第4話 お昼休み

 授業が始まると、僕は何とか彼女のことを考えないようにした。

 だけど、視界の端に映る彼女の存在が気になって仕方がない。

 どうして彼女は僕にあんなに自然に話しかけてきたのだろう。

 いつしか彼女のことが頭から離れなくなっていた。


 お昼休み。

 いつもより早く感じられた授業に少々驚きを感じながら、僕は一人、教室に残り、いつも通り目立たないようにじっとしていた。

 ただぼーっとしていればいじめられることはない。そんな風に思っていた時だった。


「ねえねえ」


 突然後ろから声をかけられた。

 驚いて振り向くと、そこには白石さんが立っていた。


「そういえばさ、名前ちゃんと聞いてなかったよね。何て名前なの?」


 心臓が飛び跳ねあがるのを感じた。

 どうして彼女は僕なんかに話しかけるんだろう。

 僕は一瞬迷ったが、声を出す代わりに、カバンの中からノートを取り出し、ペンを走らせ、彼女に渡した。


「佐藤 みのる……か。いい名前だね!」


 彼女は紙を見て満面の笑みを浮かべた。


「改めてよろしく、佐藤君!」


 僕は一瞬、何か言葉が喉の奥に引っ掛かるような感覚を覚えた。

 だが、結局何も言えなかった。ただ、彼女の笑顔に少しだけ心が温まるのを感じた。

 

                                  つづく


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