残念そうに言う聖騎士。すごい良い奴だということがひしひしと伝わってきて少し心苦しいが、俺の野望を果たすためにはなおさら君を連れて行くわけにはいかないんだ……。許してくれ。
かたや見透かしたようにゴミを見るような目を向けてくる大賢者。お前みたいな出涸らしに負けることはないだろうが、生憎俺は石橋は叩いて渡るタチでね。
「そ、そうか。聞いたことのないスキル名だが……。まあよい。一人で戦うとなると厳しい戦いになるだろうが、健闘を祈る」
国王も少し困惑しているようだが納得してくれたみたいだ。
俺は内心で胸をホッと撫で下ろした。
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