3・ロボットを作りました

第3話

私立メイド学園では、遅刻は厳禁。遅刻をした人は、その時間の授業は教室に入ることができない決まりになっていました。

「やばい! 遅刻遅刻~!」

 まいも経験者です。

「あと一分!」

 あと少しでF組の教室に近づく。

 しかし、扉の前に来た瞬間に、チャイムが鳴り、扉の鍵が閉ざされてしまいました。

「そんな~!」

 がく然とし、座り込むまい。こうなってしまえば、なにをするわけでもなく、途方に暮れるだけです。

「ちなみに、遅刻が三回続くと退学らしいぞ」

 前の席から、ゆうきがひとみにつぶやきました。

「まいさん、健闘を祈ります……」

 ひとみは健闘を祈りました。


 二限目の授業は、技術室で行うようです。F組の生徒たちが、技術室へと向かっていました。

「あーあ。遅刻するとほんとに教室に入れないんだ……」

「なんで遅刻したんだよ?」

 ゆうきが聞きました。

「なんでって……。一限目が始まる寸前、お腹が痛くなって」

「もしかして、女の子の日?」

 ひとみが聞く。

「いや、瓶牛乳三本も飲んじゃって!」

 照れ笑いするまい。

「ただの下痢かよ……」

 呆れるゆうき。

「おーほっほっほ!」

 高笑いする女子生徒が。エリートが集まるA組のアリスでした。

「メイド学園の生徒たるものが、お腹をゴロピーさせるなんて……」

「なによ! あんただって一度は経験あるでしょ?」

「わたくし、健康志向ですから、生まれてこの方、体調不良になったことがありませんの」

「そんな人間は……。いなーい!」

 アリスに指をさすまい。

「まあ! 人に指をさすなんて、なんてお下劣なお方……。やはり、地方育ちは育ちが悪いですわね」

「ぐぬぬ~!」

 葉を食いしばり、今にも殴りかかりそうな様子のまい。

「まいさん落ち着いて?」

 ひとみが羽交い絞めをして止めました。

「なあ、あんた。今度コーラ一気飲みしてげっぷしないでアルファベットすべて答えてみろよ」

 と、ゆうき。

「はあ? あなた、わたくし先ほど健康志向とおっしゃりましたわよね?」

 ジトーっと見つめてくるアリス。

「A組は、メイドとして他人の家に家政婦の実習に行くらしいぜ? そこであたいと同じ要望されたらどうすんだよ?」

「この学園の家政婦としての実習先に、そのようなお下劣タイプのお人はおりません! というか、そろそろ授業でなくて? わたくし、遅刻はしたくありませんので」

 と言って、立ち去ろうとした時でした。

「あなたたちはどうぞご自由に遅刻なさってくださいな」

 フッと笑みを見せました。

「なによなによ! ムカつく~」

 床を踏み鳴らすまい。

「それより遅刻しちゃうよまいさん!」

 ひとみとゆうきが、すでに技術室へと走っていました。

「ええ!? 二回目の遅刻はやだあ!」

 まいも急ぎました。


 技術室。全員無遅刻で授業が開始しました。

「さあ今日もはりきっていくよー?」

 やたらのんびりとした口調をする白衣を着た女性教員。技術担当のももこ先生です。

「今日はあ。みんなにロボットを作ってもらいたいと思いまーす!」

 F組の生徒一同騒然。

「はーい静かにー。ロボットっていってもお。とーっても簡単だから、説明するねえ?」

 説明を始めました。

「材料はすべて木。そして、ロボットが動く仕組みはこの歯車!」

 木でできた歯車を掲げました。

「これを机に置いてある設計図通りに組み立てるだけだけ~!」

 生徒たちは、それぞれの前に置いてある設計図を見ました。

「先生!」

 女子生徒が一人手を上げました。

「なんですかー?」

「どうしてメイド学園なのに、ロボットなんて作るんですか?」

「うふふー。それはねえ、クリエイティブなことにも慣れてもらうためよー? だからあ、まずは木製のロボットから作ってもらうよー? 来年は電池で動くラジコンカーを作るよー!」

「えー?」

 いやそうな顔をするまい。

「え、ちょっと? あからさまにそういう顔されるとショックなんですけど……」

 突然無表情で早口になるももこ先生。

「す、すみません!」

 びっくりして謝るまい。

「はーい! じゃあーあ、今日から三週間、がんばって作っていこうねえ?」

 のんびりした口調と明るい笑顔を見せるももこ先生。

 というわけで、ロボット作成に移る生徒たち。

「えーっと。これがこうで? こうなるの?」

 設計図を見てもなにがなんだかで四苦八苦しているまい。

「うわあもうわかんないよー!」

「うるせえ」

 ぼやくゆうき。

「あ、あたしもこんなの初めてで……」

「ゆうちゃんはどう?」

「あたいだってこんなの得意分野じゃないさ」

「そうか。ゆうちゃんは料理や子守が専門だから」

「あ?」

 まいをにらむゆうき。彼女をなだめるひとみ。

「君たちー? はかどってるー?」

 ももこ先生が確認に来ました。

「先生。これはどこにどう組み付けるんですか?」

「んー?」

 ももこ先生は、まいの組み立て中のロボットを覗き込みました。

「これはこの木ねじをこうはめて、で、次にこの部品をこうして……」

「は、はあ……」

 まいのことなど忘れているかのように、ロボット作成に勤しむももこ先生。

「できた!」

 完成してしまいました。

「……」

 呆然とするまい。ゆうき、ひとみ。クラスメイトたち。

「あっ」

 という声を出すももこ先生。

「バラバラにします!」

 チョップでできあがったロボットをバラバラにしました。

「ウソーっ!!」

 ムンクのような顔で叫ぶまい。

「まいさん。がんばってくださいね!」

 笑顔で応援するももこ先生。

「いや、壊したの誰よ……」

 ショックで涙するまい。

 ひとみは、ロボットの足の部分まで完成していました。

「うーん……」

「ひとみさん、どうしましたかー?」

「も、ももこ先生!」

 ビクッとするひとみ。

「あ、足から先がわからなくて……」

「ここは、これを使うといいんじゃないかしら?」

「へ? あ、ほんとだ!」

「で、次はこうして……」

「はい!」

「こうしてこうしてー?」

「はい、はい!」

 ももこ先生の丁寧な指示のもと、ひとみの木製ロボットが完成しました。

「先生、ありがとうございました!」

 立ち上がり、お辞儀をしてお礼を伝えました。

「いいってことよー」

 ほほ笑むももこ先生。

「なんか私より教え方うまいんですけど!」

 ムッとしているまい。

「まい。口より手動かせ」

 注意するゆうき。

「ゆうちゃーん! 私なんにも組み立てられないよー」

 授業をおえるチャイムが鳴りました。

「はーい今日はここでおしまい。続きは宿題にして、来週の技術の時間までに、完成させてくださいねー!」

 と言って、ももこ先生は技術室を出ました。

「ああ……」

 ぐったりするまい。ついぞ授業時間内に完成することはありませんでした。まい以外にも、完成していない生徒はたくさんいました。


 お昼休み。F組の教室では、技術の時間で行っていた木製ロボットの作成の続きに努める生徒が半数でした。

「むむう」

 そのうちの中に、まいとゆうきもいました。

「ごめんなさい。あたし、ほとんど先生の指示に従っていただけだから……」

「ひとみは悪くないよ。こんなのど素人なあたいたちが、一時間以内にできるはずがないからな」

「先生は天才だよ、もはや!」

 と、まい。

「ねえ、なんとかして先生に任せちゃおうよ」

「ど、どういうことまいさん?」

 まいは言いました。

「つまりさ、先生をおだてておだてて、一任してやれるようにするってことよ!」

 ウインクしました。


 職員室。三人はももこ先生に会いに行きました。

「先生!」

 まいが大声で呼びました。

「目の前にいますよ?」

 苦笑いするももこ先生。

「実は私、先生すごいなあと思って。なんかもう、すごすぎて、尊敬するんです!」

「ほ、ほんと?」

「はい。ですので、先生に私の木製ロボ作り、一任してほしいんです」

「へ?」

「先生がたった十分で作り上げたひとみさんのロボット……。ぜひとも、私にも作り上げていただきたい! 入学して早々に憧れを抱いた先生がいたことを、誇りに思いながら卒業したいから……。だから、ロボ作りお願いします!」

 深くお辞儀をし、設計図と木材の部品が入った袋を掲げました。

「いやです」

「えっ?」

「あからさまにウソをつき、面倒なことをすべて一任しようとするその魂胆……。しかも先生に? え、あなたもしかして中学時代は不良でしたか?」

 無表情の早口で言い放ってきました。

「あ、いやその……」

 ガタガタ震えるまい。

「すいませんでしたーっ!」

 職員室をササッと飛び出していきました。

「うわーん!!」

 ろうかで泣きました。

「お前、あきらかにウソだってバレバレだったぞ?」

 ゆうきもひとみも呆れかえっていました。


 一日の授業がおわり、生徒たちが寮に戻る頃。

「今度こそ先生にロボットを作ってもらおう!」

 まいは拳を掲げ、声を上げました。

 寮へ向かうの生徒たちがじろじろ見つめてきました。

「ま、まいちゃん!」

 あわててひとみがかけ寄ってきました。

「いい、ひとみちゃん? これは、ひとみちゃんにかかっているんだからね? ちゃーんと作戦通りにするのよ!」

「で、でもさっきも失敗してたし……」

「ひとみちゃんなら大丈夫! なんとしても、ロボットを完成させなくちゃいけないし」

「うう……」

「そんな怪訝そうな顔しないで。じゃ、頼んだよ」

 肩に手をポンと置いて、一任しました。ひとみは乗り気じゃない気持ちを抑え、まいの木製ロボットの部品と設計図を持って、図書室へと入りました。

 図書室で、ももこ先生は本を読んでいました。

「し、失礼します」

「あら、ひとみさん。どうかしたの?」

「え、えっと……。せ、先生も読書お好きなんですか?」

「ううん。暇なのー」

「は、はあ……」

 にこやかに答えるので、唖然としました。

「ところで、なにか用かしら?」

「あっ! え、ええっと……」

 後ろで隠し持っているまいの木製ロボットの部品を思わずぎゅっと握る。

「早く作戦実行するのよ! まいさんが木製ロボットできなすぎてくよくよしてますから、先生手伝ってあげてくださいって言うのよ!」

 図書室の入り口から覗き込んでいるまい。

「んー?」

 ずっとモジモジしているひとみを不思議がるももこ先生。

「うう~」

 ひとみはどうしようもなくなってしまい、涙を流しました。

「へえ?」 

 目を丸くするももこ先生。

「うう~。先生、あたし……」

「落ち着いたらでいいから、お話してみて?」

 なだめてくれました。

「泣いちゃったあ……」

 ひとみはまさかの事態に、呆然としました。

 ひとみは、まいに自分を利用して、木製ロボットの作成をももこ先生に頼んでもらおうという目論みを、正直に伝えました。

「そうなの。まあでも、先生もちょっとむずかしすぎる課題を提示してしまったわねえ」

「へ?」

「うん。ねんどろいどみたいに、パーツを組み立てるだけのものから始めるべきだったわあ。だってさ、まいさん以外にも、たくさんの生徒が先生のところに来てるのー」

「そ、そうなんですか」

「F組だけじゃないわよ? A組のエリートちゃんたちでも、こういうの苦手な子たっくさんいて、泣きついてくるからね」

「A組でも!?」

「うん!」

 にこやかにうなずきました。

「じ、じゃあどうしても作れなかった子はどうするんですか?」

「どうにもならないわあ。だってえ、技術の単位が取れなくてもお、他をがんばればオッケーだもん!」

「えー?」

「じゃあ全部、私の取り越し苦労ですか!」

 まいが入ってきました。

「まいさん!」

 ひとみが驚きました。

「先生、私は納得いきません! ひとみちゃんを泣かしてまで、先生のために木製ロボットを完成させようと努めたのですよ? それを他の単位を取ればいいって……。納得いきません!」

 言い張るまいに、ももこ先生は答えた。

「メイド学園は、いい成績を取ることだけが目的じゃないわ。まあ、A組からF組といったランクはあるけど。でもね、目的は、女の子が学園を卒業して、どこに行っても、ううん。どこかで活躍できる大人になってもらうことだからさ」

「活躍できる大人に……」

 つぶやくまい。

「お勉強がむずかしかったり、ルールが厳しかったりするけど。困った時はなんでも先生に相談して? 困った時、誰かを頼れるのも、大人になるために必要だからさ!」

 にこやかにほほ笑みました。まいとひとみもほほ笑みました。

「でも。ひとみさんを利用して先生に自分の木製ロボットを作らせることを頼むなんて、おいたが過ぎるわよ」

「え?」

「まいさーん? ちょーっといいかしら?」

 やさしい口調。しかし怖々とするまい。ひとみも怖々しました。


 夜。寮にて。

「まい、お前妙に疲れた顔してるな」

 ゆうきが聞きました。

「ははっ……。そりゃ疲れますよ……」

 と言って、そのままベッドに横になりました。

「どうしたんだ一体?」

 首を傾げるゆうき。ひとみは苦笑い。

(あのあと、先生と職員室でマンツーマンでロボット作成してたけど、一体どんな指導受けてたんだろ?)

 ももこ先生は、おっとりしているように見えて、あなどれない人物なのかもしれません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る