第6話
たしかにうずくまってたから心配されたのは分かるが、「あの人」って、何のことだ?俺なんかしたっけ?
「体調が悪いのでなければ、一緒に踊りませんか?私、貴方のことがとっても気になるんです。」
何を言ってるんだ?こいつは。踊りの下手な俺を馬鹿にしようとしているのか?いや、でも……
仮面で顔が隠れていてわからないが、そんな雰囲気は感じない。
「……少しだけなら。」
気づいたら俺は了承していた。こいつとなら踊ってもいい、こいつなら俺の踊りを馬鹿にしないだろう。なんだかそんな気がしたのだ。
「ありがとうございます。」
そう言いシドという男は俺の手を引っ張る。
「お名前、なんていうんですか?」
「……ギャレット。」
「ギャレットさん、ですか。とってもいいお名前ですね。私はシドといいます。よろしくお願いしますね。」
「……おう。」
踊りながらも今日に喋ってくる。
なんだか、こいつの声は、不思議と落ち着く。
さっきまで人混みで体調も良くなく、気分が荒んでいたことを自覚していたが、少し落ち着いた気がする。
なんなんだ、こいつは。一体。
「……なんで俺を誘ったんだ?」
「……笑わないでくださいね。なんだか、貴方からは他の人とは違う魅力を感じたんです。」
「……なんだそれ。」
本当に、何を言っているんだ、こいつは。
そう思う心とは裏腹に、高鳴る鼓動はシドに自分が少しずつ惹かれていっていることを示していた。
仮面で隠れているが、綺麗な顔をしているのだろう。薄く形のいい唇がそれを物語っていた。
そして、フワッと笑った時のその口元。
つい綺麗だと口に出してしまいそうなほど、儚くて素敵だった。
そして、最もはその踊り。
長い手足をしなやかに動かすその姿は何者にも形容できないような美しいものであった。
さっき遠くで見ただけでは分からなかった。指1本1本が意志を持ったかのように動いている。
それに惹かれずにはいられなかった。
ああ。こうやってファンが増えていくのか。そう思うとさっきの歓声も納得だった。
「踊って下さり、ありがとうございました。ではまた、どこかで。」
「……こちらこそ、ありがとうございました……」
一瞬、言葉を失っていた。
まるで夢を見ていたようだった。そう思うほど、彼の魅力は底知れなかった。
――また、どこかで。
その言葉を信じよう。
またどこかで、いや、また必ず会いたい。そして、また踊りを交わしたい。
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