第2話

耳を疑った。城下町で暮らす?

そんなお金どこにあるんだ。ニックはそれなりに収入があるからいいかもしれないが、俺はどうしようもないだろ。というかニックも城下町の方で仕事を探さなくちゃいけなくなる訳だし、いい事ないだろ。


「お前、絶対金の心配してるだろ。」

「バレた?」

「俺が言い出したんだ。俺が払うよ。一緒の家になるけどな。」

「……いいのか!?」


まさかの展開だ。俺は払わなくていいのか……??

というか、こいつのどこにそんなお金があるんだ。たしかに人並みに収入はあるが、城下町は家賃がえげつないほど高い。そんな所に住めるほどって、こいつ何やってるんだ?副業か?


「その代わり、城下町では仕事探せよ。バイトじゃなくて。」

「わーってるって…………本当に払ってくれるのか?」


俺はまだ信じられていない。そんなに都合のいいことがあっていいのか?


「だから、払うって。で?城下町で暮らす、に対しての返答は?」


どう考えてもメリットしかない。俺も仕事を新しく探すきっかけになるし、いや、働きたくはないんだけど。

とにかく、金も払わず今よりいい暮らしができるなんて、この誘い、乗るしかないだろ。


「もちろん。俺も暮らすよ。」

「……ありがとな。それじゃあ早速、荷造りでも始めてろ。まあお前は……そんなに運ぶものもないだろうけど。」


なんかバカにされた気がしたが、まあ気にしなくていい。荷造りするとは言っても、俺はそんなにものを買う金もないから、さっきのボロレコードプレイヤーと、10枚くらいしかないレコードと、ちょっとした服くらいしか持ってないんだよな。すぐ終わるだろうから、まだ先でもいいだろ。


「それじゃあ、この村を出るのは1週間後だから……」

「いや早くね!?」


2度目の耳を疑った。こういうのって、もっと時間がかかるものじゃないのか……?引越しは1回しかやった事がないから分からない。しかもその1回は引越しと言えるのかどうかも怪しい。


「早ければ早いほど良いだろ。じゃあな。俺も荷造りしてくる。」

「お、おう……気をつけて帰れよ。」


本当に台風みたいな男だ。でも心優しくて良い奴だから一緒に住むとしても嫌なことはないだろう。ただ問題なのは、俺の生活能力が皆無なこと。レコードを聴きながら寝落ちして、気づいたら次の日だったことなんて何度もある。3日間風呂に入らないことなんて当たり前だ。酷い時は1週間くらい入らない。さすがに酷すぎるので直したいとは思っているが、染み付いた生活習慣はなかなか直らない。


とりあえず今日はゆっくりしよう。引っ越したらゆっくり出来ないだろうからな。あと一週間はゆっくりするんだ。






「ちょっと待ってくれ!まだ荷造りできてない!」

「はあ?お前、ちゃんとやれって言ったよな!?」


新生活、ダメかもしれない。

あのあとゆっくり楽しく過ごしていた俺は、荷造りすることなど頭の隅に追いやってしまい、そのまま当日の朝を迎えた。

ニックは既に4日前程には荷造りが完了していたようで、業者に新居まで運んでもらったようだった。

それに比べて俺は……


「俺も手伝うよ。仕方ない。」

「ニック……いつもごめんな。ありがとう。」

「いいから口じゃなくて手動かせ!」


俺はニックに申し訳ない気持ちを抱きながらも一緒に荷造りをした。ニックは俺のこういう所にはもう慣れてしまったようで、1回驚きの声をあげたあとはもう普段通りのニックに戻っていた。

荷物は少ないため、俺の荷造りは10分程で終わってしまった。

あとは城下町に行くだけ。俺にとって初めての城下町だ。

正直楽しみだ。しかし24にもなってそれだけでテンションが上がるのは変かと思い、自分を落ち着かせる。


「ぼーっとしてないで、行くぞ。」

「おう。」

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