5・調理実習でスイーツを作りました

第5話

きゃっきゃっとにぎやかなF組は、今は調理室にいました。

「メイド学園の調理室って、意外と普通なんだねえ」

 調理室を見渡すまい。

「どんなのを想像していたの?」

 ひとみが聞く。

「もっとさ、レストランみたいな、豪華な厨房! なのに、中学の頃みたいな感じだよ? そこに集うメイド服の女子高生たちってね」

「……」

 唖然とするひとみ。

「ふん。調理実習なんてかったりい」

 ゆうきがぶっきらぼうにつぶやきました。

「子守が得意のくせに」

「ああ!?」

 まいをにらむゆうき。

「はいはいみなさん。お待たせしました」

 ふくよかな女性がやってきました。

「わたくし家庭科担当の瑞穂みずほといいます。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします!」

 F組の女子生徒たちは、そろってあいさつを返しました。

「さて、君たち新入生に行ってもらう最初の授業はねえ」

 黒板に内容を書きました。

「はい! 調理実習です!」

「だろうな」

 と、ゆうき。

「でも、ただの調理実習じゃなくてよ? なんと! スイーツを作ってもらいます!」

「スイーツ!?」

 驚がくするF組。

「作るものはなんでも結構。一人で作りたいものを決めるもよし、班になって協力して作るもよし。とにかく、おいしいスイーツを作ってみて」

「あ、あの!」

 女子生徒が一人、手を上げました。

「はいなんですか?」

「こ、これにはどういう意味が……」

「今後、メイドとしていろいろなところへご奉仕に向かうようになります。その時に、スイーツを提供することがあるの」

「は、はあ」

「ここで言うのもなんだけど、一番上手にできた子は、今後学園長が直々に贈呈するスイーツの担当役として、抜粋してくれるかもしれません」

 騒然とするF組。

「まずはスイーツを考えてもらうことから始めてもらうわ。はい、スタート!」

 スイーツを考えることから始まりました。

「スイーツねえ」

 まいは、シャーペンのノズルを額に押さえつけながら、考えました。

「あたしも、スイーツなんて作ったことないからわかんない」

「ひとみちゃん? 今私がなにも考えてないように見えたでしょ?」

「う、ううん!」

 あわてて首を横に振りました。

「そうなんだろ」

 ゆうきが断言。

「そういうゆうちゃんは思いついたのっ?」

 ムッとして聞きました。

「ああ。でも、弟や妹に食べてもらうようなのばかりだったから、パンケーキだけど」

 イラストを見せました。三枚重ねの生地に、はちみつとバターが乗ったパンケーキでした。

「おお!」

 感激するまい。

「ホットケーキ、上手に焼けるの?」 

 感激するひとみ。

「ふん。ホットケーキなんて、今時百円ショップでも生地が手に入るんだ。素人でもできるさ」

「うーん……」

「ひとみ。小学生の頃、ヨーグルトにフルーツやお菓子を盛り合わせたことないか?」

「ある、けど……」

「そういうのでいいと思うぞ。家庭的な味が、一番好まれるからな」

「そっか!」

「ねえねえ。私にはなにかアドバイスくれないの?」

 にこやかに、聞くまい。

「お前は自分で考えろ」

「ほげっ」

 ひっくり返るまい。

「ま、まいさん……」

「もうわかった! 私だって、昔ママとクッキー焼いたことあんだからね? 多少自信あるんだよ!」

 胸を張りました。

「あなたたち、スイーツは思いついたの?」

 瑞穂先生が来ました。

「はい、先生。私は、クッキーにしました」

「あ、あたしはヨーグルトに、いろいろ盛り合わせたのです」

「あたいはパンケーキ」

「三人ともとてもすばらしい案ね。さっそく取りかかってくれるかしら?」

「はい!」

 三人は、はっきりと返事をしました。

「はい、千円」

「はい?」

 首を傾げる三人。

「これから、一階の売店で材料を買ってきてちょうだい。それから取りかかるのよ」

「え、あ、買うとこからですか?」

「ええ」

「買うとこから……」

「ええ」

「ええ……」

 呆然とする三人。


 売店へやってきた三人。

「お帰りなさいませご主人様!」

 メイドカフェで見るような猫耳を付けた背の小さな女の子が、売店のレジにいました。

「あ、あのここは売店でしょうか?」

 まいが聞きました。

「はい! 当店は日用品、医薬品、充電器、その他なんでそろっている、売店でございますにゃん!」

「あ、そ、そうですか……」

 苦笑いするまい。ひとみも。

「なあ。今調理実習やってて、一通りそろえてほしいんだけど」

 と、ゆうき。

「はい! なにがほしいかにゃん?」

 笑顔を振りまくメイド店員。

 少し動揺して、ゆうきは注文の品を述べました。

「ホットケーキの材料とクッキーの材料、あとヨーグルトとそれに盛り付けるものなんでもいいから持ってくるんだ」

「かしこかしこまりました!」

 さっそく奥の倉庫に向かうメイド店員。

「かしこかしこまりましたって……」

 唖然としているまい。

「お待たせしました。ホットケーキの材料と、クッキーの材料、ヨーグルトとそれに盛り付けるものですにゃん!」

 三人は目を丸くしました。持ってこられたのは、ホットケーキそのものと、クッキーそのもの、ヨーグルトと盛り付けるものはクコの実でした。

「あの、私たち材料って……」

「はい! 材料なんかよりも、そのままできたてをお持ちするのが、メイドの役目だにゃん!」

「いや、私たちは……」

「いいからとっとと帰れよ?」

 突然にらんできて、キャラが豹変しました。

「ひっ」

 怖気づくまい。

「おい……」

 にらむゆうき。

「お前メイドだろ? だったら人の注文くらい素直に聞き入れろよ?」

 拳をポキポキ鳴らし、威嚇。

「ぐぬぬ……」

 メイド店員は。

「うわ~ん! 持ってけドロボー!」

 ホットケーキの材料とクッキーの材料、ヨーグルトの盛り付けを置いて、倉庫に逃げていきました。

「よかったね」

 ひとみがほほ笑みました。


 調理室に戻り、スイーツ作り開始。

 ゆうきは、ホットケーキミックスと卵、牛乳を混ぜていました。

「えーっと……」

 まいは、レシピを見ながら、クッキーの材料を混ぜていました。

 ひとみは、緊張しながら、久しぶりに触れる包丁でいちごをカットしていました。

「あ、ゆうちゃん。ちょっといい?」

「ああ?」

 まい、混ざり切ったホットケーキミックスの生地を指ですくい取り、舐めました。

「おい……」

 呆れるゆうき。

「えへへ! 子どもの頃からよくやってたんだ」

「あ、あたしも……」

 ひとみも指ですくい取り、舐めました。

「ひとみまで!」

「ホットケーキって、焼く前からおいしいよねえ」

「うんうん!」

「まだまだ子どもだな」

「なんて言うゆうちゃんも舐めてるじゃん!」

「かく言うお前は、クッキーはどうなんだ?」

「クッキー? もうね、形にして、焼くだけだよ。なんだけど……」

 腕を組み、むずかしい顔をしました。

「どうしたの?」

 ひとみが聞く。

「いやあのね? なんか普通に丸くするのはおもしろくないと思ってさ。おもしろい独特な形にしたいわけよ」

「型はないのか? 先生に聞いて、借りてこればいいだろ」

「いやいや。型抜きとかそんなんじゃなくて、独創的なアイデアだよ」

「はあ?」

「ああ!」

 まいはひらめきました。

「これだ!」

 ササッと作り上げました。

「まいちゃん、これは……」

 とぐろを巻いた形のものができました。

「これぞまさに独創的な形……。うん……」

 どんな形かを言おうとして、ゆうきにぶたれました。

「型抜きあったから、これにしろ」

「あはは……」

 苦笑いするひとみ。

「ひとみはちゃんと果物は切れたのか?」

「うん。久しぶりで緊張はしたけど、きれいにできたと思う」

 カットした果物を見せました。いちごやメロン、オレンジがきれいにカットされていました。

「基本、包丁を持っていない手を猫の手にすれば、めったに切らない」

「なるほど!」

 納得しました。ひとみは、コップに注いだヨーグルトにカットしたフルーツを乗せて完成しました。その後は、まいとゆうきの手伝いをすることにしました。


 調理実習で行うスイーツ作りは、明後日の家庭科の時間が猶予でした。ゆうきとひとみはその日のうちに完成させましたが、まいは独創的な形にこだわりすぎて、なかなか完成が見えてきません。

「はいということで! お二人には、どんなデザインのクッキーにしたらいいか、ご意見をいただきたいと思いまーす!」

「普通に丸いクッキーでいいと思いまーす」

 口をそろえるゆうきとひとみ。

「それじゃダメなの!」

「なにをそうこだわっている?」

「だってさ、ここの学園長が、直々に認めてくださるんだよ? ということは、私はアリスよりもえらくて、この学園の一躍大スターってわけだよね!」

 まいは、学園の大スターになり、大勢の生徒の前で高笑いをしている姿を想像しました。

「わっはっは!」

 想像しながらその場で高笑いするまい。

「アホらし……」

 呆れるゆうき。

「で、でも。目標があることはいいことだよまいちゃん」

「ひとみちゃんいつもいいことを言ってくれるねえ」

 ひとみの肩に手をポンと置いて、ほめました。

「で、ひとみちゃんはどんなデザインがいいと思う?」

「ええ!?」

 いきなり振られ、戸惑いました。

「ええっとええっと……」

 必死で考えました。

「あっ! 鳥なんてどうかな?」

「鳥?」

「そう。あたし、中学時代の修学旅行で、鳥のサブレをおみやげに買ったことがあって」

「なるほど。鳥のサブレ食べてみたいな」

「なんで感心しながらそれを言う?」

 ツッコミを入れるゆうき。

「鳥は鳥でも、鳥って漢字とかおもしろいかもね」

「え?」

 唖然とするひとみ。

「あとあと……。なにがいいかなあ?」

「はい。あたい思いついた」

「ゆうちゃん! いざって時の救世主……」

 目を輝かせながら見つめるまい。

「独創的なデザインだろ? だったら……」

 ゆうきは、まいのメイド服の胸倉を掴みました。

「お前自身をクッキーの生地でコーティングしてやれば!」

「いやそれじゃオーブンで焼かれてあぶないから!」

 まいは戸惑いました。

「ああもう! ゆうちゃんはすーぐ私に暴力的な答えを返すんだから!」

「お前の質問がくだらなすぎるんだよ」

「その、独創的だとかにこだわらなくてもいいのでは?」

 ひとみが聞きました。

「いいや! 私、こう見えてプライドは高いほうなんだよね。だから、誰もやらないようなことを追求して、意地でも学園長に認めてもらってやる!」

 熱く燃えました。闘志に燃えるまいを見て、ゆうきとひとみはお互いの顔を合わせ、肩をすくめました。

「あそこまでわたくしの授業にやる気を示してくれるなんて! できあがりが楽しみね」

 木陰から覗いていた瑞穂先生が、クスっと笑いました。


 二回目の家庭科の授業が始まりました。

「それではみなさん、どんなスイーツができたか、提示してください」

 生徒たちは、それぞれできたスイーツを机に置き、瑞穂先生に提示しました。いちごのケーキを作った人、フルーツポンチを作った人、ハート形のチョコレートを作った人など、それぞれ完璧なスイーツが掲げられていました。

「みなさん、すばらしいですね」

 瑞穂先生がほめました。

「前にも言ったけど、今後ご奉仕のために、お届けするスイーツを手がける人を、学園長が直々に指名することになっているの。そこで、新入生には必ず、初めての家庭科の授業で、スイーツを作ってもらっているんです」

 F組、全員息を飲み、緊張。

「大丈夫よ。過度に気にしなくても、みなさんとてもすばらしいですからね」

「でも、こんなの学園長は認めてくれないだろうな……」

 ひとみは凍らせたフルーツを盛ったヨーグルトを見つめ、つぶやきました。ただフルーツを盛るだけじゃなくて、冷凍にしてみようと思い、今日まで冷凍庫に入れておいたのでした。

「そんなことねえよ。あたいはひとみのヨーグルト、なかなかいいと思うぜ?」

「へ?」

 ゆうきは、ほおづえをついて遠くを見つめていました。

「ゆうきさん……」

 ひとみはほほ笑みました。

「先生! 私のクッキーを見てください」

 まいが元気よく手を上げました。

「まいさん?」

 瑞穂先生は、まいのいる場所へ寄りました。

(一体どんなクッキーができあがったのかしら?)

 まいのいる席へ歩み寄り、わくわくしながらクッキーの見物に向かう。

「あらあ?」

 しかし、実物を見て、そのわくわく感は、一気に消滅してしまいました。

「これが私の作った、独創的なデザインのクッキーです!」

 そのデザインとは、人間の足でした。

「人間の足なんて作る人、世の中にいませんよね? だから、学園長に直々に選抜されても……」

 モジモジするまい。瑞穂先生は唖然としたまま、言いました。

「こ、これはなかなかなさすぎて、学園長もどう思われるか知れたものじゃないわね……」

「え、それっていい意味ですか? 悪い意味ですか?」

「察しろ!」

 ゆうきがツッコミました。

「独創性というのも、あまり見出すのもよくないんだね」

 ひとみは一つ勉強した気がしました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る