第3話 転校生②

 教室に響いた明るい声は、この重苦しい空気を変えるかのようだった。

 僕は思わず顔を上げ、その子を見つめた。

 長いポニーテールが揺れ、目が合うと彼女はにっこりと笑う。


「初めまして、私、今日からこの学校に転校してきた白石 優奈ゆうなです。よろしくね」


 驚いた。誰かが僕に話しかけてくるなんて何年ぶりだろう……頭が混乱する。

 それにどうして僕に……?教室には他にもたくさんの生徒がいるのに……


 「名前は?」と彼女は続けて問いかける。

 僕は慌てて視線をそらした。声を、出せないから、どう答えればいいかわからない。


 彼女はしばらく僕を見つめた後、気付いたかのように「あ、もしかして……」とつぶやき、何かを考えこむような顔をした。

 だが、すぐにまた笑顔に戻ると、明るい声で彼女は言った。


「ううん、いいよ、気にしないで」


 彼女はすぐに席に向かったが、何か違和感が残った。

 彼女の一言が気にかかったのだ。


 『もしかして……』まるで僕のことを知っているような、そんな感じがした。

 でも、そんなはずはない。

 今日初めてであったはずだし、僕は目立たない存在で、誰も僕に興味を持つことなんて無かった。


 ――白石 優奈。どこかで聞いたことがある……

 

                                  つづく

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