第19話

 父が逮捕されたというニュースを知ったのは、あろうことか夕方のテレビ番組からだった。


 普通、家族が逮捕されたら身内に連絡を入れるものじゃないの? と疑問も湧いたけれど、身内といってもどこからどこまでが身内なのか、そして、扶養されている幼い子供ならまだしも、娘だからといって、とっくに成人している熟女手前の女にとって、父親が今どこで何をしていようとそれほど関係ないとも思われるし、昨日の今日で連絡が来ることなんてないのかと思い直す。


 報道を信じるならば、どうやら彼は覚醒剤取締法に抵触したらしい。


 詳しいことは公表されていないみたいだけれど、五百グラムの覚せい剤を所持していたとのことで、それを売り捌いて生計を立てていたと、若く滑舌の悪いニュースキャスターが言っていた。


 たったの百グラムなら大した罪にはならないんだろうなと素人の私は思っていたけれど、どうやら覚せい剤とは0.01グラム程度の使用量でも覚醒できてしまう代物らしく、じゃあ百グラムって一生分じゃんとか、どうでもいい方向へ思考が流れてしまった。


 しかし、後日、警察がパルテールを訪れる。


 なるべく仕事に支障がないようにと配慮してくれるようで、あくまでも参考人として話を聞きたいから、時間の都合がつくときに警察署まで来て欲しいと頼まれた。


 参考人といっても、父親が覚せい剤所持で捕まっているので、間違いなく私も関与が疑われていて、これは先に弁護士に相談したほうがいいのかしらとも考えたけれど、父の薬売買に関係ないどころか、もう十年近く父とは碌に会話すらしたことがなかったので、どこで何をしていたのかはもちろん、部屋でくだを巻いている姿しか知らなかった私が語れることなど何もない。


 とはいえ拒否もできないので、仕事終わりにその足で最寄りの警察署に出頭する。まあ、実際は拒否もできたのかもしれないけれど、変に意地になって痛くもない腹を探られるのも煩わしいし、疑ってかかられるのは構わないが、私は捜査に役立つことも言えなければ、実は私も使用者ですだなんてオチもないですよと、開口一番告げると、誤解されているようですが、疑いの目で見ているなんてことは全くありませんのでご安心くださいと年配の刑事に言われるが、この発言にも何か裏があるんだろうななんて勘繰りたくもなってしまった。


 結局、特に決定的な証言をすることもなく、当然私が関与していると疑いを深められるようなこともなく、数時間適当に相槌を打っていたら解放され、もしかしたらまたお話を聞きに行かせてもらうかもしれませんと帰り際に言われたので、何度もお店に来られるのも鬱陶しいし、変な噂が立たれても困るので、ここに連絡くださいと電話番号を書き残し、警察署を辞した。


 父に面会できるのか訊こうかとも思ったけれど、多分無理だろうなとも思ったし、何より話すことなど特にない。


 どこかの拘置所にいるのだろうけれど、父に対する不満や心配などよりも、ただただ、捕まる前に祖父のことをやり終えてくれたことだけは有難いなと思った。


 警察がその猶予をくれたのか、それとも容疑が固まっていなかったのかは知らないけれど。


 父と祖父。


 あんなにも煩わしく感じていた肉親二人を、それぞれ違う形で失ってしまった。


 あれだけ焦がれていた自由の身になった私は、自由を手にした今、喜びや開放感よりも、脱力感が勝り、色んな感情がい交ぜになってしまったのか、警察署の裏手にあるコンビニとマンションの僅かな隙間で、迷子の子供の様に激しく泣きじゃくった。

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