6.VR枕で大冒険 後編

第6話

再び、会食が始まりました。

 元の姿に戻った(まいは元々制服のままだけど)アリス、まい、まなみ、あかね、ゆうき五人は、いっしょのテーブルで会食をしていました。

「アリス久しぶり!」

 まなみが手を振りました。

「久しぶりね」

「ったく。夢の世界なんかずーっと居続けて……。なにしてんのよ?」

 まいが聞きました。

「なにって、決まってるでしょ? この国のお姫様になったの」

「はあ?」

「あんたたちこそ、りかに頼んで夢の世界をたんのうしに来たんでしょ」

「違うわよ。私たちは、あんたを起こしに……きたのよ」

「なんで今ちょっとだけ間が空いたの?」

「いや、まあ。なんか、連れてきたが正しいのか、起こしに来たのが正しいのか、よくわかんなくなって……」

「姉ちゃんは小さなことでこだわるなあ。それはそれとして、アリスちゃん、俺と踊らないかい?」

 手を差し伸べました。

「りかさんの作ったVR枕はね、思いついたことはなんだって実現できちゃうのよ? 例えば、あたしが手から鳩を出そうものなら……」

 手を握り、白い鳩を出しました。

「ほらね!」

「じゃあまなみがさ、超絶グラマーなモデルになるって想像すれば……」

 まなみは、みるみるうちにグラマーなモデルになりました。

「うっふーん!」

 色気を出しました。まわりの王子様たちが目をハートにして、まなみに近寄ってきました。

「ちなみに、あたしもバイオリニストになる夢を想像して、さっき演奏してたのよ?」

 あかねがまいに言いました。

「あ、あのね君たち? 目的を忘れてない?」

「俺もイケメンになるって想像して……」

「ちょっとちょっとストーップ!」

 まいが声を上げると、あたりが静まり返りました。

「どうしたのよまい?」

 アリスが首を傾げる。

「アリス! 夢の世界にもう二日も滞在して、両親を心配させてるんでしょ? 私もね、りかさんの発明品だかなんだかって聞いて、初めすごく心配したんだ! 元気そうでなによりだけど、ここは夢の世界。起きて、現実に帰ってくるべきよ」

「出たよ。この子すーぐまじめぶるんだから!」

 ゆうきとまなみ、あかねが笑いました。

「あんたらもアリスを連れてきたんだろが!」

 まいが暴言を吐きました。

「戻るわよ!」

 まいは、アリスの手を掴みました。

「やめて!」

 すぐに掴まれた手から離れました。

「アリス?」

「ここではあたしのなんでも思い通りよ? まだ子どもだけど、車やバイクを運転できるし、トレンド入りするし。あたしが夢見たなんでもありの世界……。そう簡単に出られるわけないわ」

 まいは、歯を食いしばりました。


 一方、科学の娘りかでは。

 実験室に映るモニター。そこに、夢の世界にいるまいたちの姿がありました。しかし肝心の発明者、りかは、実験室におらず、自室のベッドですやすやと眠りについていました。


 さて、夢の世界。

「じゃあわかった!」

 と、アリス。

「そんなに戻ってほしいなら、あたしと勝負しようよ」

「し、勝負?」

「そう。あたしとまいでさ。夢の世界でしかできない、究極の戦いをしましょ?」

「き、究極? なんじゃそりゃ?」

 唖然とするまい。

「いいね! さっそく俺たちで準備するからよ!」

 ゆうきが言うと、まなみとあかねとともに、会場準備に取りかかりました。

「ま、待ってあんたたち! どこ行くのよ?」

「会場準備だよ?」

 と、まなみ。

「ほんとにやるの!? てかどこでやるのよ!」

「ここしかないでしょ? 宴会場!」

 あかねが言いました。

「ええ……」

 まいは呆然としました。

「ふふっ!」

 アリスが笑いました。


 会食を楽しむ招待客たち。

「レディースエーンジェントルメーン! ただいまより、二人のお姫様たちによる、ガチンコ対決を開催しまーす!」

 まなみのアナウンスを聞き、招待客たちはステージに顔を向けました。

「はーい! 司会は新城まなみと?」

「西野あかねでーす」

「よろしくお願いしまーす!」

「お願いしまーす」

 あかねは思いました。

(まなみって、案外司会の時のノリいいよね)

「さて。あかねちゃん。今回の対決、一体どうなると思います?」

「え? え、ええっと……。まあ、どっちかが勝つんじゃないかな?」

「まなみはね、勝つか負けるかよりも、今回あかねちゃんと弟君で考えた勝負を、まいちゃんがやってくれることのほうが、おもしろいと思うんだよねえ」

「ね、ねえ。マジでやるの? ていうか、まいちゃんやアリスには、まだ教えてないじゃんなにするか」

「それがおもしろいんでしょ? アリスも認めてるし、なにより自信満々みたいだしね」

「ま、まあいいけどさ。ていうか、ここは夢の世界……。思えばなんだって叶うところだもんね!」

「さあということで、今回突然開きました、対決のルールを説明致します。はいあかねちゃん!」

「え、ええ? あ、は、はい!」

 あかねは司会の席から立って、説明しました。

「ルールとしては、えー勝負はみなさんの投票で決まるものです。これから、どちらがよかったか、ゆうきが配っている投票用紙に記入して、ステージに投げてください。一番票に書かれたほうが、勝ちです!」

「勝負は三回戦まで。それでは、まもなく選手入場でーす!」

 まなみが声を上げると、拍手が起きました。

 ステージの幕が開く。開くと、そこにはまいとアリスが並んで立っていました。

「あわわ……」

 まいは、大勢の視線を浴び、緊張しました。

「うふっ!」

 アリスは、陽気にウインクしました。

「さあさあそれぞれお二方には、意気込みを言わせてもらいましょう」

 まなみは、まずアリスにマイクを向けました。

「アリス選手から!」

「せーいっぱいがんばるから、みんな応援してね!」

 拍手が起きました。

「はいまいちゃん!」

 まいにマイクを見せました。

「な、なにを言えばいいのよ?」

 まなみに耳打ち。

「なんでもいいよ?」

 同じく耳打ちで返すまなみ。

「が、がんばります……」

 拍手が起きました。

「さあ! 実は、まだ二人にはどんな勝負をするか言っていません。どんな勝負が来ても、文句なしで行ってください!」

「はーい! まっちゃんわかったよ」

 アリスは元気に返事をしました。

「変なことさせないでよ?」

 まいは、まなみをにらみました。

「まいちゃん、がんば……」

 あかねは、小さく応援のポーズをしました。

「最初の第一戦は……。あかねちゃんお願いします!」

 あかねは、マイクを持ちました。

「最初の勝負は……」

 まいは思いました。

(あかねちゃんなら、変なの吹っかけてこないわよね。問題はあとの二人……。あーもうなんで勝負の内容を相談してくれなかったのよ!)

 心の中でムシャクシャしました。

「かわいさ対決~!」

「ぎょえ!?」

 まいは、ひっくり返りそうになりました。

「この勝負は、どちらが観客を湧き立たせるほどかわいさをアピールできるかを競う勝負! それじゃあ、いってみよう!」

「ちょーっと待った待ったタンマ!」

 まいが止めに入りました。

「まいちゃん。悪いけど、勝負は強制なの」

 と、あかね。

「いやいやいや! なんで私がそんな性に合わないようなことしなくちゃいけないのよ!」

「ごめん……」

「あかねちゃんなら、もっと普通な勝負をさせてくれると……」

 まいは涙を流しました。

「いや、でもさ。それじゃあまなみがつまんないって言うから……」

「まなみ~!」

 まなみにグッと近づき、にらみました。

「はいはい文句なしだよ? 始め!」

「おいーっ!」

 一番手は、アリス。

「ねえ……。これ買って?」

 上目遣いで覗き込むようにして言いました。拍手と歓声が上がりました。

「買ってあげる! 買ってあげる!」

 王子様たちの歓声が響きました。

「なんなのよ……」

 唖然とするまい。

「それでは続いて、まいちゃん!」

「ええ!?」

 オロオロするまい。

「まっ。あんたみたいなまじめしか取り柄のないやつが、あたしに敵うわけないわよね」

 アリスはほくそ笑みました。まいはその顔を見て、ムッときました。

「やってやるわよ……」

 ステージの一歩前に出る。

「別に……。あんたのためにこんなことしてるわけじゃないんだからね!」

 ツンデレを見せました。歓声と拍手が上がりました。

「ツーンデレ! ツーンデレ!」

「王子様らしからぬ歓声……」

 唖然とするまい。

「さあ。どちらがよかったか、投票用紙を記入し、投げてください!」

 投票用紙が投げ込まれました。アリス、まい、まなみ、あかねは投票用紙を拾い集めました。

「えー集計できました! 結果は……」

 天井についている照明が二人を交互に照らしました。どちらに向くのでしょうか。

「結果は……。勝者、まいちゃん!」

 まいにライトが照らされました。拍手と歓声が上がりました。

「ええ!?」

 驚くまい。

「ウソでしょ。みんなツンデレがよかったの!?」

 アリスが目を見開き、聞きました。

「ツーンデレ! ツーンデレ!」

 王子様がそろってコールしました。

「な、なんでよもう……」

 悔しがるアリス。

「さすがまいちゃん! 普段からツンツンしているおかげで、とっさに出たツンデレキャラが勝利へと導いた!」

「ほんとにすごいわ……」

 感心するまなみとあかね。

「やかましい!」

 怒るまい。

「さて! 続いて。まなみからの挑戦状でーす!」

「挑戦状って……」

 呆れるまい。

「第二戦は! ファッション対決!」

「え!?」

 がく然とするまい。

「どちらがすばらしいコーデをしているか、競ってもらいまーす!」

「着替えは、ステージ裏にあるから、好きなの着てね」

 あかねが案内しました。

「え、ちょ……」

 当惑するまい。

 着替え室に来ました。

「ファッションショーなんて。あたしの得意分野じゃない!」

 アリスは自信満々で着替えに入りました。

「ち、ちょっと! 私服装でキャラが変わるの知ってるでしょっ?」

 あかねに言う。

「でも強制だし……」

「あんな人がたくさんいるところで自分じゃないキャラになんてなりたくないわよ! こればかりは出ないわっ」

「で、でもまいちゃん……」

 あかねが当惑していると。

「なに? あんた怖いの?」 

 アリスが煽ってきました。

「今度こそあたしに怖気づいたのね。いいわよ? あたしとしては、ずっと夢の中にいられるから。まいは勝手に戻ればいいじゃない」

 と言って、着替え室を出ました。

「あ、あいつ~!」

 まいは、メラメラ燃えました。

「この際、なんでもいいわ!」

 まいは、やっつけで服を選びました。

「さーて! 二人ともどんな衣装を選んだでしょうか? それぞれのセンスが問われる対決ですので、楽しみですねえ。特にまいちゃんは……。さあ、幕オープン!」

 ステージの幕が開きました。

 アリスは、メイド服を着ていました。

「まずはアリスから。どうしてメイド服なの?」

 あかねが聞き、マイクを掲げました。

「たまにはいいかなあって。こういうの男の子好きでしょ?」

 猫のポーズをしました。

「萌え萌えきゅん♡」

 王子様たちは目をハートにしました。

「王子様たちのハートを射止めたあ!」

 まなみが声を上げました。

「そしてまいちゃんは……」

 まいのファッションは……。

「……」

 会場全体が静まり返りました。まいの格好は、ブーケを両手に抱えた、白いウェディングドレス姿だったのです。

「な、なんでウェディング姿に?」

 あかねが聞き、まいは答えました。

「これしかキャラが変わらない服がなかったのよ……」

「ああ……」

 呆然とするあかね。

 しかし、王子様たちの拍手と歓声は、アリスよりも大きく上がりました。

「はーなよめ! はーなよめ!」

 王子様たちの熱い歓声が響きました。

「こ、これは大好評だあ!」

 と、まなみ。

「な、なんか恥ずかしい……」

 照れるまい。横からにらんでいるアリス。

「さあ! 投票お願いしまーす」

 まなみのひと声で、すぐに投票用紙が投げ込まれてきました。結果はまいの圧勝でした。

「さあ! 次の勝負は、俺から出すぜ?」

 ゆうきが出てきました。

(まずいわ……。まいがさっきから勝ち進んでいる。このままじゃ、あたしは夢から覚めなくちゃいけなくなる!)

 アリスは、危機感を感じていました。

「次の勝負は……」

 カッと目を見開き、言いました。

「俺をドキッとさせることを言わせたやつの勝ち!」

 招待客の歓声が上がりました。

「いわゆる、女の子から告白の言葉をもらって、男の子がドキッとするみたいなさ」

「それを姉である私にさせてほしいってのかあんたは!」

 ムッとするまい。

「姉ちゃんかわいいから、十分いけるよ!」

「なんで弟であるあんたにそんなこと言われなくちゃならないのよ!」

「さあまず一番手誰から?」

「はい!」

 アリスが手を挙げました。

「アリスちゃんから? いいよ。多分、秒でホレると思うけど」

 アリスは、ゆうきの前に立ちました。

(こうなったら、夢の世界というツテを活用して、こいつのことわざとホレさせてやるわよ!)

 アリスは企みました。

「スタート!」

 まなみがかけ声を上げ、スタート。

「ねえ……。付き合お?」

(ホレろ……)

 かわいく色気を出したスキに、心の中で、念じるアリス。

 ゆうきは目をハートにして、

「アリスたんちゅきちゅき~!」

「きゃあああ!!」

 ベタベタとくっついてきました。

「むちゅ~!」

 厚いくちびるを重ねてこようとしました。

「キモイキモイ~! 離れろ~!」

 念じてかけた魔法を解きました。

「あ、あれ? 俺なんかしてた今?」

 ゆうきは、我に返りました。

「ふん!」

 アリスがビンタしてきました。

「え、え?」

「はい続いてまいちゃん! スタート!」

 まなみのかけ声でスタート。

「ゆうき……」

「は、はい?」

「あんた……。調子乗ってんじゃないわよ?」

 にらんできました。

「あ、あの……。そういうドキッとじゃなくて……」

 しかし、歓声と拍手が沸き上がりました。

「え、ええ!?」

 呆然とするゆうき。

「もういいわこの勝負。あんたの勝ちで」

 と、アリス。

「ええ!?」

 驚くゆうき。

「じゃあ、帰るの? ていうか、覚めるのもう?」

 アリスは、「うん!」とうなずきました。

「アリスはあきるのも早いんだよ?」

 と、まなみ。


 パッと目が覚めると、科学の娘りかの実験室の天井が見えました。まいたちは眠気眼をこすりながら、体を起こしました。

「おはようみんな!」

 りかが来ました。

「学校の準備は大丈夫? 朝食に、食パンと目玉焼きとサラダ作っといたからね」

「そうだ。私たち、今日も学校に行かなくちゃいけないんだ!」

「みんな、ごめんね。あたしのせいで」

 謝るアリス。

「いいのよ。なんか、結構楽しかったしね」

「今度はさ、もっと純粋に楽しもうぜ? そうだな、みんなで大人になった夢とかどう?」

 と、ゆうき。

「夢ならあんた一人で見て?」

 にらむアリスとまい。おびえるゆうき。

「さっ。学校行きましょうよ」

 と、あかね。

「みんな。朝食作ったから、食べてよ」

「ありがとりかさん」

 まなみがお礼を言いました。

「ち・な・み・に……」

「はいはい。発明品は採否についてでしょ?」

 と、まい。にこにことうなずくりか。

「アリスみたいに、夢中になりすぎてもきちんと起きられるようになったら、採用じゃないかしら?」

「かもね」

 まい、アリスが言い、ゆうき、まなみ、あかねもりかに顔を向けました。

「はいわかりました!」

 りかは、まいたちに敬礼しました。

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