第4話

「――仮面舞踏会?」


新居に引っ越して5日後のこと。どうやら明日、城で仮面舞踏会なるものが開催されるらしい。


「そうそう。仮面舞踏会。お前、参加しないか?」


仮面舞踏会って……俺は人と関わりたくないんだ。放っておいてくれ。


「行かない。お前は勝手に行ってくれてもいいけど、俺は行かないからな。」

「まあそんなこと言わずに……この町の人と親睦を深めるチャンスだろ?」

「断固拒否だ。人と関わりたくないんだ。俺は。」


そう。断固拒否。ニックが何を言っても、絶対に行かないからな。


「そんなこと言ってると……お前、この町の人に舐められるぞ?」

「……は?」

「あの家は、仮面舞踏会にすら参加しない引きこもりの家だ、って言われるって言ってるんだ。実際、この町の人のほとんどが参加しているらしいしな。」


何を言い出すんだこいつは。

俺が……この俺が、舐められるわけないだろ。

俺は他人に舐められるのが大嫌いなんだ。

でも……ほとんどが参加しているのか。それじゃあ本当に舐められるかもしれない。

クソっ……


「……っ、いい。参加するよ。」

「そう言うと思った。」

「どういう意味だ!!」


上手くニックの手のひらの上で転がされているようで悔しい。しかし舐められたくはない。参加も仕方ないことだろう。


「舞踏会は夜8時から。仮面はもう買っておいたから、お前もそれつけて行けよ。城までは一緒に行ってやる。」


こいつ、もう仮面を買っていたのか。用意周到だな。

城までの行き方はなんとなくしか分からない。ニックはよく知っているようなので、案内してもらおう。

そして今日は……しっかり風呂に入ろう。なんなら、明日も舞踏会の前に入ろう。







真紅のカーペット。優雅な音楽。その先にはいかにも重そうな大扉。

ここを開けばホールらしい。


「城の中は俺も入ったことなかったから初めてだ。目が眩むくらいの豪華さだな……」


ニックの言う通り、本当に目が眩む位の豪華さだ。

そして、この先のホール。どんな景色が待ってるのか。

俺は扉を開く。


「っ、凄い人だな。」

「ああ。迷わないようにしろよ。」

「迷わねーし!!」


ニックと軽口を叩き合いながらホールへと入っていく。

ものすごい人混みだ。既に吐きそう。

俺は人が苦手だし、人混みも苦手だ。

やっぱり来たのが間違いだったか……


「キャーーーーー!!!」

「かっこいいわ……さすがね。」


どうやら人混みの中心には誰かがいるらしい。

黄色い歓声が耳を劈く。


人波にもまれてもまれて、もう俺の精神はボロボロだ。早く家に帰りたい。人も多すぎるんだよ。なんだよこれ。

気づいたら人混みの中心付近まで来てしまっていた。ずっと下を向いていたから前の様子はわからない。折角だし、黄色い歓声を浴びていた人達くらい見ていくか。


「キャー!シドさん、今日もお美しいわ……」


そこには優雅に踊る2人の男女がいた。

男の方の名前は、シド、というらしい。

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