第3話
電車を乗り継ぎ、バスを乗り継ぎ、トンネルを抜ける。
出発したのは朝の8時だったが、着いた頃には空の色は暗くなっていた。
どこまでも黒い空に、いくつか星が輝いている。
そして、目の前に視線を移すと――
「いやー、何度見ても城はすげえや。」
遠くに城が見えた。それを見てニックが感嘆の声をもらす。
俺は声すらも出なかった。
城の手前に広がる町。ここが今日から俺達が住む場所なのだ。
手続きを済ませて、早く家に行こう。
そう思っていた。
「ええっ、書類、間違ってます!?」
ニックが珍しくヘマをした。
ニックは頭の回転が早く賢い。普段ならこんなことはしないはずだ。
そして俺はニックとは対照的に頭が悪いし気の利いたことも言えない。ここは黙っているが吉だろう。
「あ、これに新しく書けば大丈夫なんですね。」
どうやらすぐに解決しそうだ。
「おいギャレット、お前の名前も書く場所があるから、こっちこい。」
そう呼びかけられたので、ニックの方へと向かい自分の名前を書く。
ギャレット・ノースモア、っと。
汚い字でサインを書く。対照的に、ニック・エルズバーグと書かれたサインは文字の大きさが一定で整っている。さっきから俺とニックの対照的なところしか表れていない気がする。
まあ、実際俺とニックは対照的な人間だと思う。俺は生活能力が皆無だけど、ニックは世話焼きで他の人の分の家事までしてしまう。
そうこう考えているうちに、書類の確認は終わったようで、ようやく俺たちは新居に向かうことが出来た。
ガチャ、とニックが扉を開ける。
そこに広がっていたのは村で住んでいた家より数倍広いリビングであった。
「広く見えるのは家具がないからだよ。」
俺の心を見透かしたようにニックが言う。
いや、それにしても、家具がないにしても広すぎやしないか。本当にこいつのどこにこんな金があるんだ……
友達とは言っても、こいつの全部を分かっているわけではない。なんの仕事をしているのかもよく知らない。まあ、それは俺が興味無いだけか。
「明日は家具を買いに行ってくるよ。お前、家具にこだわりとかないだろ。」
「ないな。お前が好きなのを買ってくればいい。」
「はいはい。ソファと、テーブルと、あとちょっとしたクッションとか居るかな。あと折角だしバスタオルとかも買っておこう。お前が風呂に入るきっかけになるかもしれん。」
そうだ。新居だし風呂も気になる。今日はしっかり風呂に入ろう。
「ん……電車の椅子硬くて腰いてえんだよな……」
「あー、俺もだわ。」
「お前もかよ。まあ、とりあえず俺は風呂に入ってくるから。」
先を越されてしまったが、まあいいだろう。
広い新居、ここで俺の新しい生活が始まる。
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