第5話 広がる世界

 それ以来、白石さんはよく僕に話しかけてくれるようになった。

 僕が喋れないことを気にする様子もなく、彼女はいつも明るく話しかけてくれる。

 その無邪気さが、不思議と心地よかった。

 放課後、白石さんは僕に声をかけてきた。


「一緒に帰らない?」


 もちろん、僕は声を出して答えることができない。

 ただ軽く頷くと、彼女は満足そうに笑った。

 いつも一人で帰る道が、少しだけ違って感じられた。


 それから、白石さんはいろんなことを話してくれた。

 趣味や学校でのこと、どれも僕にとっては新鮮な話題だった。

 いつも一人で過ごしていた僕にとって誰かの話を聞くことがこんなにも楽しいものだとは、思ってもみなかった。


 僕の世界は、白石さんとの出会いで少しずつ広がり始めていた。

 それでも、過去の影が時折、心に影を落とす。


 中学時代のいじめの記憶が、ふとした瞬間によみがえり、心の中で冷たく響く。

 過去の呪縛は僕を縛り続ける。

 彼女の笑顔に救われる一方で、僕はその笑顔を拒絶しようとしている自分に気付いていた。

 僕は思わず暗い顔になる。


 そんな時、彼女は言った。


「私ね、昔、佐藤君に助けられたんだ」


 突然のことに何を言っているのかわからなかった。驚いて彼女の顔を見ると、いつもの笑顔とは違う、少し照れたような表情をしていた。

                                   つづく

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