第7話
フワフワとした気持ちのまま、気づいたら家に帰ってきていた。どうやって帰ったのか、どこでニックと合流したのか、記憶が曖昧だった。
俺の頭の中には、シド、その男しかいなかった。
次はいつ会えるだろうか。また、仮面舞踏会には参加するのだろうか。次の舞踏会はいつなのか。阿呆みたいな疑問が沢山浮かんでくる。ああ自分は浮かれているんだ、そう自覚せざるを得なかった。
「なあ、ニック。」
「なんだ?疲れてるから早く寝させてくれ。」
「すまん、……次の舞踏会って、いつあるんだ?」
「なんだギャレット、最初はあんなに行かないって言っていたのに気に入ったのか?」
こんな風に茶化されるだろうということは分かっていた。確かに最初は行きたくなかった。俺は人が嫌いだ。けれど、シドに会いたいという気持ちは誤魔化しのきかないものだと心のどこかで気がついていた。
「ああ……気に入った。次も行こうと思う。」
「そうか……それは良かった。次は1ヶ月後の9月12日だ。俺は仕事が忙しくなるから行けないが……お前は行ってもいいぞ。」
「……1人で行かせる気か?」
シドに会いたい、その気持ちと、1人では行きたくない、その気持ちを天秤にかける。
「しょうがないだろ。城までの道は今日覚えただろうから、行けないことはないだろ?」
「……そうだな。いい。1人で行くよ。」
結局、シドに会いたいという気持ちの方が勝ってしまった。まあ、今回もホールではほとんどニックと別行動だったし、ニックの言う通り行けないことはない。
「そういえばお前……女性に怒鳴られてなかったか?」
バレてた。笑えない。あんな場面誰にも見られたくなかった。まさかこいつにバレていたとは。
「しょうがないだろ……踊りが下手すぎるって文句を言われたんだ。そこまで言う必要ないだろうに……」
「ははは。まあしょうがないさ。練習していなかったんだからな。」
そう言うこいつはどうなんだ。こいつは、踊りが下手だと怒鳴られたりはしなかったのか。まさか俺だけなのか?
「お前はどうなんだよ。下手とか言われなかったのか?」
「言われてないさ……まあ、さすがに少し表情には出されていた気がしたけど。仮面で顔が見えなくとも、なんとなく雰囲気は分かるものだよな。」
言われてないのかよ。クソっ。俺だけ酷い目にあってるじゃないか。まあでも……こいつは俺より上手く踊ったんだろう。こいつは器用だし、なんでも出来るから踊りもそれなりに踊れたに違いない。俺と違って。そして……仮面で顔が見えなくとも雰囲気は分かるって言うのには俺も同意だ。……シドの輝かしい雰囲気は、仮面をしていても感じ取れるものがあった。あの人は周りとはまるで違う。
「まあ、舞踏会が気に入ったって言うんなら、踊りの練習でもしたらどうだ?……と、その前にお前は仕事探せよ!」
「それは……ぼちぼちな。踊りの練習はするさ。また怒鳴られたくないからな。」
唐突に仕事という痛いところを突かれて俺はたじろぎそうになった。それはともかく、踊りの練習はしなければならない。折角参加するのだから、また怒鳴られたくはない。シドとまた踊れるかは分からないが、踊る機会があったら今日のように下手な舞では引かれてしまうかもしれない。練習をしておいて損は無いだろう。
じゃあ俺は寝るからな、とニックは寝室に向かってしまった。俺も寝よう。
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