3・それいけ!学級委員長
第3話
まいとまなみ、そしてまいの幼馴染みである石田君の通う私立中学校一年一組の教室では、新しい学級委員と副学級委員を考えていた。
「さあて。我がクラスの代表として、お山の大将になりたい人はいますか?」
吉田先生が質問した。
「お山の大将て……」
唖然とするまい。
「はい!」
挙手をするのは、昨年も学級委員長として自ら立候補していたみさき。
「わたくし、今年も一組の代表として、クラスを仕切らせていただきますわ!」
「はい、みなさん。みさきさんが学級委員長でいいですか?」
吉田先生が問うと、全員が拍手をした。
「じゃあ、今年もみさきさんが学級委員長ということで」
「よろしくお願い致しますわ!」
全員にお辞儀を振舞った。
「早……」
あまりにも早く決まってしまい、拍子抜けするまい。
「先生。次はわたくしとコンビネーションを組ませていただく、副学級委員長を決めなくてはなりません」
と言って、みさきは黒板の前に来た。
「ほう」
うなずく吉田先生。
「ここからは、今年も一組の学級委員長、みさきが仕切らせていただきます!」
教卓に両手をバンと置き、宣言。
「さあ。我こそはという方は、ピシッと挙手を致しなさい!」
誰も挙手をしない。
「まあ! このクラスは副学級委員長の座に立つことに恐れを成す者ばかりですのね?」
黒板をバンッと叩いた。
「わたくしが学級委員長の魅力、教えてあ・げ・る!」
ウインクした。
♪それいけ!学級委員長♪
学級委員長のやることその一は 早朝五時に教室の掃除、花の水やり
学級委員長のやることその二は 誰でも愛想よく笑顔にあいさつ
副学級委員長のやることは 書類整理にあれこれ雑務
まだまだあるぞ やることだらけ
修学旅行は先頭に立って 整列、前ならえ
副学級委員長は後ろで前ならえ
学級委員長 誰がため存在する
学級委員長 皆のため存在する
副学級委員長 誰がため存在する
副学級委員長 雑用のため存在する
「みさきさん」
まなみが挙手をした。
「あら。副学級委員長になりたいの?」
「ううん。その歌は、いつ作ったの?」
「今作りましたの」
「だと思った」
納得し。
「はい! 副学級委員長たる雑用係にぴったりな人、まなみ候補したい人いまーす!」
挙手をした。
「それはどなたかしら?」
期待をするみさき。
「まいちゃんです」
「はいー?」
思わず声を上げるまい。
「まいさん! あなた確かわたくしの二個上の成績ですわよね?」
「は、はあ。あ、みさきさん四位ってこと?」
「その通り! つまり、これはどういうことかと言いますと、あなたに学力では敵わないけど、学級委員長、副学級委員長という座ではわたくしのほうが上になるということですわあ!」
胸高らかに言い張った。
「ええ?」
唖然とするまい。
「まいちゃんはプライベートじゃ下っ端なので、副学級委員長は向いてると思います」
「まなみ? あんた私のことどう思ってんの?」
怒りで震えた。
「待ってまなみさん。ここは他の方にも賛成かどうかをお聞きしないと」
みさきはクラス全員に目を向けた。
「みなさん! 金山まいさんが副学級委員長になることに賛成ですか? 賛成の方は拍手を!」
全員が拍手をした。
「はい! 今年の副学級委員長は、まいさんに決定!」
「なんでよ!?」
驚がくするまい。
「がんばれ、下っ端」
まなみが応援した。
「あんたのせいでこうなったんでしょ!!」
まなみのほおをつねった。
「じゃあ、今年の学級委員長はみさきさん、副学級委員長はまいさんということだね。がんばってね」
吉田先生が一言交わして、休み時間を知らせるチャイムが鳴った。
「はあ……」
まいは、教室の窓辺で空を眺めながら、ため息をついた。
「まいさん!」
「ああ?」
気だるげに後ろを向いた。
「雑用係である副学級委員長でも、クラスのためにボーっとしている時間はありませんわ。ほら、さっそくお仕事に取りかかってもらいますわよ?」
「なにをすればいいのよ? 私は副学級委員長が初めてなのよ」
「これを今日の放課後までにおわらせるの!」
山積みにされたプリントを渡された。
「な、なによこれ!」
「これは去年集計した年間のアンケート用紙。これをきちんと書いてあるかすべて確認しますわよ」
「す、すべて?」
「そう」
「放課後までに?」
「そう」
「無理に決まってるわよ!」
「すべてはクラスのため! 学級委員長は大変で当然ですわ!」
「えー?」
胸を張るみさきに呆然とした。
まいは、放課後までにアンケート用紙の確認をおわらせるために、休み時間中できる限り作業に専念した。
「総枚数、三百枚以上。休み時間はお昼以外は五分間。おわるわけないじゃないのよ!」
「でもまいちゃん、帰宅部なんだから、最終下校時刻が十七時だとして、全然間に合うんじゃない?」
「最終下校じゃなくて放課後までなの! ていうか、次の授業は理科よ? まだ十枚しか確認できてないのに、もう理科室に行かなくちゃ!」
「まいちゃんどんまい」
「あんたが余計なこと言わなきゃこんなことやらずに済んだのよ」
ぼやき、理科の教科書とノートを持って、教室を出た。
「まいちゃん、みさきさんのうわさ知らないのね」
そそくさと理科室に向かうまいについていくまなみ。
「みさきさんのうわさ? んな、トイレの花子さんみたいに言わないの」
「そうじゃなくてさ。みさきさん、学級委員長であることに誇りを持ってるように見えるけど、実はそうじゃないんだよ」
「ええ?」
「みさきさんは、副学級委員長をこき使って、自分の株を上げたいだけなんだよ」
「株ー?」
まいは、理科室に早く着くために、まなみの話をまともに聞こうとしない。
「まあいいや。まいちゃん、いずれわかるよ」
二人はチャイムが鳴る前のギリギリで、理科室に着いた。
放課後。まいはついぞプリントの確認をおわらせることはできなかった。できたとしても、七十枚。
「あと三十枚、なんとかならないかしら?」
「ダメですわ。学級委員長として放課後までという余裕の猶予を与えたというのに、たった七十枚しかできていないだなんて……。あなたはなんのために副学級委員長として候補を受けたのですか?」
「いや、なんのためにって……」
「そんなんでは一生副学級委員長イコール雑用というイメージを塗り替えられませんわよ? はい」
みさきはポスターを渡してきた。
「な、なによこれ?」
「クラスの方から二組のお友達が委員会のポスターを作ってほしいとお願いされたようで、わたくしに頼んできましたの。これは学級委員長命令よ? あなたがポスターを作りなさい!」
「で、でもアンケート用紙は……」
「え? あなた、学力はあるのにお任せされたお仕事は一つしかこなせませんの?」
「うっ」
「宿題だと思ってやってきなさいな」
ポスターだけ渡すと、みさきはまいのそばから離れていった。
夕日のオレンジ色に輝く住宅街。
「なによあの子! 学級委員長だからって、調子に乗ってるみたいね」
まいは、イライラしながら帰路を辿っていた。
「しかし、アンケートの確認と言い、ポスターの作成と言い、宿題と言い、三つも案件を抱え込んでしまった。今日の宿題、多かったのよねえ」
一人、げんなりした。
「なんで副学級委員長なんてなったのかしら……。いや、されたのかしら?」
まいは、ふと顔を上げた。マンションが見えた。
「まなみ、あかねちゃんも。手伝ってもらうわよ?」
まいは、マンションに来て、あかねを呼び、まなみの住む部屋にやってきた。偶然見えたマンションは、まなみとあかねの住むマンションだった。
「まいちゃん、副学級委員長になったんだ。すごいね」
と、あかね。
「いやいやされたのよ。こいつのせいでね」
まいは、まなみをにらんだ。
「まいちゃんは、クラスのみんなの犠牲になったのだよ? ある意味、正義の味方と化したのだ!」
「なにを変なことを胸高らかに言っとる!」
まいが怒鳴った。
「だからほんとなんだってば」
「どういうことなのまなみちゃん?」
あかねが聞いた。
「ではでは。まなみ自作の紙芝居でお伝え致しましょう」
「か、紙芝居?」
唖然とするまいとあかね。
まなみの紙芝居が始まった。一枚目は落書きかのような下手なみさきの絵が描かれていた。
「学級委員長みさきは、元アメリカ出身の帰国子女でありました。日本とアメリカじゃ文化が違い、彼女は校内で常にお嬢様気分。やがて、人をこき使い、下っ端に仕立て上げることを覚えたのでありました」
机を叩き、次の絵に変えた。二枚目は、棒人間が教卓に仁王立ちしている様が描かれていた。
「そして、学級委員長の座に立ち、さらに偉大さをアピール。みさきのお嬢様気取りはまだまだ続くのであります!」
紙芝居が終了した。
「早っ」
唖然とするあかね。
「ていうか絵が下手すぎてなんにも伝わってこなかったわよ」
呆れているまい。
「でも、みさきさんがお嬢様気分で調子に乗ってることはわかったでしょ?」
「ま、まあね」
「まいちゃんは、まんまと目を付けられたんだよ。召使いならぬ、こき使いにね」
「こ、こき使い?」
目を丸くするまい。
「本の世界でも、召使いはお嬢様に絶対服従。まいちゃんは、学級委員長であるみさきさんに、副学級委員長兼こき使いとして、絶対服従なの」
まいは、まるで真っ暗な奈落の底へ落ちていく感覚に苛まれた。
「ま、まいちゃん? どうしたのそんな血の気の引いた顔をして……」
「あかねちゃん。まいちゃんは悔しいけど、みさきさんにされていることが、まなみの言ったことだと認識しているのだよ」
「ええ? で、でも宿題にポスター作成、アンケート確認なんて一人でやり切れないでしょ?」
あかねが言うと。
「その通り。悔しいけど、私はみさきさんにこき使われてるのよ!」
二人にまっすぐ目を向けた。
「……」
呆然とするまなみとあかね。
「まなみ、あかねちゃん!」
「はい!」
きをつけをして返事をした。
「こうなったら、仕返しを考えるわよ?」
「し、仕返し?」
「そうよあかねちゃん。私だって、負けっぱなしは悔しいからね」
ウインクをした。
翌日。
「まい副学級委員長! 宿題はできたのかしら?」
みさきは腕を組み、上から目線で問いた出した。
「できたわよ」
「じゃあ渡しなさーい」
手を差し出した。
「はい」
まいは、数学の宿題を渡した。
「は?」
「宿題です」
「あらそう。えらいじゃない」
感心して。
「って違ーう!! わたくしが言いたいのは、アンケートの確認とポスターの作成のことを言っておりましてよ!?」
「そんなのやってません」
「なんですって!? アンケート確認はとっくに期日が過ぎているというのに、ポスターまでやらないというのっ? あなたそれでも副学級委員長ですの?」
責め立てた。
「おほん。あの、それ学級委員長にも言えることですよね?」
「はあ?」
「副学級委員長も学級委員長も同じクラスをまとめる係です。あなたは副学級委員長という役柄を奴隷のように扱っているようだけど、違う? 平等にしてくれないなんてねえ」
ため息まじりに言い放つまい。
「が、学級委員長と副学級委員長は立場が違いますわ!」
「どう? 具体的にどう違うの? 答えて!」
まいは、グン、グンとみさきに攻め寄せ、問いた出した。
「うう」
みさきは当惑した。
「ま、任されたことをまともに遂行しないのなんて……。まいさん、あなたはクラスのまとめ係として、失格ですわ!」
指をさすが。
「それはあなたにも言えることですよ?」
石田君が来た。
「石田さん! 元学級委員長が昨日まで休んでいたくせに~!」
「熱出してたしね。みんな今まで僕を候補に挙げてくれていたんです。でも、あなたは学級委員長にどうしてもなりたいとうるさいので、みんな副学級委員長に候補したのです」
一組の生徒たちがコクリコクリとうなずいた。
「あたし、副学級委員長になった時、さんざんこき使われて最悪だった!」
と、元副学級委員長の女子生徒。
「俺も。先生に言って、二度と学級委員なんてポジションに立たないって決めたもんね」
と、元副学級委員長の男子生徒。
その他にも、元副学級委員長を担った生徒たちが、わーわー言い出した。
「ひえ!」
怖気づくみさき。
「みさきさん! アンケートの確認とポスター作成、任されたのはそっちでしょ? やってください!」
まいは、山積みのアンケート用紙と白紙のポスターを投げ渡した。
「おっとと!」
バランスを崩し、みさきは倒れた。
「ほええ……」
倒れながら呆然とするみさき。
「みさきさんはまた副学級委員長になって、僕が今年も学級委員長になりましょう」
一組全員が拍手をした。まいとみさきになった時以上の喝采だった。
そしてお昼休み。
「まなみ、ありがと」
窓辺で空を見ていたまなみの隣に来るまい。
「あんたが意外や、情報屋のおかげで、みさきさんが学級委員長になってお嬢様気取りなことわかったし、それであんな思い切った作戦実行できたんだもんね」
「そう?」
「うん。あと、吉田先生もみさきさんのこと知ってたんだってさ」
「まなみに感謝してる?」
「まあね。今回はお手柄だぞ」
「じゃあ、ちょうだい」
手を差し出した。
「へ?」
「一万八千円」
「なんて具体的で細かい金額だ……」
唖然とした。
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