第3話 重なり合う偶然……そして

 悠が七星と再会してから、二人は色々な場所で

ばったり出くわすようになる。


 コンビニの飲料水置き場の前……。

 駅の改札口……。

 図書館の閲覧室……。

 お昼時のお弁当屋さん……。


 そして、本棚に手を伸ばした瞬間に悠と七星は

互いの手が触れると互いの顔を見て、

微笑みながら見つめ合う。


 重なり合う偶然、

偶然の後に交わされる短い会話は少しづつ長い時間に変わっていき、

いつしか連絡を取り合うようになり、

二人で会うようになっていった。


 傘盾に並べて置かれた雨に濡れた二本の傘……



 二人で過ごす時間、雨はこの日も降り続く。

 悠は、彼女の優しさにどんどん惹かれていく。

 そして、七星も優しい悠に惹かれていくのがわかる……。


 でも……二人にはわかっていた。

 口にだせない言葉……

口にしてはいけない言葉があるということを。


 このままではいけない……

一線を越えてはいけない……

でないと後戻りできなくなる……ということも。


 彼女はそっと彼に近づくと彼の前髪を優しくかきあげた。


 潤んだ彼女の瞳はまっすぐに悠の瞳を

見つめると、彼女の唇が悠の額に触れた。


 「七星さん?」と悠が聞いた。

 彼女は無言で微笑んだ。

 そんな彼女の表情を見た悠は彼女の

手首を掴んだ。

 

 彼を見る七星は、ゆっくりと首を横に振った。

 握られた悠の手を離すと、彼女は彼の前から歩き去った。


 空が暗くなってきた。

 風に流された雨雲が空いっぱいに広がっていくのが見えた。


 もうすぐ……雨が……降る……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る