11.体育祭で勝負!

第11話

文化祭がおわると、翌週に体育祭が始まります。まいは、運動が得意でないため、体育祭が楽しみではありません。元々運動会も好きではありませんでした。

「はあ……」

 体育の時間。文化祭前から連日のように行われる体育祭の練習に、ため息をつきました。

「まいちゃん。ファイト」

 まなみが、肩に手を置いてきました。

「そうですよ。僕たち、バンドを組んだスターですよ?」

「いや、まあでもさ……」

「まいちゃんいい体してんだからさあ。リレーで遅くても、男子たちの目を釘付けにするから気にしない気にしなーい!」

「どこ見て言ってんの?」

 まなみをジトーっと見つめました。

「まいさん……。ちょっとよろしいかしら?」

 誰か話しかけてきました。

「あなたは副学級委員のよしこさん」

 よしこは、かけているメガネをカチャリと音を立てました。

「まいさん。わたくしはいよいよこの時を待っていたのです。そう、それはあなたとわたくしが決着をつける時がね!」

「はあ?」

「あなた、うざいわ!」

「率直ね……」

「あなたは成績が常に第二位! わたくしはそのマイナス二位……。なぜ、なぜあなたが第二位で、このわたくしがマイナス二位なのですか!」

「ま、まなみ?」

 まなみに耳打ちするまい。

「第四位ってことじゃないの?」

「いや、そういうことじゃなくて!」

「わたくしは、早くあなたと決着をつけたいので、この体育祭という機会を利用して、第四位から第二位へ昇格してみせるわーっ!」

 拳を天に掲げ、笑いました。

「なんなのあの子?」

 まなみに耳打ちするまい。

「まいちゃんって、変な人がよく近寄ってくるよね」

「あんたも大概だけどね……」

 苦笑しました。

 まず始めに行う競技の練習は、リレーです。女子生徒の大半は、リレーがしたくありませんでした。なぜなら、男子生徒たちが、自分たちの体を見てくるからです。

「なあなあ。あいつ胸大きくない?」

「だよなあ。走ると揺れるぜ?」

 男子生徒たちは、言われている女子生徒の気持ちも知らず、言いたい放題でした。

「金山はどうだ?」

 と、別の男子生徒たちが、まいのことについて話していました。

「あいつも胸でかいけど、背低いじゃん」

「お前金山がいいのか? ロリコンかよ〜!」

「バカ! でも、胸はなかなかだろ?」

「あの……」

 男子生徒たちは、声がしたほうに顔を向けました。ギョッとしました。

「あんまりうわさすると体育祭出られなくするわよ?」

 メラメラと燃えながら、拳をポキポキと鳴らしました。男子生徒たちは、ササッと離れました。

「まいさんって、強いなあ……」

 唖然としている石田君。

「石田様……」

 彼に、憧れの目線を向けるよしこ。

「それでは、リレーの練習を始めます! 走者の人は、位置についてください」

 教員の指示で、まなみ、その他のクラスの生徒が位置につきました。

「まいちゃーん!」

 手を振りました。

「バ、バカ! 子どもじゃないんだから……」

 照れました。

「ママ〜! お母さーん!」

 まなみは手を振り続けました。まわりの生徒たちがざわつきました。

「あんたが一番変人だよ……」

 まいは、額に手を押さえ、顔を赤らめていました。

「それでは、位置について、よーい!」

 ピストル(ニセモノ)が鳴りました。まなみが、一番速く走っていました。

「ウ、ウソでしょ……」

「まなみさんって、足早かったんですね……」

 呆然とするまいと石田君。

「ふふ……。まいさん? わたくしはあなたのことを今ここで追い抜いてみせるわ!」

 よしこは意気込みました。

「はい次よしこ!」

 と、教員が、次の走者の名前を呼びました。

「うふふ……。来たわ、まいさんと勝負する時が!」

「田中!」

「あら?」

 拍子抜けました。

「そんな! わたくしはまいさんと勝負するんじゃないの!?」

 まいとリレーができないことに、がっかりしました。

「まいさんは僕と勝負するみたいですね」

「そうなの? 石田君速そうねえ」

「いやいや! 僕も運動オンチですから」

 よしこは大ショックを受けました。

「どうして……。どうしてまいさんと石田様がいっしょに走るのよ〜!」

「お、おいよしこ! どこへ行く!?」

 スタート位置から突然逃げ出したので、当惑する教員。

「な、なんだ?」

 首を傾げるまい。ゴールではまなみも首を傾げていました。


 よしこは、誰もいない教室ですすり泣いていました。

「よしこちゃん」

 泣いている顔を上げました。

「きゃあああ!!」

 なまはげのお面をかぶったまなみが立っていました。

「まなみだよ〜」

 お面を外しました。

「なな、なんの用!? びっくりするじゃないの!」

「泣いてたから」

「!」

 よしこは、まなみから顔を逸らしました。

「ねえ。どうしてまいちゃんと勝負したいの?」

「成績第二位になりたいからでしょ?」

「どうして二位なの? ねらうなら、一位の石田君じゃない?」

 よしこはハッとした表情をしました。

「ん?」

「いい? まなみさん!」

 まなみの体操服の胸ぐらを掴みました。

「な、なに?」

「内緒にするのよわかった? わたくしは、石田様が好きなの……」

「石田……君が?」

「男の子とは思えないかわいさ! そしてやさしさ! わたくしは彼のそういった部分にホレてしまったのです……」

「ほ、ほう……」

「石田様は現在第一位の成績。そして、その下は金山まい! だから今回体育祭で第二位になって、石田様の足元に立てたらなって、思うのよ……」

「学力でじゃないの? 体育祭でなの?」

「勝てばなんでもいいのよ勝てば!」

「ええ……」

 唖然とするまなみ。

「まなみさん。まいさんとよくいっしょにいるわよね」

「まあね」

「じゃあ、まいさんの苦手なこと教えてちょうだいよ。彼女の弱点をつけば、優位に立てる気がするのよ!」

 メモ帳を用意しました。

「まいちゃんの苦手なことかあ……。なんだろうなあ?」

 まなみは考えました。


 翌日。朝から体育祭の練習がありました。

「またリレーの練習か……」

 途方に暮れるまい。スタート位置に立ちました。

「やーい! まいさんの、デカ乳〜!」

 よしこが、遠くから煽ってきました。

「チビ〜! 下着はいまだにお母さんのお下がりなの〜?」

「な、なによ〜」

 顔を赤らめるまい。

(まいさんの苦手なことその一! 見た目に関する悪口! なんかよく弟にやられてるみたいなこと言ってたけど……)

「まいさんの〜! チビデカお母さんのお下がり女〜!」

 変な悪口を叫びました。

「じゃかあしい!! あんたねえ〜、授業中に小学生みたいに悪口叫んでんじゃないわよ!」

「小学生ですって!」

 がく然とするよしこ。

「位置について、よーい!」

 ピストル(ニセモノ)が鳴りました。

「オラオラオラア!!」

 まいは、怒りで昨日よりも速く走りました。

「あっ」

しかし、途中でコケました。

「なんなのあの子! 見てなさい? わたくしはまだあなたの弱みを握っているのだから!」

 体操服のポケットに忍ばせておいたメモ帳を開きました。

「あまりみんなに迷惑かけないようにね?」

 まなみがアドバイスしました。

「まいさんの苦手なことその二! セクハラ!」

 ゴールに着いたまいは、水筒のお茶を飲んでいました。

「お疲れ様〜!」

 よしこは、まいのお尻を触りました。

「よ、よしこさん!?」

 びっくりして、振り向きました。

「うふふ! あなたのきらいな……」

 ニヤニヤするよしこ。

「え、やだ。なんかお尻に付いてた?」

 お尻を払いました。よしこはポカンとしました。

「はあ……。今度は台風の目かあ」

 まいはため息をつきました。

「女の子同士でお尻触ってもセクハラにならないよ?」

 と、まなみ。

「じゃあなんで苦手なことに入ってるのよ!」

「いや、それも弟君が……」

「まいさんとこの弟は、とんだ問題児のようね……」

 呆れました。


 小学校。

「ハックション!」

 ゆうきがくしゃみしました。

「大丈夫?」

 と、あかね。

「うん……」

 鼻をすするゆうき。


 私立中学校。

「今度は弟に関連したものじゃないわね? 苦手なことその三! 運動……」

 メモ帳を投げ捨て、

「始めから真っ向に競技で勝負してやればいいのよ! なーにがセクハラよ! なーにが見た目をバカにするよ!」

「今さら気づいたの?」

「まなみさんも相当なおバカさんのようね?」

 まなみの体操服の胸ぐらを掴みました。

「いや、でももしまいちゃんと競技でいっしょになれなくて、勝負できなかった時のために用意したんじゃん!」

「そっか……」

 まなみの胸ぐらを離しました。

「まいさんといっしょにならなくちゃ戦えない。誰かと変わらなくちゃ……」

 台風の目で、まいがいるチームと勝負をする男子生徒が列で並んで待っていました。

「ねえ〜ん?」

 その男子生徒は、声をかけられ、顔を向けました。

「あなた〜。わたくしと変わらな〜い?」

 色気を出しているつもりですが、男子生徒は唖然として、なにも答えませんでした。

「無視しないでよ! あなたはわたくしと選手を変わるのよ!」

 掴みかかりました。

「ちょ! なにすんだよやめろよ!」

「なにしてんのよ、よしこさん!」

 女子生徒たちが、群がってきました。

「もうすぐ体育祭なんだから、仲良くしなくちゃダメよ。ね?」

「は、はあ……」

 よしこは、掴みかかるのをやめました。

「くう〜! 今はそれどころじゃないっつの!」

「どんまい」

 と、まなみ。

「ああ、石田様! わたくしはあなたに認められたい……。そして、体育祭が終了してから、二人きりになった愛の園で……」

 夕闇に包まれる教室で二人きり、愛し合う想像をしました。

「ああ〜ん♡」

 興奮しました。まなみは唖然としました。

「まあでも、石田君が弟君に見せる姿と同じか……」

「まなみさん!」

「はいっ?」

「あいつと交代してきなさい?」

 親指で、まいと勝負する男子生徒をさしました。

「えー? さっきできなかったから?」

「めんどくさがらないの! 早くやってきなさい!」

「はいはーい」

 しぶしぶ受け付けました。

「ねえねえ」

 話しかける。

「なに?」

「台風の目出たいんだけどさ、変わってもらっていいかな?」

「いいよ」

「ありがとう!」

 まなみは、男子生徒と台風の目の選手を交代しました。

「イエイ!」

 グッドサインを送るまなみ。

「イエイ……じゃねえわ! わたくしは? わたくしが選手になるんでしょ!」

 怒りました。

「ああもういいわ……。こうなったら自分の力だけでまいさんと勝負してやるーっ!」

 いよいよ台風の目の練習が始まる時、まいの隣に無理やりよしこが乱入してきました。

「まいさん! 尋常に勝負!」

「な、なになに!?」

 あわてるまい。

「はいそこ! 乱入しない!」

 教員に怒られ、そそくさと離れるよしこ。

「くう〜! どうせわたくしなんて、二位にもなれない哀れな子羊なのだわ……」

 ハンカチをかんで、涙を流しました。

(はりきってるなあ……)

 石田君は、感心していました。


 体育祭当日。雲一つない天気になりました。

「まいちゃん、がんばろうね!」

「う、うん!」

 はりきるまいとまなみ。

「体育祭、僕たち一年生は初めての行事ですね!」

 はりきる石田君。

「石田様……。どうかあなたのがんばるお姿だけでも、わたくしのまなこに残してください……」

 祈りのポーズをするよしこ。

 一年生対抗のリレーが始まりました。

「先生! 石田君が足をくじいたみたいです!」

 と、女子生徒が報告しました。

「大丈夫石田君!?」

 まいがかけつけました。

「さ、さっきの台風の目でやられたみたいです……」

「えーじゃあ、私誰とリレーするの?」

「見えない誰かと」

 まなみが答えました。

「そういう冗談は今通用しないから。誰か二回走るか、それとも……」

 よしこが前に現れました。

「わたくしが出るわ。まいさん、いっしょに走りましょ?」

 まいはほほ笑んで、

「うん!」

 と、答えました。

「それでは位置について!」

(まさか、石田様のケガのおかげでまいさんと勝負できるなんて……。でも、なんか複雑?)

「よーいどん!」

 ピストル(ニセモノ)が鳴り、スタートダッシュを決めました。まいとよしこは、二人とも互角のスピードです。両者とも勝ちをゆずりません。

 しかし、他の走者のほうが速く、まいとよしこは、一番ビリッ欠でした。そのため、二人の応援をする人は、五分五分でした。

「わたくしがゴールするのおおお!!」

 二人ともゴールに向かって一直線。ゴールが近づいてきた!

 その瞬間、二人とも同時に足を滑らせてしまいました。コケた瞬間、指の先がゴールに付きました。判定は、両者同点の、六位でした。


 体育祭がおわりました。夕闇に包まれた校庭で、肩を並べるまいとよしこ。

「まいさん……。その、今日はとても楽しかったわ」

「私もよ。こんなに体動かして楽しかったのは、初めてかも」

「また勝負しましょ!」

 握手を求めてきました。

「一体なんの?」

 まいはほほ笑んで、握手しました。

「二人とも、仲良くなりましたね」

 こっそり覗き見していた石田君が言いました。

「よかったねえ」

 こっそり覗き見していたまなみがコクコクとうなずきました。

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