勇者ユーリ=ハサマールの冒険

ぼんげ

第1話「旅立ち」

 俺の名はユーリ=ハサマール。


 王都トキオ郊外に位置するここサイタマール村で、村境警備の役職を任される勇敢な戦士だ。村に侵入しようとする魔物を倒し、日々村の安全を守っている。


 普段は至って平和な王都周辺なのだが、最近になって不穏なニュースが舞い込んできた。


 王都が誇る美人姉妹、王女セーラとブレザが、魔皇帝ネトールの手の者により攫われたというのだ。


 魔皇帝ネトールとは、魔界トチギンにその根城を構える魔族のトップだ。魔族のトップと聞いて想像するようなイメージとは反して、あまり争い事は好まず、普段は下級魔族が勝手に村まで進行してくる程度なのだが……。なぜここに来てこんな大掛かりな作戦を実行に移したのだろうか……?


 何はともあれ、この大事件の発生に伴い、すぐに国王より直々に、王女達奪還のための勇者の募集がかけられた。


 こうしてはいられない。何故ならば、我が野望を成就する為のまたとない機会が転がりこんできたのだから。


 俺の野望とは即ち「百合の間に挟まる」こと。


 考えてもみてくれ。穢れというものを知らない秘密の花園。神聖とまで言えるその関係性に、俺という存在が土足で踏み入りその愛情を独占する。こんなにも背徳的で素晴らしいことは無いと思わないか?


 セーラとブレザといえば、王都でも有名な百合姉妹だ。互いのことを好き過ぎて、数多有る婚約話を全て拒絶し続けているという逸話は、王都周辺の者に知らぬ者はいない程だ。


 しかし、そんな二人でも魔皇帝に攫われているところを勇者であるこの俺に救われたとなれば……いかんいかん。涎が止まらない。これから国王との謁見なのだからな。野望は内に隠しておかねばな。


 幸いなことに職業柄、魔物の討伐はお手の物だ。今までも、数多のゴブリンやスライム共が我が相棒「ボウ・オブ・ヒノキ +10」の錆となっていった。


 王国もそんな俺の働きを評価したからなのか、この度勇者一号として抜擢される運びになったのだ。


 しばらく歩くと、王都の城門が現れる。警備にあたっていた二人の門番に自らの身分を明かすと、どちらも最敬礼をして俺のことを迎えいれてくれた。俺が勇者として選ばれたことは、すっかり王都中に知れ渡っているらしい。


 門をくぐり城下町に一歩足を踏み入れれば、町中からたちまち歓迎の嵐が吹き荒れる。なるほど、これが勇者の特権というやつか。存外に悪くないものだ。


 すっかり気分をよくした俺は、上機嫌で町民に手なんか振りながら城の方まで歩いて行く。


 すると、目の前に一回り以上身なりのいい男が現れ、恭しくかしずきながら言った。


「勇者ユーリ=ハサマール様。お待ちしておりました。さあこちらへ。国王の元へとご案内させていただきます」


 城からの使いのようだ。お偉いさんになったみたいで大変気分がいい。


 俺は抑えきれない高揚感を何とか隠しつつ、案内に従い国王の元へと向かうのであった。

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