第5話

……けっ、あんな踊りくらい俺でもできるっつーの。あんなんで歓声浴びてんのかよ。この町も大したものじゃないな。


「ギャレット、お前の醜い逆張りな部分が出てるぞ。」

「……お前はいつも俺の心を読んでるみたいに……」

「実際お前は分かりやすいんだよ。」


確かにニックの言う通りだ。俺は逆張りしがちな部分がある。あいつ、シドも本当は凄いのだろう。俺は本当に性格が悪い。


「それはともかく、お前も誰かとペア組んで踊ってみろよ。それが楽しみってもんだぜ。」

「分かってるって……」


少し人混みがマシなところに行ってみる。

やっぱり俺は人が苦手だ。自分から話しかけることもできない。仮面を付けているからまだマシだが……

誰か話しかけてくれ、と願いながら柱に寄りかかって立っていると、1人の女性が話しかけてくれた。


「そこの茶髪のお兄さん。」

「……あ、俺ですか?」

「そうそう。貴方です。一緒に踊りません?」


真っ赤なリップに派手な仮面。

俺の苦手な人種だ。しかし断るのは印象が悪すぎる。

ちょっとだけ踊って、すぐに離れよう……




「……っ、ちょっと、貴方下手すぎません!?」


踊りが終わり、気がついたら暴言を吐かれていた。


「あっ……っと……すみません。」


本当はめっちゃくちゃに言い返したい。言い返して言い返して、こいつの精神をめちゃくちゃにしたい。なんなんだコイツは。やっぱり最初から断っていればよかった。だから苦手なんだよ、こういう女は……


「……はあ、もう帰りたい……」

「ちょっと、なんてこと言うんです!?私の踊りがダメだとでも!?」


ぼそっと言った小言はどうやら聞こえていたようで、また大声で怒鳴られる。本当に苦手だ……そして、本当に帰りたい。

しかしニックを置いていくのはダメだろと自制する。ニックは今ホールのどこにいるのかはわからないが、あいつもまともに踊りの練習なんかしてなかったし、俺と同じような状況になってるだろ。いや、なっていてくれ。俺だけこんな目にあうのは不憫すぎる。


もう声もかけられたくないと、柱の元にうずくまって座っていた。聞こえてくる人の声も、音楽さえも鬱陶しい。

もう誰も俺に構わないでくれ。

うるさい。

うるさい。

うるさい。

うるさい。


「大丈夫ですか?」


頭上から男の声がする。

なんだよ。話しかけるな。俺に。


「……っ、うるさ……」

「よかった。あの人だ。」

「……は?」


見上げると、そこに居たのは先程まで歓声の中にいたシドという男だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る