5.VR枕で大冒険 前編
第5話
夜。まいは、ゆうきと共同で使っている寝室で、一人勉強をしていました。来月に行われる期末テストに向けて、取り組んでいました。
スマホが鳴りました。
「まなみだ」
通話をかけました。
「はいもしもし」
『ねえ……。何色のパンツ履いて……』
にへら~っとしているまなみの声を聞く間もなくまいは、スマホを切りました。
再度、スマホが鳴りました。まなみからでした。
「はいもしもし?」
『俺だよオレオレ!』
まいはスマホを切りました。しかし、再度かかってきました。
「いい加減にしなさいよ!?」
今度は怒鳴ってやりました。
『ご、ごめんごめん! じ、実はさ、今から科学の娘りかに来てほしいの……』
「はあ? なんであんなインチキ科学者のとこに来なくちゃならないのよ!」
『アリスが今やばくてさ』
「え? アリスがどうやばいの?」
『りかさんの発明品で、永眠状態なの』
まいは、スマホを落としました。
『まいちゃん? 大丈夫?』
「わわ、わかったわ! なんかよくわかんないけど、ピンチなのね?」
『うん』
「ゆうきも連れてくから、待ってなさいよっ?」
スマホを切りました。
「ゆうき!」
居間にいるゆうきのもとへ向かいました。
まいとゆうきは、夜の街をかけ抜け、科学の娘りかに来ました。
「はあはあ……」
ずっと走りっぱなしだったので、息を切らしているまいとゆうき。
「で、姉ちゃん……。ここでまなみとアリスちゃんが今、危機的状況だというのか?」
「そうよ! だってあいつの発明品よ? アリスが永眠状態ということは……。きっとなにかまずい状況になっているに違いないわ!」
「で、俺らはなにするの?」
「強行突破よ!」
まいは、そーっと科学の娘りかのドアを開けて、ゆうきと中に入りました。中は、真っ暗でした。
「で、強行突破してなにするの?」
「しっ!」
静かにするよう促しました。
実験室へ続く、階段を下りました。そして、入り口まで来ました。
「な、なあ? もし俺たちになにかあったら……」
「いい? せーので入るわよ?」
「ええ? な、なにすればいいんだよ結局!」
「いくわよ! せーのっ!」
ドアを押し開け、強行突破!
「やあいらはい」
りかがあいさつした。中では、りか、まなみ、あかねの三人が、実験台を囲んで、お茶をしていました。まいとゆうきは、拍子抜けて、コケました。
「まいちゃんもマドレーヌ食べる? りかさんの手作りなんだって」
「おいしいわよ」
まなみとあかねが勧める。
「二人とも来てくれたんだね!」
と、りか。
「な、なにしてんだよ?」
立ち上がるゆうき。
「弟君、来る時まいちゃんに聞かなかった?」
りかが聞きました。
「いや、まあ。なんか、アリスちゃんが危機的状況なんだろ?」
「そうよ! 一体どうしたっていうのよ? なんか、三人でお茶してのんきにしてるように見えるけど?」
まいも聞きました。
「まずこれを見て?」
まいとゆうきは、りかに示された場所を見ました。
そこには、実験台の上ですやすやと寝息を立てて眠る、アリスがいた。
「アリスちゃん!」
「な、なぜアリスがここに?」
「それはね、りかの発明品にやられたのよ」
と、あかね。
「やっぱり! あんたなんか変なことしたんでしょ!」
まいが、りかを指さす。
「そんな……。あたしはただ、この子の要望に応えてあげただけだよ」
「一体どんな要望よ!」
「コホン。えー遡ること、二週間前……」
りかは、二週間前の話をしました。
二週間前。学校帰りにアリスは科学の娘りかに立ち寄ってきました。
「あんたが、まなみが前話していた、科学者ね?」
「そういう君は、まなみちゃんのいとこの、小原アリスちゃんね。今日はどうしたの?」
「なんでも発明できるのよね?」
「もちろん! あたしに発明できないものはぬわい!」
胸を張りました。
「じゃあさ、仮想世界を行き来できるようなもの、作れない?」
「へ?」
「今時、VRとか、eスポとか流行ってるじゃん? そんなんじゃなくてさ、まるで現実にいるような、そんな気分にさせてくれるような発明はできない?」
「ええっと……」
「なんでもできるんでしょ? テレビにも出たことあるんでしょ?」
「うーん……。わかった! じゃあさ、二週間待ってて。また連絡するから」
「うん!」
アリスは喜んで、満面の笑みでうなずきました。
「そして昨日できあがった作品を試して、今現在こうなっているのよ」
「一体どんなの? やっぱなんかまずいのじゃ……」
「心配しないでまいちゃん。まなみも始めは驚いたけど、これは今までのよりマシなやつだよ」
りかが、アリスに渡したという発明品を手に持ち、紹介しました。
「名付けて! VR枕!」
「VR枕?」
と、ゆうき。
「この枕を使えば、自分の見たい夢を必ず見ることができる! さらに、その夢がまるで起きている時の感覚で楽しめちゃうのだ!」
「つまり、どういうことよ?」
りかに聞くまい。
「まずVR枕の電源を付ける。そして、あとは自分が見たい夢を想像するだけ!」
「ええ? そんなんでどうして夢が見られるのよ?」
「人間の脳波を枕が読み取って、見たい夢をインプットしてくれるからよ」
「相変わらず、常軌を逸した発明だな……」
ゆうきが呆然としました。
「で、まなみはアリスが昨日から帰ってこないという話を、アリスの両親から聞いていて、りかさんのとこに行ってくるとか聞いてたから、試しに来てみたらこの様で。いろいろ試してみてはみたんだけどなあ」
と言って、シンバルを鳴らしました。
「それでも起きないの!?」
まいは驚きました。
「で、あたしはついでに呼ばれたのよ」
と、あかね。
「あかねはそういうキャラだからな」
「ゆうき? あんたもでしょ?」
ゆうきをにらみました。
「昨日からずっとアリスは寝たままなの?」
「そうなのよまいちゃん」
りかが答えました。
「なんでよ? 人間の睡眠時間は長くても八時間よ?」
「いやあ、すぐ起きれるように設定したんだけどねえ。でもなぜアリスちゃんは起きないのか……」
りかは、パソコンの前のデスクに座りました。
「その原因を探るため、君たちでこのVR枕を使い、アリスちゃんの夢の中に行こうという作戦を立てていたのだ!」
「へ?」
キョトンとするまいとゆうき。
「い、いやよ! なんかあったら誰がどう責任取るのよ?」
「まなみは別にいいよ」
「まなみ!」
「だって、夢の世界を起きてる感覚で行けるんでしょ? それって、すごくない?」
目を輝かせるまなみ。
「すごくない! ね、あかねちゃん」
「あたしもちょっと気になってて……」
「えー……」
「考えてみれば、俺も気になってきたぜ! りか、どうするんだよ?」
りかは答えました。
「君たち分、VR枕を用意したわ。枕には、それぞれコードが付いていて、それをアリスちゃんとみんな繋げてしまえば、お互いに同じ夢の世界を行き来できるわけ」
「おお!」
感心するゆうき、まなみ、あかね。
「私はやよ? りかさんの発明なんだから、きっとなにかあるに違いないわ?」
まいは腕を組み、そっぽ向きました。
「まいちゃーん……。アリスちゃんのは特例だよ? 多分、君と三人はすぐに起きるはずなんだよねえ。だって、この枕は八時間しかもたないからさ」
「それがどうして昨日から眠ったままなの! やっぱりアリスになにかしたでしょ!」
まいは断固として、枕を使わないつもりでした。
「えーでもおもしろそうなのに」
「ねっ」
「アリスの夢の世界、どんなだろ?」
ゆうき、まなみ、あかねの三人は、実験台そばに並んだ三台のベッドにそれぞれ寝転がり、VR枕に頭を乗せていました。
「ちょーっとあんたら!!」
ツッコむまい。
「じゃあコード繋げるね」
りかは、三人の枕からそれぞれのコードを繋いでいきました。
「枕が作動すると、軽い振動でそのうち眠気が来て、眠れるから。おやすみー」
「おやすみなさーい」
三人がりかに声をそろえ言うと、実験室の明かりが消えました。
「ち、ちょっと! わ、私はどうなるのよ! ねえ!」
「まいちゃんの分もあるよ?」
暗闇で、りかはまいの分のVR枕を見せました。
「あ、あんたはどうするのよ?」
「あたしはパソコンで一晩中、この子たちの夢の監視」
ウインクしました。まいは顔をしかめました。
「まいちゃんも使いたくなったらいつでも言ってね」
「だ、誰が使うもんですか! ふんっ!」
腕を組み、そっぽを向きました。
「……」
でもすぐに後ろを振り返りました。
「ね、ねえ……」
パソコンから、まいの顔を向けるりか。
「今晩、まなみの家に泊まるかもって、家に言ってあるのよ」
「ふーん。それで?」
「やっ、だからその……。こ、ここで寝てもいいかなって」
「いいよ」
「そ、それで……。ついでにその変な枕、使ってやってもいい……わよ?」
「ふーん……」
りかは、ニヤリとしました。
「遠回しに使いたいって言ってるでしょ?」
「うるさい! ま、枕ないと寝れないから、ついでに使ってやってもいいわよって言ってるのよ!」
「へえー。あたし一晩中ここにいるから、あたしの布団で寝てもいいんだよ?」
「そそ、そういうわけには……」
「はいはい。とりあえず、ベッドも用意してあるから、横になって?」
まいもVR枕を使用し、横になりました。
(振動が来た。眠りを誘う振動ね……)
VR枕から来る振動を感じながら、まぶたを閉じました。
まいは、一人森の中で佇んでいました。
「ここがアリスの夢の世界?」
あたりを見渡しました。
「ゆうき? あかねちゃん? まなみ?」
三人の名前を呼びました。しかし、返事がありません。
「三人はどこに行ったのかしら? あっ」
まいは、遠くに立つお城を見つけました。
「あそこにアリスがいる? あの子、童話が好きだから、童話のお姫様になった夢を見て、覚めなくなってしまったのかしら?」
と言って、まいは笑いました。
「なーんて! 小説じゃあるまいし、夢の世界が気に入って覚めないなんて人がこの世にいるかしら? やっぱりりかさんの発明品のせいよ。きっとね……」
とりあえず、お城に向かいました。
しばらく歩いて。
「やあ、そこのお嬢さん。僕とお茶しない?」
「へ?」
若い、ホスト風の男が現れました。
「あれっ? ね、姉ちゃん?」
男が指さしてきました。
「もしかして……。ゆうき!?」
まいも指をさしました。
「これはこれは……。まあいいや姉ちゃんで。君かわいいね! 俺とお茶しない?」
ウインクしました。
「いや、あんたなんでそんなチャラい大人になってんのよ?」
「これが俺の夢だからさ!」
「は?」
「俺はイケメンになり、将来女の子にモテる! それが俺のドリームさ!」
ウインクしました。
「あっそ。どうでもいいけどちゃんと覚めなさいよー?」
彼をほっといて、お城に向かいました。
「おい待てよ姉ちゃん! 俺を一人にしないでよ!」
「気持ち悪い! 手掴んでくんな!」
掴まれた手を振り払うまい。
「いや、正直な話、夢の世界に来てから、迷子になってんのよね……」
と、苦笑。
「てことは。あとの二人もどこかでまいごになってんのかしら?」
「あとの二人? ああ、まなみとあかねか。知らねえ」
「とにかく、私はあのお城に行こうとしてるの。あそこにアリスがいるかもしれないわ。いっしょに来なさい」
「おう、いいぜ」
ゆうきは、まいについていくことにしました。
「ていうか、あんたそのホスト風の大人姿やめれば? なんか変よ?」
「いや、戻り方わかんねえし」
「じゃあいいわよ」
二人はお城へ向かいました。
歩いて三十分。ようやく、お城の門の前に到着しました。
「ここか……」
まいとゆうき、とても高いお城を見上げ、呆然としました。
「やいこのあやしいやつらめ! 我が城になに用だ!」
門番が、槍を向けてきました。
「きゃあ!」
まいが驚きました。
「ふっ。これはこれは門番さん。俺たち、お城の舞踏会にお呼ばれされた者ですよ?」
大人風になったゆうきは、さわやかに門番に説明。
「ああ、そうでしたか! これは失礼。どうぞ、お入りください」
門番は門を開け、二人を通しました。
「あ、あんたってたまにはやるじゃない……」
「今の俺は大人だからな。姉ちゃんは俺の姪っ子ってことにしてやるぜ?」
ウインクしました。
「うざ……」
ムッとしました。
お城では、本当に舞踏会が開かれていました。宴会場では、ドレスに身を包んだお姫様や、王族服に身を包んだ王子様がそれぞれ会食を楽しんでいました。
「す、すげえ……」
呆然とするゆうき。
「こんなとこ初めて……」
呆然とするまい。
「あれ? もしかして弟君とまいちゃん?」
馴染みのある声がしました。
「よくお城に来たねえ!」
メイド服のまなみが、食事を運んできました。
「ま、まなみ! あんたここでなにしてんの!」
「なにって、メイドだけど?」
「いやまあそうなんだけど!」
「気づいたら、まなみはここでメイドとして雇われてた……」
まいは、唖然としました。
「それよりも、弟君なんで大人になってんの?」
「俺はイケメンになって、女の子にモテたいからだ!」
「ふーん。まいちゃん、これから、バイオリンの演奏といっしょにダンスをするみたいだよ? 相手がいなければ、弟君と踊れば?」
「へ? べ、別に踊らなくてもいいでしょ?」
「いや、ここに来た人は、強制的に踊らされるらしいの」
「は? 私踊りなんてやったことないし、やりたくない!」
「じゃあ、弟君以外のああいうおじさんとか、ああいうおじいさんにシャルウィダンスとか言われて、強制的に踊らされてもいいんだね?」
「はあ?」
呆れるまい。
「ちなみに。演奏はあかねちゃんだからね!」
「あかねちゃん? あかねちゃん!?」
まいは目を見開きました。
楽器の演奏が始まりました。ダンスが始まる合図です。王子様、お姫様たちは手を取り合い、ダンスを始めました。
「ほら、姉ちゃん。踊るぞ?」
「きゃあ!」
ゆうきに無理やり手を取られ、踊るハメになるまい。
演奏家の立つ舞台には、あかねがいました。薄紫色のドレスを身に着け、バイオリンを弾いていました。
「あ、あかねちゃんがバイオリンを弾いている……」
踊りながらつぶやくまい。
「あいつの夢なんだろ? こういう舞台で演奏するのが」
ゆうきは、誤ってまいの足を踏みつけてしまいました。
「いったあああ!!」
悲鳴を上げるまい。
「ごめん……」
すると突然、宴会場全体が真っ暗になりました。全体がざわつきました。
「はーはっはっは! 今宵、宴に現れるは、小さな天使!」
一つの照明が光りました。そこに、真っ白なマントをまとった、少女の姿が見えました。
「レディースエーンジェントルメーン!」
少女はボンと爆発し、白煙の中で姿を消しました。会場全体がざわつきました。
「きゃあああ!!」
少女は悲鳴を上げながら、テーブルに置いてあったケーキの上に落ちました。照明が照らされて、ケーキに頭から突っ込んだ少女の姿が映りました。会場にいる王子様とお姫様が笑いました。
「な、なんなのあれ……」
「俺の予想だと、おそらくあの子は……」
と、つぶやくゆうきを見るまい。そして、もう一度少女に顔を向けました。
少女がケーキから顔を抜き出しました。
「ふう……。いい登場の仕方だったのにな」
まいは、目を丸くしました。
「ア、アリス……」
呆然としました。白い天使と名乗り、登場した少女は、二日間眠ったままの、アリスだったのです。
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