8.まいとゆうきの甥っ子
第8話
ある日の休日。
まいは、居間で読書をしていました。ゆうきは、部屋でマンガを読んでいました。
読書をしていると、家の外で、車の停まる音がしました。
「まい! かわいいいとこたちがお出迎えよ?」
仕事着のままのさくらが居間に来ました。
「お母さん? どうしたの仕事着のまま……」
「いとこを連れてきたの」
「へ? まさか、タクシーで?」
「そうよ。両親に、送迎を頼まれたのよ」
「こんにちはあ」
いとこ二人が入ってきました。
「りんちゃん! それと、まさと君も!」
長女のりんと、長男のまさとがやってきました。
「まさと君はいつぶりかしら? 確か、生まれて来た時に見た以来かな?」
「そうかもね。まさと君、今小学二年生だから」
と、さくら。
「りんちゃんが小学三年生だから、ああ、一つ違うだけなのか」
「でも一応あいさつだけしておきます。初めまして、まさとと申します。以後、お見知りおきを」
丁寧におじぎをしました。
「あ、はい……」
唐突の丁寧さに当惑するまい。
「もうまさと! 親戚なんだから、そこまでかしこまらなくてもいいの!」
りんが注意しました。
「ごめんなさいお姉ちゃん! でも、親戚でも普段会わない人たちだから、礼儀正しくしないといけないって、お母さんが……」
「あはは! いいのいいの。金山家はみーんな丁寧さのかけらもないんだから!」
「お母さん? それはないんじゃないの?」
まいがさくらをにらみました。
「ゆうきは?」
りんが目を輝かせて聞きました。
「ゆうきならお部屋よ」
「誰か来たの? お、りんちゃん!」
「ゆうきー!」
やってきたゆうきに抱き着くりん。
「あはは! 相変わらずだなあ」
「じゃ、母さん仕事に戻るからね」
「お母さん。今日は何時に帰ってくるの?」
「さあ? 残業がなければ、夕方には帰ると思うけど……。あ、今日はこの子たちお泊りするみたいだから、うな重頼んどいたわよ。なにも準備しなくていいからね?」
ウインクして、仕事に戻りました。
「う、うな重?」
まいは唖然としました。
「よいしょ」
まさとが、ソファに腰かけました。
「あれ? 君誰?」
ゆうきがまさとに聞きました。
「バカねえ! この子はりんちゃんの弟のまさと君よ? あんた忘れたの?」
まいが呆れました。
「いえいえまいお姉ちゃん、気にしないでください。初めましてゆうきお兄ちゃん。僕は、まさとっていいます。以後、お見知りおきを」
ソファから立って、丁寧におじぎしました。
「お、おう」
「もうだから! そんなかしこまるな!」
りんが注意しました。
「ごめんなさいお姉ちゃん! でも、親戚でも初めて会う人には丁寧にあいさつしなさいってお母さんが……」
「ま、まあまあ気にすんなよ。今日泊まってくんだろ? 夜までゲームしようぜ?」
「わーい! ゲームゲーム!」
りんが喜びました。
「今日は初めて弟君が来たんだからね。まさとが決めていいぜ?」
「まさとはゲームやらないの」
「え?」
りんは言いました。
「まさとはね、ゲームなんてやらないから、誘わなくていいんだよ。ゆうき、いっしょにりんと二人だけでやろ?」
「うーん……」
「私部屋で宿題してくるわ」
と、まい。
ゆうきはにこやかに答えました。
「いや、そういうわけにはいかないだろ? まさと、パズルでもいいからやってみないか?」
「パズル? ピースをはめてくんですか?」
「いいや。そういうんじゃないけど……。まあ、やってみればわかるさ」
キョトンとするまさと。りんもキョトンとして、ゆうきを見つめました。
「へえ。あいつ意外といいとこあるじゃん」
感心するまい。
「いいかまさと? この黄色い丸っこいのが落ちてくる。それをこの下にいる黄色い丸っこいのと四つそろえるんだ」
「は、はい!」
コントローラーを操作するまさと。
「すると……消えた!」
「わあ!」
まさとは、黄色い丸っこいのが四つそろい、消えるのを見て、ほほ笑みました。
「その調子でやってみ?」
「はい!」
「ふーん……」
ややふてくされた顔でまさとを見つめるりん。
一時間経ちました。
「おお! 上達したじゃないかまさと!」
まさとをほめるゆうき。
「えへへ! ありがとうございます!」
喜ぶまさと。
「まあざっとこんなもんだな」
「ざっとこんなもんですね!」
二人は笑い合いました。
「あ、そうだ。りんもやる?」
「りんやらない……」
「へ?」
「りんは今、お絵かきしたい気分なの!」
「あーえっと……。お絵かきか、お絵かきね、うん。よし、絵を描こう!」
ゆうきはテレビを切って、絵を描く準備を始めました。
「ゆうき描いてあげる! なんかポーズして?」
「よーし! いいだろ。なんのポーズしてほしい?」
「土下座!」
「え……なんで?」
呆然とするゆうき。
「こないだパパが車ぶつけて、前乗ってた人が怖そうな人だったの。必死こいて土下座してた」
「え、それで俺土下座するの!?」
しかたなく、ゆうきは土下座しました。りんは、絵を描き始めました。
「僕も描きます!」
まさとも、りんの隣で絵を描き始めました。隣に来たまさとをにらむりん。
「えーっと……」
ゆうきを見ながら描き進めるまさと。
「いいもん! りんのほうがうまく描くもん!」
りんもペンを走らせました。
「できた!」
二人とも絵を完成させました。
「ゆうき、体を起こして。絵を完成させたよ?」
ゆうきは、体を起こしました。
「どれどれ。俺の記念すべき土下座像はいかに?」
二人の絵を見ました。
「ははっ。りんちゃん上手だねえ」
でも心の中では。
(もはや人間ではない……)
ただの大きな円に、小さく丸を四つ描いただけの絵でした。
反対にまさとの絵は、とてもうまく、年相応な形になっていました。
「まさと……。お前将来マンガ家とかなれるよ!」
絶賛しました。
「りんは?」
「ほんとですか!?」
「ああ! 印税稼いで、親を喜ばせろよ?」
ゆうきは、まさとの頭をなでました。
「はい!」
「ねえりんは? りんは?」
相手にされないりん。ムッとして、
「もう絵なんて描かない!」
自分で描いた絵を、くしゃくしゃに丸めました。
「りんはお腹がすいたのです。だからご飯にするのです!」
「お、おう。でもまだ十一時だぜ?」
「ふう。宿題おわったわあ」
まいが来ました。
「あ、制服星人が来た」
と、ゆうき。
「誰が制服星人だ!」
ムッとするまい。
「そうだ! ねえみんなでさ、お昼の材料買わない? 今日はさ、オムライスを作ろうと思うの」
「オムライス!?」
目を輝かせるりんとまさと。
「姉ちゃんが作らないのかよ」
「みんなで作るのよ。せっかくだからさ」
「姉ちゃんはすぐみんなで調理したがるんだから……」
「悪い?」
にらみました。
ショッピングモールに来ました。オムライスの材料と、なにかおまけで買える(まいとゆうき以外)ので、りんとまさとはお菓子コーナーにいました。
「りんこれ買う~!」
りんは、ほしいお菓子なんでもそろえました。
「あれ? まさとは?」
「僕はいいよ」
「え?」
「だって、お菓子は健康によくないと、お母さんが言ってたしね。僕は、お菓子はどうぞって出されたものしか食べないことにしてるから」
「えらいじゃない!」
と、まい。
「こういう時くらい、遠慮しなくていいんだぞ?」
と、ゆうき。
「はい。でも、遠慮しようかな……」
「いいっていいって。全部姉ちゃんのツケだから!」
「え、なに言ってんの? あんたはまさと君の分払うのよ?」
「え? で、でも俺一銭も持ってきてない……」
「りんもお菓子いらない!」
「え?」
りんに顔を向けるまいとゆうき。
「お菓子なんていらないもん!」
「え、り、りんどうした? そんなに抱えていらないは唐突すぎるぜ?」
「いらないもん!」
ゆうきに全部渡しました。
「え……」
呆然とするゆうき。
「りんちゃん?」
キョトンとするまい。
家に戻りました。
「じゃありんちゃんとまさと君で、卵をとかしてくれるかしら?」
白いエプロンを身に着けたまいが、指示しました。
「よーし! ”とかすぞ”~!」
りんがはりきりました。
「じゃあみんな、がんばれよ!」
ゆうきが応援しました。
「あんたは食器洗いに努めてもらうわよ? それまで、台所で突っ立ってなさい」
「え?」
ボン! 爆発音がしました。
「なになに!? 大丈夫?」
まいは、音がしたところへすぐにかけつけました。
「な、なんか卵を溶かそうとして、レンジに入れたら爆発した……」
と、りん。
「ええ!?」
まいは、すぐにレンジを開けました。
「お姉ちゃん? 卵をとかすのは、溶かすじゃなくて、箸でこうとかすことを言うんだよ?」
まさとは、きちんとできていました。
「え?」
「い、いいのよりんちゃん。私の知り合いも同じ間違いをしたことあるから……」
「まなみとアリスちゃんね」
と、ゆうき。
「あんたはガスもろとも爆発させたでしょ!」
気を取り直して、次の工程に取りかかりました。
「じゃありんちゃんには、ご飯を洗ってもらうわね。まさと君には、包丁で鶏肉を切ってもらいます。できるかな?」
「はい!」
「じゃあ、包丁持って。で、お肉に触れる手は、猫の手にして切るのよ」
「えっと……。こうですか?」
「上手!」
まいは拍手しました。
「むむう!」
りんがほおをふくらましている。
「りんも包丁使う!」
「え? でもりんちゃんはお米炊きが……」
「いや! りんも包丁使うの! お米はまさとがやって!」
「いいよ」
まさとは、快く受け付けました。
「じゃあ、切ってみて」
まいは、りんに鶏肉を切る係を任命しました。
「よーし! 切るぞ切るぞー!」
両手で持った包丁を高く掲げて、ザッといきました。
「こ、こら!」
「えいえい! えーい!」
肉は切れるどころか、ただ傷が付くだけです。りんはおかまいなしに、ザッザッと高く掲げた包丁を当てていきました。
「やめなさい!!」
まいが怒鳴りました。
「そんなことしたらケガしちゃうでしょっ?」
怒られて、りんはびっくり。
「いや、でも姉ちゃん機嫌悪い時にそうやって魚切ってるよね?」
「切ってないわ!」
涙目でうるうるしているりん。
「バカ! アホ! もうみんななんか知らない!」
りんは、カンシャクを起こすと、厨房を抜け出しました。
「り、りんちゃん!?」
「あーあ。姉ちゃんがあんな大きな声出すから」
「わ、悪かったわね……。だって、あぶなかったから……」
りんは、まいとゆうきの部屋で、すすり泣いていました。
「りーんっ」
ゆうきが来ました。
「どうしたんだよ? らしくないな、泣いちゃってよ」
彼女の肩に手を置きました。
「ゆうきは、まさととりん、どっちが好き?」
「へ?」
「どっち?」
ゆうきに顔を向け、聞きました。
「えっと……」
ゆうきは困惑しました。今のりんの表情を見て、答えました。
「俺は女の子が好きだから、りんかな?」
「ほんと!?」
りんは、ゆうきに体を向けました。
「りんもね、ゆうきのこと好きだよ!」
「ほんとに? あ、そうだ。姉ちゃんもな、機嫌悪いと、包丁高く上げて、あんちくしょーって、ぶった切りしてんだぜ?」
「えー?」
「おもしろいだろ? 今度カメラで撮影して見せてやるわ!」
「あはは!」
(よしよし。機嫌よくなってる)
ゆうきは、さらによくしてやろうと思いました。
「さらにな? 姉ちゃん怒ると、筋肉ムキムキ~って、なんだぜ? 某マンガ作品のキャラみたいに! 黄色に燃えてよ!」
「いやそれはないな」
「あ、はい」
リビングに戻ると、オムライスができていました。
「あとケチャップで絵を描いたら完成です!」
と、まさと。
「おお! まさとはどんな絵を描くんだ?」
「僕はえっと……」
「ゆうきの絵を描こうよ」
と、りん。
「え?」
「ゆうきの絵を描いて、どちらが上手が勝負しよ? いいよね!」
「う、うんわかった……」
「お、おい姉ちゃん……」
ゆうきはまいに、耳打ちしました。
「それではよーい、スタート!」
まいの合図で、勝負が始まりました。
「ぐぬぬ……」
二人とも、ケチャップで絵を描くのが初めてなので、四苦八苦しました。
「がんばれー」
まいとゆうきは応援しました。
「できた!」
りんとまさとは、見事描き上げました。
「どれどれ。ハンサムな俺を描いてくれたか?」
ゆうきは絵を見ました。
「誰もあんたのこと、ハンサムなんて思ってないわよ」
まいも見ました。
まさとは、上手に描いていました。対するりんは、とてもぐしゃぐしゃでした。唖然とするまいとゆうきでしたが。
「どう? りんのほうが
胸高らかにするりんに。
「よっ! 日本一!」
「すごいわ!」
まいとゆうきは、大げさにホメました。
「いやあ~。どうもどうも!」
すっかり上機嫌のりん。
「これは国宝級だな。ねっ、姉ちゃん」
「そ、そうね。国宝級ねえ」
「あの、僕のは……」
と、まさと。
「まさと君も上手よ。二人とも、慣れないケチャップのお絵かきなのに、上出来だわ」
「じゃあ十二時だし、さっそくいただくとするか」
「ダメ!」
りんが拒否。
「国宝級なら、食べずに保管するの!」
「ええ?」
唖然とするまいとゆうき。
「ガラスケースに入れて、日本で一番えらい人に捧げるんだよ?」
「そうなんだ! お姉ちゃんすごいね!」
まさとが感激しました。
「いやいやいや!」
手を横に振るまいとゆうき。
「りんはこれから国宝級の小学生になるぞー!
「おー!」
りんとまさとは高らかに笑いました。
「ち、ちょっとタンマ!」
と、ゆうきが声を上げる。
「あ、あのな? 国宝級のオムライスは、スマホで写真を撮れば、残るんだ」
「え?」
「食べ物は、何年も放置してるとくさるだろ? だからな、スマホでこう写真撮れば、残るんだよ」
自身のスマホで、二人がケチャップで描いたゆうきの絵付きオムライスの写真を収めました。
「ほらね」
写真を見せました。
「おお!」
感激するりんとまさと。
「ほっ。ゆうきナイス!」
グッドサインをするまい。その後、四人でオムライスを仲良く食べて、公園でキャッチボールをして、遊びました。
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