8・メイド喫茶で職場実習を行いました
第8話
メイド学園は、夏休みに入りました。夏休みの間は全生徒それぞれの自宅に戻ることになっています。寮に留まることはできません。しかし、F組の生徒たちは、終業式の翌朝、校庭に集められていました。
「今日はどんな授業を受けるんだろうねえ」
と、まい。
「さあな。このクソ暑い日に、ビリケツのF組だけ校内百周ランニングじゃねえか?」
と、ゆうき。
「二人とも! 変な会話はやめて~!」
ひとみが止めに入りました。
「なんで!? なんで私たちだけ夏休み当日に学校にいるの?」
まいは、ショックで頭の中が真っ白のようです。
「だからあたいらがビリケツだからで……」
「なにか、悪いことしたのかな……」
ひとみが心配しました。
「あーあ。今年の夏休み、妹たちと会えるの楽しみにしてたのに」
ゆうきがしゃがみ込んで、ほおづえをしました。
「私だって! 実家のベッドに寝転んで、一日中ゲームしようと思ってたのに!」
「……」
唖然とするゆうきとひとみ。
「あたしも家族と旅行に行く予定だったよ」
「へえー。どこ行くの?」
まいが聞きました。
「そんな大したとこじゃないけど……。うち田舎だから、東京に行こうと思ってて」
「これからその東京に行くのよ?」
声がして、三人は顔を向けました。
「にゃんにゃん!」
「あー! 売店にいたメイドカフェにいそうな猫耳付けた痛い人だ!」
まいが指さしました。
「誰が痛い人だコラ!!」
怒鳴りました。
「あ、いっけにゃーい! 初めましての人もいると思うので、軽く自己紹介といくにゃん。ミーはみこちゃんっていうの。気軽にみこ先生って呼んでね?」
猫のポーズでウインクしました。
「それで、あたいたちになんの用だ? なにもないなら今すぐ帰してくれ」
「チッチッ。君たちには職場実習をしてもらう。だからミーはここにいるのにゃ!」
「じ、実習?」
戸惑うひとみ。
「そう! どこで実習すると思う? ヒントは猫耳とメイド服のかわいいかわいいミーちゃんのことを見ればわかるにゃよ!」
F組の生徒たちが、そろってみこ先生から離れていきました。
「アホらしい」
呆れているゆうき。
「こないだ食べた売店の焼きそばパン、あれ絶対コンビニで買ったやつだよね」
呆れているまい。
「夏休み、家族と東京を観光!」
ウキウキしているひとみ。
校門をくぐろうとするF組。しかし、自動で門扉が閉まり、鍵までかかりました。
「ええ?」
まいが振り返る。
「メイド学園をあなどっちゃいけにゃいよ?」
目をギラギラさせて、あやしくほほ笑んでいました。
F組はしぶしぶ、みこ先生のもとに集まりました。
「さっそく、実習の説明をするにゃん!」
猫のポーズで言いました。
「普通にやれ……」
ゆうきがにらみました。
「わ、わかりました……」
怖気づいたみこ先生は、普通に説明することにしました。
「君たちには、メイド学園の生徒として、秋葉原にあるメイド喫茶各店舗にて、職場実習をしてもらうよ? 何日かって? 今日だけだよ!」
F組はみこ先生から離れ、帰ろうとしました。
学園を出ようとして、校門の門扉が閉ざされました。
「見よ! 今日がんばった者たちに、褒美を与える!」
職員室のパソコンで作ったレストランのチラシを見せました。そのレストランは、セレブしか来ない高級レストランで、東京では有名な場所でした。F組の生徒たちは、目を輝かせました。
「どうかにゃ? 別に断ってもいいのよ~? ただね、これを断ったら、一生ここには来られないかなあ?」
煽りました。
「高級レストラン……」
まいが息を飲みました。
「まい!」
「まいちゃん!」
ハッとして、まいに顔を向けるゆうきとひとみ。
「行きます!」
結局、全員挙手しました。
「よーし! じゃあさっそくバスに乗り込むにゃ」
「え、え? い、今からですか?」
「そうよ? だってそのためにみんなを夏休み当日に呼んだんでしょ?」
当然かのように答えるみこ先生。F組はみんな呆然としました。
F組とみこ先生はバスに揺られ、秋葉原駅へ到着。
「ここが秋葉原かあ!」
感激するまいとひとみ。
「お前らは地方出身か」
と、ゆうき。
「私は東京だけど、多摩のほうだから」
「そりゃ田舎だな」
「あたしは愛知出身」
「じゃあさ、トーストにあんこ付けても平気なほう?」
「まい。お前変な質問するなよ」
「で、でも小倉トーストっていって、トーストに小豆を付けたスイーツがあるけどね……」
ゆうきはひとみの返事にあっけらかんとしました。
「はいみんなちゅいもーく!」
みこ先生が声を上げました。
「バスに乗務中、みんなに配ったメイド喫茶の心得たるプリントを目に通してくれたと思うけど。もうそこに書いてあるとおりのことやればいいからね!」
ニコッとほほ笑みました。
「なんで私たち生徒が先生のバイト時代に怒られたことやらなくちゃいけないのよ」
「うるさーい! がんばれば高級レストランが、学園持ちで食べ放題だからね? 一日遅れの夏休みのために、がんばるにゃん!」
猫のポーズでウインクしました。
「さーて。私たちはどこのメイド喫茶かな」
F組はそろってみこ先生を無視して、それぞれ行う実習場所へ向かいました。
「こんのガキども! メイド喫茶の厳しさ、思い知るがいい!」
みこ先生は生徒たちを見送りながら、悪い顔で笑いました。
まい、ゆうき、ひとみの三人は、秋葉原駅から徒歩十分ほどにある、”くるくるランド”というメイド喫茶にやってきました。
「なんだか、都会の中にある小さなメイド喫茶って感じだな」
つぶやくゆうき。
「くるくるランド……」
ひとみがクスッと笑いました。
「ひとみちゃん、今笑った?」
「わ、笑ってないよ!?」
あわてて手を横に振りました。
「すみませーん。実習させていただきます、メイド学園の者ですけど……」
まいがあいさつをして、中に入ると。
「ウェーイ!!」
頭にハチマキを付けたいかにもオタクとイメージが名高い男たちが雄叫びを上げて、メイドたちのライブを楽しんでいました。
「L・O・V・E! は・づ・きーっ!!」
「みんなありがとー!」
小さなステージの上に立って手を振っている黒髪ロングのメイド。彼女がオタクたちに名前を呼ばれていた、はづきでしょうか。
「フーッ!!」
というかけ声とともに、小さなステージの上に立つ三人のメイドは、裏に戻っていきました。
「もしかして、裏口からあいさつに向かうんじゃないか?」
ゆうきが言い、三人は裏口へと向かいました。
裏口に来ると、先ほどステージに立っていたメイド三人を見かけました。
「あ、すいません! 私たち、メイド学園の者なんですけど」
まいが声をかけると。
「あークソだりい! なんでいつもいつもさ、あんなくっさい連中相手にかわいこぶらなきゃいけないわけ?」
と、はづきと呼ばれていたメイド。
「ほんとほんと。あたしたちもぉ、好きでこんなことしてるんじゃないっての!」
と、茶髪のメイド。
「でもしかたないじゃん。ここもらえるし」
と、赤髪のメイド。三人はタバコを吹かして、愚痴をこぼしていました。
「ん?」
まいたち三人に気づきました。
「おかりなさいませお嬢様方。ここは入り口ではございませんよ?」
タバコを捨て、営業スタイルを見せました。
「いや、あのメイド学園の実習で来たんです!」
あわてて答えるまい。
「ああ、実習ね……」
「え、なんでそんな急にトーン下がるんですかっ」
はづきの突然変化した表情に、当惑するまい。
「ねえねえ。あんたたちメイド学園ってことはさ、メイド喫茶の営業任せられるよね?」
茶髪のメイドが、懐からもう一本タバコを取り出し、火を付けました。
「い、いやその……。あたしたち、なんというかその……」
おろおろするひとみに代わり、
「あたいたち、メイド喫茶のことなんてなに一つわかんないまま連れて来られたわけ」
ゆうきが答えました。
「ふーん。まあいいや。とりあえず、適当に客の相手してればどうにかなるから。あとはよろしくね」
と、赤髪のメイド。
「え?」
「じゃ、よろしくー!」
メイド三人は私服に着替え、まいたち三人を放ってどこかに行ってしまいました。
「まさかあいつら……。メイド喫茶の仕事がめんどくさくて、あたいたちに営業を丸投げしたんじゃ……」
「ええ!? ゆ、ゆうちゃん! そんなことってある? 花の女子高生にそんなことってある?」
あわてるまいとひとみ。ゆうきは冷静に答えました。
「まあ、なったもんはしかたねえ。いいかお前ら。とりあえず、適当に客の相手して、適当におわらせればいいんだ。そうすれば、高級レストランが待っている」
「高級レストラン……」
まいとひとみは、実習をおえてくたくたの体の前に、食べ放題のバイキングが見える想像をしました。
「わかった!」
そして、メイド喫茶の営業を一任する決意をしました。
時刻は正午を迎えた頃。オムライスを求めてくるくるランドへ殺到するオタクたち。
「い、いらっしゃいませ……じゃなくて」
そこへ、
「おかえりなさいませ、ご主人様!」
くるくるランドのメイドになりきるまいが登場。
「おおーっ!!」
興奮するオタクたち。
「小生、今までこれほどまで背丈が小さく、天使のようなメイドを見たことがないでござる!」
「まさかお主! 本当は小学生ではあるまいか!」
オタクたちはまいのことをまじまじと見つめながら、口々に言ってきました。
「あはは……。なわけねえだろ」
「うおおおお!!」
歓喜の雄叫びを上げました。
「え、ええ?」
当惑するまい。
「せ、席へご案内します……」
まいは、オタクたちを席へ案内しました。
「ご、ご注文をお、お伺いします……」
もう一人、緊張しい雰囲気のメイドが来ました。
「萌えええ!!」
そのメイドを見て、オタクたちは雄叫びを上げました。
「ひい!」
まいに無理やりうさ耳を付けられたひとみは、メニュー表を抱えて、怯えました。
「オムライス! オムライス! オムライス!」
オムライスコールが流れました。
「か、かしこかしこまりました~!」
ひとみは逃げるように厨房へ向かいました。
「ぜ、全員オムライスみたいです~」
「あいよ!」
と、ゆうき。フライパンとフライ返しを片手ずつに持ち、回して調理を開始しました。
「おりゃおりゃーっ!」
速足でオムライスを作りました。
「ほらまい、ひとみ! 客を待たせている間にステージの披露だ!」
「イ、イエッサー!」
二人はステージに移りました。
「フーッ!」
オタクたちが声を上げました。
「え、えーではでは。私たちまいアンドひとーみのコントを始めたいと思いまーす」
「ええ!? なんでまた唐突に!」
ひとみが素でツッコミを入れました。
「あははは!」
オタクたちが笑いました。
「えー私たちメイド学園という名門校から実習で来てんな、ひーとみ」
「あ、あれ? ひとーみじゃなかったっけ?」
「あははは!」
何気ないひとみのツッコミに大笑いするオタクたち。
「じゃあひとみちゃん! 私たち、これから歌おう。みなさんも、歌いましょう!」
「ええ!? も、もうまいちゃん! なんでも思いつきで言わないで!」
ひとみが怒ると、まいはほほ笑み、答えました。
「楽しければなんでもいいじゃない。そういう場所でしょ?」
ウインクしました。
「ひとみちゃん、なに歌いたい?」
ひとみはクスッと笑い、答えました。
「世界に一つだけの花!」
オムライスができるまでの間、オタクたちと世界に一つだけの花を歌い、盛り上がりました。
「お待ちどおさまです、ご主人様」
ゆうきが、お盆六つに乗せたオムライスを持ってきました。
「よっ、男前!!」
と、オタクたちが一声。
「残したやつはその分高くつくからな!」
ゆうきは声を上げました。オタクたちには好評で、歓喜の声を上げていました。
「な、なんと……」
まいとひとみは呆然としました。
「いししし!」
みこ先生は、秋葉原の電気街を歩き回りながら、いやらしく笑っていました。
「実習中のF組の連中を見てると、みんな手こずってるみたいね。そうそう、これこれ! いつものうのうと学園で過ごしてるビリケツのガキどもに臭い連中しか集わない場所に連れてすったもんださせる。いつもいつもミーのことを見下して、あいつらはA組の子たちと違って、マナーも礼儀もなってなさすぎるのよ!」
売店の商品を買い占め、かといってあれがほしいこれがほしいと注文をつけてきて、パンやおにぎりを食べ散らかし、校内中に食べカスが絶えないので食べカスが出るような商品をやめるように校長に言われたこともありました。
「だからコンビニのおにぎりとか焼きそばパンにしてやったのに、あいつらバカだからすぐ買ってきやがる……。ふざけんじゃねえぞ、こっちだって売店やるためにメイドが学園来てんじゃねえだボケエ!!」
通りすがりのサラリーマンにアッパーをかけました。サラリーマンは、空の彼方へ消えていきました。
「はあはあ……」
息を切らすみこ先生。彼女を見て引き気味の通行人たち。
「でも、今日という日を得て少しは頭を下げたはず!」
にんまりしました。
くるくるランドに来ました。
「ほえ?」
期待を外しました。なぜなら、まい、ひとみ、ゆうきの三人はオタクたちの声援を浴びながら、大道芸を披露していたからです。
「そんな……」
はづきたちメイド三人が帰ってきました。まいたち三人を見て、がく然としました。まさか、ここまで大盛況になっているとは思っても見なかったからです。
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