3.最高の一枚

第3話

まいの通う私立中学校から見える砂色をした十階建てマンション。その五階に、まなみは住んでいます。

 朝の登校時間、教室へ向かっているまいは、校庭を歩いていました。

「まーいちゃーん!」

 後ろから、まなみがかけてきました。そして、思いっきりまいの背中にぶつかってしまいました。

 ドボーン!

 まいは、中庭の池に、落ちてしまいました。

「あ、ごめん」

 まなみは、まいを池から助け出そうと手を差し伸べました。

「大丈夫? わっ!」

 池から這い出てきたまいの手に掴まれたまなみ。そのまま池に、落とされました。


「私立生たるものが、反省用紙十枚でーす!!」

 まいとまなみは二人並んでジャージ姿になり、廊下で生徒指導から一時間も説教を受け、反省用紙十枚の刑を科せられてしまいました。まいは二回目の、反省用紙十枚です。まなみは初めてでした。

「なーんで二回も反省用紙十枚の刑を科せられなきゃいけないのよ!」

 まいは、頭をかきむしりました。

「まいちゃん」

 まなみが声をかけました。

「なによ! 元はと言えばあんたがねえ!」

「テヘペロッ♡」

 まなみは、おどけてみせました。

「あんた私とだからって気抜いてんでしょ!」

 怒りました。


「ふふーん♪」

 下校中、公園でまなみはしゃがんで、一眼レフのカメラをかまえていました。下校中のまいは、カメラをかまえているまなみを見つけました。

「またあの子あそこで。よーし!」

 まいはなにを思い立ったのか、まなみの元へ、かけ出しました。

「まーなみ♡」

 まいは、後ろからまなみを抱きしめました。

「あっ」

 パシャリ

 まなみのカメラが、シャッターを切りました。

「なーにすんじゃーっ!!」

 まなみはマジギレしました。鬼のような表情をしました。

「じじ、冗談だってのにーっ!」

 まいは、あわてました。まさか、冗談でそこまで怒ると思っていなかったからです。

「あ、でもよく撮れた」

 カメラを見てご満喫のまなみ。まいは、あきれてコケました。

「一体なにを撮ってたのよ?」

「ふふーん。見たーい?」

「見たい見たい」

「見たーい?」

「見たーい」

 まなみは色気を出して、

「ほ・ん・と?」

「じれったいな! はよ見せろ!」

 まなみはまいに、カメラの映像を見せました。

「ななな、なにこれーっ!」

 まいが驚いて見たものは……。うんこの写真でした。とぐろを巻いた、りっぱなうんこでした。

「なによこれ!」

「見ての通りうんこだけど?」

「いやそれはわかる!」

「まいちゃん、これ絶対人のだよ。ここでこんな大きいのした人がいるんだよ。おもしろいよね」

「いや気持ち悪いわ!」

「しかも、とぐろを巻いてるって、すごくね?」

「いやあのなあ! や、まあとぐろを巻いてることはめずらしいけど」

「で、そのうんこね、まだそこにあるの」

 まなみは、下を指さしました。まいは、思わずさされた方に、目を向けました。

「きゃああああ!!」

 木の根元に、とぐろを巻いたうんこがありました。

「こんなん汚いわよ! 消しなさい!」

 まいは、首から下げているまなみのカメラを強引に奪って、消去しようとしました。

「えー? やだよ!」

「やだよじゃないの!」

「やだやだやだ!」

 お互いがカメラを引っ張り合っているうちに。

 ベチャ

 まいとまなみは、足元を見ました。まいが、全身を真っ白にさせました。

「ふんだね」

「あんたのせいよあんたのせいよ! バカバカバカーッ!」

 まいは、まなみをポカポカ叩きました。

「うわーん!」

 まなみは泣きました。

「ふん、泣いても同情しないわよ」

 まいは、まなみから立ち去りました。

 まいは、商店街、本屋、スーパーを通りすぎていきました。後ろから付いてくるまなみは、わんわん泣いていました。終いには、子どもたちがまなみにワラワラと寄ってくる始末でした。

「だーっも、うるっさい! ウソ泣きだってとっくに気づいてるっての」

 まいが呆れると、

「チッ」

 まなみは舌打ちしました。

「なんだその舌打ちは?」


 まなみの撮りためてきた写真は、それはそれはとてもひどいものでした。道端に落ちている空き缶、ペットボトル、包み紙など、ガラクタとは言えないものばかりでした。

「やだこれ野グソしてる子の写真じゃない! りっぱな盗撮よ?」

「よく見るとさ、弟君に似てない?」

「削除。って、これゆうきじゃない!」

「おー。後ろ姿だけでわかるんだな」

「あいつ、あとでげんこつね」

 と言って、まいはゆうきの野グソしている写真を、消しました。

「あんたさ、カメラってなんに使うか知ってる?」

「うんもちろん。気になったものを、これで収めるためでしょ」

「カメラが好きになったきっかけってあるの?」

「これ元々パパのなんだけど、幼稚園の時貸してくれたんだ。初めて使う時に、電車を撮ったのね。で、お家に帰ったあとにカメラを覗くと……。なんと、カメラに電車が映っていたの!」

「ほう……」

「カメラって、ほしいものが手にできなくても、シャッター切るだけでちゃんと残せるから、好きなんだ」

 まなみは愛用のカメラをまじまじと見つめながら言いました。

「まなみ、カメラなしじゃ生きていけない!」

「なるほどね。でも、さっきのはねえ。ていうか、いつから持ってるのそれ?」

「忘れた」

「え?」

「防水性にも優れていて、お風呂に入れても大丈夫! だから、昔から家のお風呂や銭湯でも、カメラを持ち歩いてるよ」

「いや、そんなカメラあるか! てか銭湯はまじめにいかんでしょ!」

 咳払いをして、まいは言いました。

「とにかくさ、あんたがカメラ好きなのはいいけど、その撮影するものをなんとかしなさいよ」

「なんとかって?」

「ほら、まあ例えばさ。写真は一生に一度しか撮れないものを映したらいいんじゃない?」

「例えばどんなものがあるの?」

「富士山とかスカイツリーとか。海外へ飛んで、エッフェル塔を撮ってもいいわねえ!」

 まいは、うっとりしました。

「ありきたりすぎるよ」

「そう」

 うなずいて、

「はあ!?」

 目を丸くしました。

「もっとこう誰も撮らないような、マニアックなものにしようぜ?」

 まなみはキザな雰囲気で言いました。

「はあ?」

 まいは当惑しました。突然わけのわからないことを言い出すものですから。

「じゃあ問おう。あんたの言う一生に一度しか撮れなくて、マニアックなものとは?」

「まいちゃんの結婚式!」

「気が早い!」

「ツチノコとか?」

「なにその適当に答えとくかみたいな返事」

「じゃあまいちゃんはなに?」

「え?」

「まいちゃんにとってのマニアックで一生に一度しか撮れないものって、なあに?」

 じりじり寄ってくるまなみに困惑するまい。

「えーっとえーっと……」

 答えねば。まいは、考えて、とっさに出た答えを言いました。

「まあ、結婚式?」

「まいちゃんじゃ話にならないよ。他を当たってくる」

 と言って、立ち去りました。

「なによ! あんたのためにアドバイス言ってやったでしょ? 感謝くらい言いなさいよ!」

 まなみは後ろを向いてほほ笑みました。

「まっ。まなみは結婚すると思うけど」

 自分を指さして、言いました。そして、立ち去りました。

「あーそうかいそうかい! お幸せにーだ!」

 まいはすっかりふくれてしまいました。


 その辺をブラブラしていると、橋の上でゆうきを見つけました。さっそくまなみは、ゆうきに聞いてみることにしました。

「一生に一度しか撮れないもの?」

 ゆうきは答えました。

「そりゃ、富士山とかエッフェル塔だろ」

「違う違う。かつマニアックなので。弟君ならなんだと思う?」

「またえらいマニアックな質問ですね……」

 唖然とするゆうき。

「うーん。マニアック、一生に一度しか撮れないねえ……」

 よーく考えるゆうき。

「さあ、弟君、期待してるよ」

 わくわくするまなみ。

「あっ!」

「おっ! その答えは!」

 ゆうきは答えました。

「裸!」


 つづいてCDショップで、あかねを見つけました。黒いボブカットが似合うこの女の子は、西野にしのあかね。ゆうきの幼稚園からの、幼馴染み。バイオリニストを目指しています。

「一度しか撮れない? 富士山とかエッフェル塔?」

「それじゃありきたりでしょ? 誰も撮らないような、マニアックな要素を取り入れたいの」

「またえらいマニアックな質問ね……」

 あかねが唖然としました。

「ていうかさ、みんな一生に一度しか撮れないものっていったら、富士山かエッフェル塔なの?」

 まなみは、あかねに写真を見せました。

「これがまなみが今まで撮ってきた写真だよ」

「げっ!」

 あかねは、空き缶やペットボトル、包み紙などの写真を見て、呆然としました。

「まなみちゃん、そんだけいいカメラ持っといて、その程度しか撮れないわけ?」

「へ?」

「いや、首を傾げられても……」

 あかねは少し考えて、言いました。

「マイナーってさ、独特なって意味じゃん」

「うん知ってる」

「つまりさ、まなみちゃんが一生に一度しか撮れないものって思えば、それだよ!」

「まなみが?」

 まなみは、ピンと来て、ほほ笑みました。

「そっか! ありがとうあかねちゃん!」

 走り去りました。あかねは、手を振って、まなみを見送りました。


 その日の夜、授業で行なった数学の復習をしていたまいのスマホが鳴りました。まなみからでした。

「はい金山です」

「あ、まいちゃん? お互い番号登録してて誰から来たかわかってるんだからさ、いちいち名乗らなくていいよ」

 スピーカー越しのまなみの一声に、まいは照れて、

「うるさいわね。癖でやっちゃうのよ……」

「ところで、明日暇だよね」

「え? ま、まあ予定はないけど」

「じゃあさ、ツチノコ撮りにいかない? 撮るっていっても撮影だよ」

「はあ? なにを言ってるの突然!」

「だって、ツチノコは誰も撮らないマイナーなかつ、一生に一度しか撮れないものだよ。ね? 撮りに行こうよ」

「いや、あのね……」

「そうと決まれば、明日十時、公園に集合っ!」

 と言って、まなみは通話を切りました。まいはしばらくスマホの画面を見つめて、唖然としていました。


 翌朝十時ぴったりに公園にやってくると、すでにまなみがベンチで座って待っていました。

「まいちゃん遅ーい」

「は? 十時ぴったりじゃないの」

「まなみはその二時間前に来てます」

 鼻を鳴らしました。

「いや、あんたの家近くでしょここ!」

 早くても五分前だと思うまいでした。


 目的地までは、電車で向かいました。片道四十分かかりました。

「おええっ!」

 駅に着くと、まいはトイレで吐きました。

「まいちゃん、乗り物弱かったんだ」

「だから行きたくなかったのに……」

「じゃあ、断ればよかったじゃん」

「断る前に電話切ったの誰よ……」

 ツチノコは、駅の隣にある、山にいるみたいでした。まいの体調が安静になると、すぐにそこへ向かいました。

「ここがツチノコのいる山かあ!」

「わりと大きな山ね。けど、ツチノコなんて所詮空想の生き物よ、いるわけがないわ」

「いるよ、だってあそこ、看板があるもの」

 指さすところに、"ツチノコのいる山"と表記された看板がありました。こんなものを真に受けるなんて、まいは、呆れてしまいました。


 山の中はとてものどかで、自分の住むところでは見ることのできない杉林、オジギソウが生えており、カッコウの鳴き声がしました。なんといっても空気が新鮮で、まいは、心地よい気分を味わっていました。

 一方でまなみは、ツチノコ探しに夢中でした。

「ツチノコさーん! ツチノコさーん!」

「呼んでも来やしないわよ」

「わからんよ? 返事をするかもしんないじゃん」

「わけあるか! いや、空想上の生き物だし、ありえるかも」

 まいは、ツチノコがひょっこり現れて、「ツチノコでーす」とあいさつする想像をしました。

「あ、雨」

 まなみが言うと、雨はポツ、ポツから、どしゃ降りへと一気に変化しました。

「山の天気は変わりやすいからね。どこか雨宿りできる場所ないかしら?」

 まいはまなみを連れて、雨宿りができるところを、探しました。

 二人は、大きな葉っぱを見つけて、そこで雨宿りをしました。

「なんかこれ、妖精になった気分だね」

 まなみが言いました。

「ふふっ。そうね」

 まいがほほ笑みました。

「あ、まいちゃん今日初めて笑った」

「え、そう? やだ恥ずかしい!」

 照れるまい。笑うまなみ。まいは思いました。

(あれ? おもしろがって写真撮ってくると思ったのに……)

 と考えて。

「って、私なに考えてんだ!」

 もっと恥ずかしくなりました。

「え、どうしたの?」

「な、なんでもない!」

 腕を組んで後ろを向くまい。

「そういえばまいちゃん、最初から思ってたけどさ」

「へ?」

「なんで制服なの?」

「……」

 聞かれたくなかった質問を問われて、まいは真っ暗な先の見えない地の底まで落ちていく気分に見舞われました。まいはずっと、制服でした。まなみと今朝会った時からずっと、制服だったのです。

「ねえなんで? 休日だよね、山だよね」

「えーっと、その~」

 冷や汗をかくまい。

「まいちゃん?」

「し、私立生たるもの制服でしょ」

「そんなルールないけど」

「制服でも平気だと思ったのよ!」

「確かにそこまできつい山じゃないけど、普通私服じゃない? お休みだし」

 だんだんごまかすのもしんどくなってきて、最後のツテに出ました。

「制服で山登り……。なんつって!」

 まなみは、シラケた目をしました。

「元はといえばあんたのせいでしょ!」

「え、まなみのせいなの?」

「そうよ! ツチノコなんてさ、実在しないもの撮りに行こうなんて誘ってさ、バカじゃないの?」

「やっぱ断ればよかったのに」

「断る前に電話を切ったでしょ!」

「まいちゃん屁理屈はよくないよ?」

 という一言で、火に油を注がれたまいは。

 バシーン!

 まなみのほおに、ビンタを当てました。

「なによ! 制服でいちゃ悪い? 悪いなら作者に聞きなさいよ!」

 続けて。

「いっつもおかしな写真ばかり撮って、そんだけいいカメラ無駄遣いして! 少しは振り回されてるこっちの身にもなってみなさいよ! わかったっ?」

 と、怒るとまなみは涙を浮かべながら、まいを見つめてきました。まいはあわててなんとかしようとしましたが、遅く、まなみは泣きながらどこかに行ってしまいました。

「やばい、追わなくちゃ……」

 山雨の中一人にさせては危ないから、追わなくては。まいは、ぬかるみに気を配りながら、まなみを追いかけました。しかし、もうすでに遠くへ行っており、どこへ行ったか、検討が付かなくなってしまいました。制服がぬれるのもおかまいなしに、とにかく探し回りました。

「まなみーっ! きゃっ!」

 コケました。制服が泥だらけになりました。体を起こしてぐしょぐしょの土を握りしめました。

「私の、せいだよね……」


 まなみと出会ったのは、入学したての頃行なった、テストの日でした。一通り終わらせたあと、何度も何度も見直しをしていたまい。ここで赤点を取ったら、中学生活が終わるかもしれないと、ハラハラが止まりません。

「お隣さん、どうかな?」

 チラッと、隣を覗いてみました。そこには、驚くべき光景が映り込んできました。

 お隣さん、まなみは、テスト用紙の裏面にいっぱい、落書きをしていました。拍子抜けてしまいました。

「はいテスト回収!」

 先生が号令をかけました。まいは前の席の人に、テスト用紙を渡しました。まなみも、テスト用紙を渡しました。落書きだらけの答案を……。

 下校の時、まいは思い切ってまなみに話しかけました。

「ねえねえ。あんた、テストに落書きしてたでしょ」

「うんそうだけど。暇だったしね」

「まさかあれあのままにして出したんじゃないでしょうね? ここの中学、あまりベタなことするとすぐに退学になるらしいよ?」

「まっさかあ! ちゃんと消したよ」

「え?」

「そりゃ私立のテストだもん。まなみ小学校から私立だしね、落書きしても消すんだよ。あ、もしかして君消してないの? やっぱ、普通の小学校の子だから」

「私はそんな質の悪いことしないし、普通の小学校でも落書きしたままテストを提出しないわよ!」


 と、出会った日のことを思い出しているうちに、山雨の雷がとどろきました。まいはすぐに立ち上がると、まなみを探そうと足を一歩踏み出しました。

「きゃっ!」

 すると、ぬかるみに足をすべらせてしまいました。ぬかるんだ坂道を、すべり台のように、どこまでもどこまでもすべっていきました。


 一方で、まなみも後悔をしていました。雷が怖いのに、一人で山の中にいることを。

「これが俗に言う遭難だよね。そうなんだ!」

 ピカッ! ドーン!

 雷がとどめき、まなみは震えながらうずくまりました。

「まいちゃん……。どこ? こんなことなら、富士山にしておけばよかった!」

 まなみは、立ち上がりました。

「まいちゃーん! まいちゃーん!」

 大声で、呼びました。しかし、まいが来ることは、ありませんでした。

「まなみの、おバカさん!」

 と、足を踏みしめた時、ツルっとぬかるみに足をやられて、すべり台のように、ぬかるんだ坂道をすべっていきました。どこまでもどこまでも、すべっていきました。


 大雨が上がって、太陽が昇る青空。そんな空の下で、泥だらけのまいとまなみは、山の入り口で、横たわっていました。

「うーん……」

 まいが、目を覚ましました。ゆっくり体を起こして、顔に付いた泥を払うと、隣で倒れているまなみに、目を見やりました。

「まなみ!」

 まなみの体を揺すりました。

「まなみ! まなみ!」

 しかし、目を覚ましません。あせるまい。何度も何度も体を揺すりました。目を覚ます気配がありません。

「そうだ、近くに病院はないかな」

 まなみをおぶさろうとしました。

「まい……ちゃん?」

 まなみが、目を覚ましました。

「まなみ……」

 まいはほおに涙が伝うと、まなみを抱きしめました。まなみも、まいを抱きしめてくれました。

「ごめんねまなみ。あんたはただ、ツチノコが撮りたかっただけだもんね」

「ううん、悪いのはまなみ。ほんとは、まいちゃんが撮りたかったの」

「へえ?」

 抱きしめていた体を離すと、まなみは説明しました。

「昨日の夜、まいちゃんに連絡する前まで、一生に一度しか撮れないかつマニアックなものを考えていたの。でね、テレビでね、ニュースが流れたんだ。明日の天気は晴れのち雨、大雨に注意しましょうって。そこでまなみ、ピンときたんだ。それを今から、説明するね。まず、まいちゃんを強引にツチノコ撮りに誘う。そして、山雨に遭う。雨宿りしてる最中に、まいちゃんがどうして平日も休日も制服なのか、しつこく問う。怒るまいちゃん、泣いて逃げ出すまなみ。んで、どっか隠れると。必死で探すまいちゃんは、不意にぬかるみに足を取られて、すべって泥だらけ。晴れたら存分に撮りまくる!」

 ネタばらしを聞いて、唖然とするまい。

「でもビンタは想定外だったよ。あと雷も。まなみ、雷怖いからさ」

 そして、カメラをかまえて。

「じゃあ、記念に一枚、二枚、三枚!」

 パシャパシャ撮りまくりました。

「あ、笑ってるといいかも。それを先生に見せたら、なんて言われるかな? うふふ!」

「なーにがうふふじゃあああっ!!」

「きゃあああっ!」

 まなみに、雷が落ちました。

「ったく。それ消してよねあとで」

 まなみはまいのげんこつで、たんこぶを二つも付けられました。

「はい……」

 しょんぼりした様子のまなみ。

「やっぱり富士山のがよかったか」

「あのなあ!」

 なんだかんだで、今の泥だらけの二人が、一生に一度しか撮れないマニアックな一枚なのかもしれません。

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