第8話

自分の寝室の扉を開けると、久しぶりにニック以外の人と関わった疲れがどっと来てしまったようで、酷い眠気に襲われる。早くベットに入って寝てしまおう。

……それにしても、今日は舞踏会に行って本当に良かった。家に引きこもっていてはシドに会えなかった。

シド、その名を心の中で唱えるだけで顔が熱くなりそうになる。今日で会ったばかりなのに、もうすっかり俺はシドの虜になっていた。早くシドに会いたい。会いたい。会いたい。

その気持ちを抑えながら、目を閉じる。

しかしまぶたの裏に浮かんでくるのはシドであった。

――次の舞踏会は、1ヶ月後の9月12日。

長い。長すぎる。俺は今すぐにでもシドに会いたいのに。1ヶ月も舞踏会が無いなんて、俺はこの気持ちをどうやって消化したらいいんだ。ああ、早くあの声が聞きたい。あの素敵な口から発せられる言葉と声で俺の心を掻き乱して欲しい。そしてそのまま俺と踊って欲しい。手を握って踊りたい。俺と同じくらいの大きさの手だったが、すらっとしていて綺麗な指だった。爪も手入れされていて、光が反射してつやつやと輝いていた。早くあの手を握って踊りたい。

シドの全てが俺を狂わせている。……今日初めて会った人なのに。シドが俺に声をかけてくれたのは運命だったのかもしれない。ここまで惹かれているってことは、もしかしたら俺がこの町に引っ越してくることも必然的であったのかもしれない。そして、あの時、シドが俺に声をかけたのも。俺のどこに魅力を感じたのかは分からない。仮面をしていても隠しきれない陰のオーラに、オドオドした喋り方、ボサボサの髪。どこを取っても魅力なんてないのに、あの人は俺に他の人とは違う魅力を感じたと言った。確かに、他の人とは少し違ったかもしれない。悪い意味で。魅力とはなんだ。俺に魅力なんてあるか?……いや、あるということにしておこう。魅力のない俺と、存在自体が魅力の権化であるシド。そうなってしまえばあまりにも不釣り合いすぎる。シドが一緒に踊ってくれたということは、俺にも俺が気づかないだけで魅力があるんだ。そう思うようにしよう。

自分のことを見つめ直しているうちに、気がついたら俺は寝てしまっていた。

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