8.働くお嬢様
第8話
私立中学校は、本日早帰りの日でした。早帰りの時間は正午の前なので、お腹が空く時間帯です。なので、まいはたまにはと、どこか食べに行こうと思いました。
「!」
気配を感じて、後ろを振り向きました。
ゆうき、まなみ、あかねがいました。ゆうきとあかねが通う小学校も、早帰りの日でした。彼らは、まいがどこか食べに行こうとしているのを、お見通しでした。
「しまった。感づかれた……」
「もちろん、姉ちゃんのツケで!」
「まいちゃんのツケで!」
「ツケで!」
「あんたらなあ~!!」
まいは彼らを追いかけました。
追いかけている間に、喫茶店の前に来ました。住宅街の中にひっそりと佇んでいる、小さなところでした。
「こんなところに喫茶店なんてあったのね」
まいが喫茶店を見上げました。
「ねえねえ。腹減ってたまらないし、ここにしようぜ」
ゆうきが言いました。
「でも喫茶店ってコーヒー飲むところでしょ? 腹の足しになるものあるかしら?」
あかねが聞きました。
「まなみが昔行ったところは、モーニングセットとか、お昼ならランチセットなんて、豪勢なものがあったよ」
「じゃあここにしよっか」
まいが、喫茶店のドアを開けました。カランカランと、ドアベルが鳴りました。
店内はシーンとしていました。見渡してみると、お客さんが一人もいません。
「よっしゃー! ここなら混んでないから、自分のメニューが十分以上経っても来ないなんてのがないな」
「ゆうき、あんたの頼んだものによるわよ」
まいがツッコミました。
「ていうか弟君、お店の中でお客さんが一人もいないなんて言っちゃダメだよ。こんなに静かなんだからさ」
「いやまなみちゃん。フォローになってないから」
あかねがツッコミました。
「無理ないわよ。第一に、このお店おかしいところがなくない?」
まいが聞いてきて、答えました。
「モーニングセットとかランチセットとかの広告がない」
あかねが答えました。
「それもそうだけど、他にあるわよ」
「音楽が流れてない」
ゆうきが答えました。
「それもあるけど、もっと大事なことよ」
「お客さんが一人もいない!」
まなみがほほ笑んで答えました。
「店員さんがいない!」
まいが大声で答えました。
「あっ」
ゆうき、まなみ、あかねの三人は、言われてやっと気づきました。
「普通喫茶店やファミレスに入ってくると、店員さんがあいさつをしてくるじゃない? それがないのがまずおかしいのよね」
「まるで駄菓子屋みたいだな」
ゆうきがうなずきました。
「で、姉ちゃん。肝心の店員はどこにいるのさ?」
まいは呆れて、
「そんなの知るわけないでしょ」
「空き家なんじゃない?」
まなみが言って、
「だったら空き物件って表札があるはずよ」
あかねが言いました。
「もしかして、なにか事件でもあったんじゃない?」
ゆうきが冗談っぽく言うと、まい、まなみ、あかねの女子三人が、真剣な顔をしました。
「え、な、なに?」
ゆうきが目を丸くしました。
「そうよ……」
と、まい。
「事件は……」
と、まなみ。
「会議室じゃない……」
と、あかね。
そして女子三人合わせて。
「事件は現場で起きているんだ!」
「言いたかっただけだろ!」
ゆうきがツッコミました。
「弟君。あながちないこともないのよ?」
「ええ?」
それは、数時間前のこと。
『オラオラてめえら! 全員言うことを聞かねえとぶち殺すぞコラア!』
銃を持った覆面の男ら三人が、喫茶店のお客さんたちを、トラックに誘導していました。お客さんたちは、怯えた様子でした。
『どうか、どうか命だけはお助けを~!』
ロープで縛られたマスターが震えた声で訴えました。
『うるせえ! 死にてえのか!』
怒鳴られて、マスターは引き下がりました。
『愛してる……』
『私も……』
ロープで縛られたウエイターとウエイトレスが、キスをしました。
『死ね!』
バーン!
ウエイターが、銃殺されました。
『そんな……。愛してたのに~っ!!』
ウエイトレスは、泣き崩れました。
『わーはっはっは!』
銃殺した覆面の男の笑い声が、響き渡りました。
「いや、絶対ないわ」
まいがツッコミました。
「ふう。ゴミ出し疲れたあ」
黒のウエイトレスワンピースに、白いレースのエプロンをつけた、女の人がやってきました。まいたちを見つけると、じーっと見つめてきました。まいたちも、彼女をじーっと見つけました。
「あーっ!!」
お互いを指さして、叫びました。
「君たちさてはレジのお金泥棒だな! ざんねーん! 私のお店のレジの中身はなんと!小学生のお小遣い並しか入っていないのだから!」
ウエイトレスは、胸を張りました。
「いや自慢するとこそれ!?」
あかねがツッコミました。
「それに君小学生なのに、どうして私立の制服着てるの? コスプレ? かわいい!」
ウエイトレスは、まいを見て、笑いました。
「私ちゃんとした中学生です! ていうか私たち泥棒じゃありません、ちゃんとしたお客さんです! あなたこそなんなんですかその態度は!」
「へ?」
「ここのウエイトレスですよね?」
まいがにらむと。
「いらっしゃいませー! 四名様ですね。お好きな席へ、ど・う・ぞ♡」
かわいく言うものですから、まいたちはコケてしまいました。
まいたちは、案内された席に着きました。
「私、
「十九歳!? オーナー!?」
ゆりの自己紹介を聞いて、まいたちは目を丸くました。
「どうやってなったの?」
まなみが聞きました。
「コレの力よコレの! 実家がお金持ちなの」
と、指でお金のサインをしました。
「で、注文は?」
ゆりがメモを取る準備をしました。
「メニューって、サンドイッチしかないのね」
まいがメニュー表を見ながら言いました。
「私サンドイッチしか作れないもん」
「ホットケーキあるよ。まなみホットケーキ」
「ごめん、今粉切らしてて。無理!」
指でバッテンマークをしました。
「ジュースが飲みたいな」
あかねが言いました。
「それもないかなあ。ここ私の家でもあるし、飲んじゃってるかも」
「は?」
とりあえずまいたちは全員サンドイッチにしました。空腹もあるので、食べられたらなんでもよくありました。ゆりは注文を復唱しました。
「えーっと。サンドイッチ四つね。かしこまりました、かしこ!」
と、厨房へダッシュで向かいました。
「なあ姉ちゃん。ここやばいんじゃないかな?」
「今さら遅いわよ」
「あー俺やっぱピザが食べたいなあ。姉ちゃん俺の分のサンドイッチどうぞ」
「まなみもうどんが食べたくなってきたなあ。まなみの分もどうぞ」
「あたしもラーメンが食べたくなってきた。あたしの分もよかったら」
三人は席を立って、帰ろうとしました。
「こらこらこら!」
まいが手招きして、引き戻しました。
「ったく。私だって山々なのよ。けど、いきなりいなくなったら、ゆりさんかわいそうでしょ?」
「チェッ。人がいいんだから。姉ちゃんそのうちオレオレ詐欺とセールスの押し売りにだまされるね」
ムッとしたまいは、ゆうきの頭を拳で挟んで、グリグリしました。
厨房では、ゆりが久しぶりのお客さんではりきっていました。まずは、パンを切ることにしました。包丁を、上から振り下ろしました。
ザクッ!
「いてーっ!」
指まで切ってしまいました。
「いたた……。血が出てしまった」
さらに。
「血がパンに付いてしまったーっ!」
冷蔵庫からケチャップを出しました。
「ケチャップでごまかしちゃえ」
ブチュー!
「かけすぎた!」
ケチャップだらけのパンになりました。
つづいて、レタスをちぎっていました。
「えへへ! レタスちぎりは、よくママとやってたもんねー」
と、レタスをめくると。ナメクジが現れました。
「いやああああ!!」
レタスをポーイと投げて、ホールまで飛び出てきました。転がったレタスを見て、まいたちは唖然としました。
「ぐすん。もうレタスなんてちぎらないもん、ちぎらないもん!」
子どもみたいに、ぐずっていました。
「はあーあ。なんか疲れた。音楽でも聴こうっと」
と言って、CDをつけると、イスに腰掛けて、ぐっすり寝てしまいました。
どれくらい経ったか。壁にかかっている時計を見ると、かれこれ一時間も経っていました。空腹にやられたまいたちは、テーブルにぐったりとしていました。
「もう我慢できない! 文句言ってくる!」
ゆうきが厨房へ向かいました。
「ちょっと! って……」
厨房を覗くと、ゆりがイスに腰掛けて、音楽を聴きながら、寝ていました。
「おーい!」
ゆうきの叫び声で、ゆりは目を覚ましました。
「お、お待たせしましたあ」
ゆりが、サンドイッチを持ってきました。
「ほんとに待たせてどうする!」
まいがツッコミました。
「なんかおおざっぱすぎない?」
ケチャップとレタスだけ挟まっているサンドイッチを見て、まなみとあかねは呆然としました。
「残さず食べてね。なんかまずそうだから」
「作った当人がなに言ってんの!」
まいが言うと、ゆうきが席を立ちあがりました。
「わかった! こいつここのオーナーじゃないな」
「へ?」
ゆりが首をかしげました。
「姉ちゃんたちがさっき言ってた、犯罪者だよ。そうやってわざととぼけてんだな! 覚悟しろ!」
まいが言いました。
「だったら今頃特攻隊が攻めにきてるわよ」
「私ほんとにここのオーナーだよ? ほら、これ役所で受け取った契約書」
と言って、役所で受け取った契約書を見せました。確かに、ハンコが押されているし、小坂ゆりと記名もあるので、ウソ偽りのないものでした。
「いやあ夢が叶うっていいね。私ウエイトレスになるのが小さい頃からの夢だったからさ。君たちも、それぞれの夢が叶うといいね」
「でもお客さん来てないね」
まなみが言いました。
「お客さんが来なければ、せっかくウエイトレスになれたとしても、お金ももらえないし、お店たたまれちゃうよ?」
ガーン!
ゆりは今気づきました。自分のお店にはお客さんがいない。来たとしても、開店して三日間のうち、三人のみ。
「そんな……。まさか、今さら気づく、なんて……」
「え?」
まいが唖然としました。普通気づくだろ、と思いました。
「まなみにしちゃ上出来なことを言ってくれた」
ゆうきがホメました。
「思ったことを言ったまでだよ」
「ていうか誰でも思うよね」
あかねが言いました。
「ねえどうしたらいいかな! ねえねえねえ!」
ゆりは、まいに泣きすがりました。
「お店だけはたたまれたくない……」
「知らないわよ! あんたここのオーナーでしょ? 自分で考えなさいよ」
「え? わかんないから聞いてんじゃん」
「冗談は顔だけにしてよ! 私はお客よ? お店の問題は、店員の問題だわ!」
ゆりはしょんぼりと、うつむきました。
「私のお店、いわく付きなのかな? だからなんか変なのが見えて、誰も寄りつかないのかも」
「なわけあるか!!」
まいたちがツッコミました。
「はあ……。これは訓練が必要よ。りっぱなウエイトレスになるためのね」
まいが呆れました。
「あーそれ別のお店に行ってやろうとしたらね、お金持ちだって理由で特別視されて、ダメだったの」
「姉ちゃん、財力って怖いね」
しみじみと思いました。
「どこのお住まいなの?」
まなみが聞きました。
「軽井沢」
「えっ!?」
軽井沢と聞いて、まいたちは驚きました。
「もしかして。小坂貿易会社の?」
「そうだけど?」
小坂貿易会社とは、軽井沢の草原のど真ん中に家を建てていて、お城のような佇まいでした。メイドや執事もいて、ゆりは、彼らのお世話を受けながら、育ってきました。
「まさかそこの一人娘だったとは……」
ゆうきも、まい、まなみ、あかねも、がく然としました。
「お嬢様!」
まいたちは、土下座をしました。
「え?」
「つ、通学はリムジンでしたか?」
ゆうきが聞きました。
「うん。中学校まではね」
「このサンドイッチ、とっても美味ですね!」
あかねがおいしくもないサンドイッチを、むさぼりました。
「みんな、おいしくいただくわよ!」
まいが指示すると、みんなでおいしくないサンドイッチを、むさぼりました。
「そんなに私の作ったサンドイッチおいしい? なら、おかわり作っちゃうよ!」
ゆりは喜んで、おかわりのケチャップだらけのレタスだけを挟んだサンドイッチを持ってきました。まいたちは食べたくなかったけれど、無理して食べました。
「ほらほら。もーっと食べて! 成長期はいっぱい食べなさい!」
まだまだおいしくないサンドイッチが出てきました。そして、とうとうかんにん袋の緒が切れて。
「いらんわーっ!」
まいたちは、サンドイッチの皿を、ひっくり返しました。
「りっぱなウエイトレスになるために、修行をするわよ!」
まいがゆりに指をさして、言いました。
「おー!」
ゆうき、まなみ、あかねの三人も、拳を上げました。
まいたち、ゆりは、まいとゆうきの家に来ました。
「てことで、ゆりさんをりっぱなウエイトレスにしよう!」
「おー!」
まなみとあかねが拳を上げました。
「で、なんで私たちの家なのよ?」
まいがツッコむと、
「ノリ!」
「おー!」
「あっそ」
まいは聞きました。
「でも私たちの中にウエイトレスにくわしい人いないでしょ? どうするのよ」
ゆうきはパソコンを出しました。
「そういう時はネットだよネット」
まずは、注文を取る練習から始めました。喫茶店で働くために、注文を聞き漏らさず、言われた通りのものを出すことが大切です。
「私、記憶力だけは自信あるんだー」
ゆりがメモを取る準備をしました。
「じゃあまなみからシミュレーションいくよ?」
まなみはパソコンを見ながら、言いました。
「いきまーす。パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポム・セーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンディシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ」
「それピカソ本人も言えなかったていう本名じゃん!!」
あかねがツッコミました。
「さあゆりさん。これをなにも見ずに復唱できたら、第一段階はクリアだぜ」
ゆうきが言いました。
「無理でしょさすがに! 他のウエイトレスでも言えないから!」
まいもツッコミました。
「ではでは、コホン。パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポム・セーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンディシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ」
なにも見ずに答えました。
「ね、姉ちゃん。次いく?」
「いってみよ?」
次は、料理をすることにしました。これは難解だと、誰もが思っていました。
「私一度みそ汁作ってみたかったんだ」
材料をキッチンで揃えながら、言いました。
「ではネギから切るよ。えいっ!」
包丁を、上から振り下ろしました。
ザクッ!
「いったーっ! また指切ったあ!」
指から血を出しました。
「はあーあ……。なんでいつも切っちゃうんだろ」
「あのね。包丁を持たない手は、猫の手にすると、安全なのよ。で、包丁は上から振り下ろさないで、ゆっくり切っていくの」
まいが手本を見せました。
「へえーそうなんだ! すごいわねあなた」
「いや、家庭科で学ばなかったの?」
「うちのメイドになりませんか? 待遇いいっすよ」
ゆりは、指でお金のサインをしました。
「いや、ごく当たり前のことをしただけで、なんで雇われなくちゃいけないのよ?」
まいは呆れました。
「ていうか料理ができなきゃいけないのはあんたのほうでしょう?」
「えー私お金持ちだよ? できなくて当然じゃん」
まいたちはムッとして。
「ケンカ売っとんのか!」
ゆりはキョトンとしました。
コンロのスイッチを回すゆり。
「あれー?」
コンロのスイッチを回しても、火が付きません。
「はい着火マン。これで付けるといいよ」
まなみは、ゆりに着火マンを渡しました。
「ありがとう」
「あら? これ元栓開いてないじゃない」
まいが、元栓を開けました。
「元栓?」
ゆりが聞きました。
「ほら、ここ。このつまみを、縦にするのよ」
「そのあと着火マンだね」
と、ゆりは着火マンを開いた元栓に近づけて……。
「ちょ、まっ!」
ドカーン!
台所が爆発しました。なに事かと、まなみとゆうき、あかねがかけつけてきました。
台所のまわりは割れた食器や調味料の容器が散らかっており、まいとゆりは、すすだらけになっていました。
「なんかこれ、デジャブ感じるんだけど」
ゆうきがつぶやきました。
「えーい! なんでもいいから掃除をするわよ!」
まいが怒りました。
「えー? 私お嬢様だから、掃除なんて……」
と言うゆりにまいは、
「なんでもいいからちゃっちゃとやるーっ!!」
怒りました。
「姉ちゃん自分の大切な制服が汚れてるからカンカンなんだ」
というわけで、掃除を始めました。
掃き掃除をしていたゆり。途中疲れてしまったのか、へなへなと座り込んでしまいました。
「退屈~」
まいたちは、唖然としました。
「ゆりさん。ぞうきんがけリレーしようぜ」
「へ?」
というわけで、廊下でそうきんを持って、スタンバイしました。
「実況はまなみ! 一体どんな熱いバトルを繰り広げてくれるのか!」
ちりとりぼうきをマイクにして、実況しました。
「いいですか二人とも! 玄関の真ん前まで先に到着した人が勝ちです!」
まなみの号令に、ゆうきとゆりは、「おー!」と、拳を上げました。
「それでは、よーい!」
ぷ~。
「ごめん。おならしちゃった」
ぞうきんがけをする姿勢になっていたゆうきとゆりは、拍子抜けてすべりコケました。
「気を取り直して、よーい、どーん!」
ゆうきとゆりは、そうきんがけをしました。二人とも早く到着するために、一生懸命でした。
ゆりは、そうきんがけをしながら、昔のことを思い出していました。
それは、小学六年生の頃、おじいちゃんの執事といっしょに、喫茶店に来た時でした。
「いらっしゃいませ! 二名様ですね」
十一歳のゆりは、かわいくて、明るく元気なウエイトレスに、目を輝かせました。
テーブルに着いて、注文が決まりました。
「待って、私が押す!」
ゆりは、自分でベルを押しました。
「ご注文はお決まりですかー?」
入り口で迎えてくれた、ウエイトレスが来ました。
「サインください!」
目を輝かせたゆりの第一声。これが、ウエイトレスを目指したきっかけでした。
ゆりは、玄関の敷居を越えて、落ちてしまいました。
「大丈夫?」
まいたちが覗き込んできました。ゆうきとゆりはほぼ互角のスピードでしたが、これでは、ゆりの負けでしょう。ゆりは、鼻をさすりながら、起き上がりました。
「なんかやる気出てきたーっ!」
ゆりは、メラメラと燃え上がりました。
「私、昔ウエイトレスに憧れた小六の頃を思い出したの。それで、今メラメラと燃えてるんだ」
まいたちは、唖然としました。
「てことで、喫茶店がんばってきまーす!」
「行動力すごいなあ」
「ねっ」
ゆうきとまなみがヒソヒソと感心していました。
「待った!」
まいが引き止めました。
そこへゆうきが。
「ほこりが?」
まいは。
「舞った!」
で。
「じゃなくて待った! 舞ったじゃないわ!」
ともかく、まいは言いました。
「今のままじゃお店はつぶれるわ。だって、ゆりさんはお客さんのことを考えて仕事していないじゃない!」
「ええ?」
「いい? ウエイトレスってのは、お客さんな気持ちよく店内で食事をしてもらうお仕事でしょ? だから、出迎える時は笑顔で、料理はおいしいものを提供することが大事なのよ!」
「そ、そんな。私だってちゃんと!」
「サンドイッチしか作れなくて、おまけに仕事中に寝るなんて。あなたはウエイトレス失格よ!」
「姉ちゃんウエイトレスそんだけ語れるならなんで今までおとなしくしてたのよさ」
「接客業は経験して覚えるものだから、わざわざ技術を学ばなくたっていいのよ。ただ、お客さんのために仕事をしようって気持ちがあれば、いいと思うの」
ゆうき、まなみ、あかねは感心している傍、不思議に思いました。なぜそこまでしてウエイトレスについて語れるのか。そもそも働いたこともない未成年者に、あれこれ言われてゆりも悔しいんじゃないか。とてもヒヤヒヤしましたが。
「そうね。確かに私は少しアホだったかも」
納得していました。
「よし! 私、イチからやり直してみるよ。もう一度、お店で修行してくる!」
ゆりは、胸の前に拳を掲げて、ガッツポーズをしました。
「その意気だよ!」
まいたちは、ほほ笑みました。
「にしても、今日は楽しかったな。ありがとみんな。私、誰かと楽しく過ごしたの、初めてかも」
「どういうこと?」
あかねが首をかしげました。
「私はお金持ちだから、小学生と中学生の頃、特別扱いされてたんだ。みんなよってたかって一目置いてさ。だから、高校は二度と気を遣われないようにって、こっちの高校に来たの。片道二時間かかるけど」
まいたちは片道二時間に驚きましたが、お金持ちだし、交通費は余裕だったんだろうと思いました。
「でも、高校でも友達の作り方がわからないし、結局一人ぼっちでさあ」
まいたちは、ゆりにそんな苦い思い出があったのだと、思いました。
「君たちがいろいろしてくれたおかげで、その友達っていうのが経験できた気がする。ありがと!」
ゆりは、ほほ笑みました。
「なに言ってんの? これからも俺たち、友達だよ」
「ええ!」
まいたちがほほ笑みました。
「ほんと? お金持ちだよ?」
目を丸くするゆり。まいは言いました。
「お金持ちだろうが関係ないわ。ゆりさん、応援してるから、がんばってよ」
その後、ゆりのお店は、少しずつですが、繁盛したということです。
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