第23話
聞くまでもなく、自殺未遂だった。
死にたくなるほど嫌な思いをしながら生きている人間なんて腐るほどいて、でもその人達だって頑張って生きてるんだから死んだら駄目だとか、無責任極まりない説教をするつもりなんてない私の心中をちゃんと見透かしてくれていたからか、メラちゃんは、治療が終わって半日が経過した頃、一度帰宅して再度来院した私に、呆然自失の体で語ってくれた。
彼女は学校でいじめを受けていたらしい。授業で作成したものを破壊され、良くできたデザインは盗作され、あることないこと教員連中に吹き込まれ、それを彼ら彼女らは疑うことなく信じ、むしろ盗作疑惑はメラちゃん自身に向けられたこともあったらしい。
それでもめげずに通い続けた一番の理由は、無理して学校に通わせてくれた両親への強い感謝の思いがあったから、ということらしいのだけれど、単純に自分自身、このまま耐えて、耐え続けて頑張っていれば、いつか認められる日が来るのではないか、日の目を見る日が来るのではないかと、言葉は悪いが、愚直なまでに信じていたのが、今回の自殺未遂に繋がった要因なのではと私は思う。
一方、パルテール内では、矢満田さんの些細ないじめも続いていた。
私がいるところでは、声を荒げることもなくなっていて、まあ少しは改心してくれたんだろうななんて、楽観視していた自分を殴り倒したいけれど、実は陰では陰湿な嫌がらせを受けていたと、ベッドに横たわったまま、メラちゃんは震える声で教えてくれた。
きっと、何事もなく学校に通っていたなら、バイト先でちょっとくらい嫌な思いをしても解消できるだろう。
反対に、バイト先で楽しい時間を過ごせるのであれば、学校の人間関係が嫌でも、救いはあったのかもしれない。
しかし、彼女はその両方で心にダメージを負わされていた。
そして更に、学校に通うため、地元から離れて一人暮らしをしているので、仲の良かった友達とも疎遠になり始めていることもあって、彼女の話を親身に聞いてくれる存在は皆無だったことも問題だった。
そんな中で、唯一、頼りにしてくれていたのが他ならぬ私らしいのだが、頼られたことなどあっただろうかと記憶を探るけれど、相談どころか、弱音を吐かれたことすらほとんどなかった。
いつも笑っている人間は幸せだから笑っているんだなんて、牧歌的どころか平和呆けとしか言いようがない人間を毛嫌いしている私が、まさか彼女は辛い思いなどしたことがないのだろうと決めつけていたなんてことはもちろんなくて、でもじゃあ、きっと大きな悩みを抱えながら――あの笑顔の裏には、眼球が零れ落ちるほどに流した大量の涙の跡があるのだろうとか、そんな風に考えたことは一度もない。
間の抜けた私は、彼女をただ、私を癒してくれる存在としてしか見ていなかった。
マスコットのように。
玩具のように。
ペットのように。
彼女を、表も裏もある、極々あり触れた一般的な人間として認めていなかったのではないか。
自分のことだけを考えて――自分が一番大変だ、一番辛い思いをしているんだ――そんな風に被害者を気取って、ただひたすらに彼女の好意や善意を甘受しているだけだったのではないか。
他者と接する時、常に根底にはそんな被害者意識が燻っていて、どこか相手を見下したような、突き放しているような、最低な態度で接していたのではないだろうか。
――虫唾が走る。
恥ずかしいなんて言葉では済まされない。
身内を失った今となってはある意味一番身近な、一番大切な存在である彼女を蔑ろにしていた自分が許せない。
許せないけれど、私が自分を許そうと憎み続けようと、メラちゃんはもちろん、私が無意識に蔑視してきたであろう多くの人たちにとってはどうでもいいことで、どう贖罪していいのかも私には分からないけれど、こんな私はメラちゃんと一緒にいていいのだろうかという自問に苛まれる。
「咲苗さんは全然悪くないです。本当に」と言ってくれたメラちゃんだったけれど、私と同棲生活を始めて間もなくこんなことになってしまったことを、私は偶々タイミングが悪かっただけとは考えることなんてできないし、それどころか、毎日顔を合わせていながら、彼女の置かれている境遇や環境に一切配慮してあげられなかった自分に対して不甲斐なさしか感じられない。
でも私は、彼女の家を出てはいかなかった。
「今、咲苗さんまでいなくなったったら私――」
暗に自殺の再チャレンジを仄めかされている気がして、本心を言ってしまえば気分の良いものではなかったけれど、確かに彼女の言う通り、ここで私が出て行ってしまえば、彼女に愛想を尽かし出て行ったとしか取れないだろうし、心開ける友人知人が近くにひとり足りともいない今の彼女をひとりにするのは気が引ける。
「大丈夫。まだもう少しだけ厄介になるから、とにかくメラちゃんは早く元気になろ?」だなんて優しい言葉を掛けつつも、心の中ではどうしたものかと
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