第4話 嫉妬

 公園のベンチに座る悠と雪。

 「悠……他に好きな人ができたんでしょ?」悠の彼女、雪が言った。

 「どうした? 急にそんなこと言って……」雪に聞き返す悠。


 「友達が見たって、悠が年上の女性と一緒にいるところ……」

 「ああ、あれは、その……友達のお姉さんで、

届け物したらお礼に食事をおごってもらったんだよ。それだけだけど、疑ってるの? 俺のこと」悠は苦し紛れの嘘をついた。


 それを聞いた雪は、

 「なんだ、そうなんだ。私、てっきり悠が別の人好きに

なったのかって心配になって……嫉妬しちゃった」と安心した表情を見せた。


 「雪、何いってんの?」悠は笑いながら雪の頭を撫でた。

 「ねぇ~、悠、今夜悠の家に泊まりに行って

いい?」雪が言った。

 

 一瞬無言になった悠だったが、ニコリと微笑むと

 「ああ、いいよ」と言い女の手を取り歩き始めた。



 その日の夜、大野が七星に言った。

 「七星、今晩泊まっていくだろ?」

 彼の言葉を聞いた七星の表情が変わった。


 彼女の表情を見た大野が更に続けて七星に

聞いた。

 「七星、どうかした? 最近変だよ」

 「そうかな? 仕事で疲れてるのかな」

 そう答える彼女を彼は後ろから抱きしめると囁いた。

 「だって、七星最近俺を求めないだろ?

 誰か他のヤツのこと考えてるんじゃないか?

 俺たち来年結婚するんだよな?」


 それを聞いた七星は特に動揺することもなく

落ち着きをはらった表情で、

 「そんなことないよ……」

 と彼の顔を見ながら呟いた。


 「じゃあ、あなたとのことは何でもないって、

七星の言葉でちゃんと真城君に伝えてあげて……

彼が変に誤解しないうちに」大野が真顔で彼女に言った。


 彼の真剣な表情に少し戸惑いを見せた七星だったが、

大野の首に手を回すと「わかった……」と短い返事をした。


 「七星、ごめん。俺、教え子に嫉妬して

カッコ悪いよな?」

 「そんなことはないよ……ごめんね。私が悪い」七星が呟いた。


 大野は、彼女に優しく微笑み、

 「七星、おいで……」と言うと彼女の手を握り寝室へ連れて行った。

 程なくして寝室の灯りが消えた。


 窓ガラスに雨の雫が無数に流れ落ちる……。

 流れ落ちる無数の雫が自分の涙のように

見える……と大野の腕の中で思う七星だった。

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