10.お姉ちゃんがやってきた♡

第10話

夏が過ぎ、十月の秋を迎えた頃。

「たら〜ららりらりらりらららーん♪」

 ゆうきは部屋の掃除をしながら、フニクリ・フニクラをハミングしていた。

「ゆうき」

 お母さんが来た。

「今夜お姉ちゃんが来るからね」

「フニクリ♪フニクリ♪フニク……」

 はたきを落として、

「ら!?」

 仰天した。

「お、お姉ちゃんが……」

 そのままへたれ込んだ。

「あ、あんなのに帰ってこられちゃ困るよ!」

 ゆうきは居間へ向かった。

「なんで帰ってくるの!!」

 お母さんに文句を言う。

「ええ? 有給取って、寮から帰ってくるんでしょ?」

「警察のくせして市民の平和を守る業務を後回しし、家に帰るっていうの!? そんなのダメ〜!」

「なに怒ってんのよ?」

「怒るよ! あんなわがままな人が来られたら……」

 玄関でインターホンが鳴る音が聞こえた。

「あ、お姉ちゃんかな? 出てやってよ」

「お、お母さん出れば?」

「トイレ行ってくるから」

 ゆうきは、顔をしかめたが、言われた通り、玄関へ向かった。

 インターホンのモニターを覗いた。

「うわあ……。いるよ、婦人警官の格好した姉が……」

 インターホンを、通話モードに切り替えた。

「はい、どなたですか?」

「あたしよあたし。合い鍵なくしちゃって入れないのよ」

 お姉ちゃんはインターホンに映る画面越しで腰に手を当て言った。

「あーすみませんねえ。多分、うちじゃありませんよ? お宅、ここは交番じゃないし、それに、あなたは誰かも知りません……」

 わざとらしく声を低くして、マイクに話しかける。

「はあ? ははーん……」

 ニヤリとするお姉ちゃん。

 すると、ポッケからピストルを出して、ドアに向けかまえた。

「オラァこの闇金ども! そこにいるのはわかっているのよっ? 観念して出てきなさーい!」

「ひえ〜!」

 ゆうきは驚いた。

「これがどれだけいったーい引き金か、試してみる?」

 カチャリ。ピストルのリボルバーを回す音がする。

「こんなところで撃たれちゃたまらないよ〜!」

「はい! さんーっ! にーいっ! いちーっ!」

 引き金を引こうとした、その時!

「やめて!」

 ゆうきが出てきた。

「バーカ! 球なんか入ってるわけないっしょ〜」

 お姉ちゃんにあかんべーされた。ゆうきは心底撃ってきやしないか、恐ろしくて、まだドクドクとなる心臓を押さえていた。


 家に入るや否や、お姉ちゃんはソファに腰を下ろし、足を組んだ。

「ほら」

 ゆうきに手を差し出す。

「お手」

 ゆうきは、犬みたいにお手をした。

「じゃなくてジュースとたばこ持ってきなさいよ!」

「手を出してきたから、お手をするのかと思ったんじゃないか!」

「どこの世界にそんなアホがいんのよ! さっさと持ってきなさいよ!」

「悪いけど、ジュースはないよ。僕もお母さんも飲まないから」

「はあ?」

 顔をしかめるお姉ちゃん。

「んじゃ、部屋からたばこ持ってきなさいよ」

「自分の部屋なんだから、自分で持って来れば?」

「あたしは疲れてんのよ? 学校行って家帰ってるだけの中学生とは違うのよ社会人は!」

 お姉ちゃんのわがままは、ゆうきにはどうすることもできない。

 結局たばこを持ってきてあげた。

「ちょっと。火つけて」

 たばこを咥えて、ゆうきにライターを渡す。

「やだよ! 僕火怖いもん」

「男のくせしてライターも使えないわけ? もういいわよ、待ちきれないから自分でつける」

 自分で火をつけて、たばこを吸い出した。

「あ、それとさ」

「もうなに?」

 ゆうきは呆れながら返事をした。

「スマホ取って、そこのさ」

 お姉ちゃんが示すスマホは、ソファの目の前にある、座卓にあった。

「自分で取ってよーっ!」

 ゆうきの大声が家中に響いた。


 翌日。学校に来たゆうきは、机で顔を伏していた。

「なんか疲れてる様子ニャ?」

 まなみは窓辺から彼の様子を伺っていた。

「やあおはようゆうき君! 今朝も僕は美しい! メタバースにも勝るこの美貌は、一体誰から受けたものなのだろうか……」

 顔を伏せているゆうきの前で自惚れているみちた。

「おやおや、おねんねかな? そんな時は、この発明品だあ!」

 リュックから取り出した発明品。

「目覚ましうこっけいちゃまだ!」

 うこっけいのお腹部分に時計が埋め込まれているデザインだ。

「時間をセットして、時間になると……」

 目覚ましウコッケイちゃまは、「ウコッケイ、ウコッケイ!」と鳴き叫びながら、ゆうきのまわりをかけ回り、頭を突いたりしてきた。

 そのうちゆうきが体を起こした。

「おはよう!」

 ニコニコしているみちたにゆうきは。

「痛いじゃないの〜!」

 怒りの表情をあらわにした。みちたは当惑した。

「うわーん! 僕ちょっと、いやかなり悩んでるんだよ〜!」

 泣き出した。

「ゆうき君!」

 まなみがかけつけた。

「みちた! あんたおんニャの子ニャかせるニャんて最低!」

「ええ!? 男だよね!」

 戸惑うみちた。

「とりあえず、お昼休みにはニャししよう? ねっ、ひとし!」

 トイレから戻ってきたひとしは突然名前を呼ばれたので、驚いた。


 そして四人はお昼休みに中庭に向かい、ゆうきは悩んでいることを話した。

「お姉ちゃんが帰ってきたんだ」

「お姉ちゃんがいたのニャ……」

「だからなんだよ?」

 聞く気もないまま連れて来られたひとしは、そっぽ向いている。

「僕のお姉ちゃん、すっごくわがままなんだ……。僕にあれこれ指図して、自分はなにもしないから、大変なんだよ……」

「なるほど。姉という存在は、一人っ子で僕からしてみれば、うらやましいとも言えるが……」

 と、みちた。

「うらやましくないよ! 一人っ子のほうが、自由に感じる!」 

「お姉さん、普段ニャにしてるの?」

 まなみが聞く。

「警察官……」

「えー!?」

 三人は驚いた。

「おいおい。わがままだって言うから、てっきり引きこもりかなんかだと思ったぜ」 

 と、ひとし。

「ブラック企業でさんざんストレス溜めて、ゆうき君のこといじめてるのかと思った……」

 と、まなみ。

「いや、僕はわりとお金持ちだと……」

「みんな僕のお姉ちゃんにいろいろな想像をふくらませていたみたいだね……」

 ゆうきは唖然としながらつぶやいた。

「お姉ちゃん、普段は寮にいながら勤めてるんだ。でも、昨日から有給を使って、一週間家に滞在することになったみたいなの……」

「その間、君はあれこれ指図を受けながら生活するわけか」

 みちたの結論にうなずくゆうき。

「しーらね!」

 しゃがみ込んでいたひとしは立ち上がった。

「お前の家庭の事情だろ? 俺たちに知る由もないよ」

「ひとし君……」

「ひとし! ゆうき君はニャやんでるのよ? そういう言い方ニャいでしょ?」

 まなみが怒る。

「勝手にしろよ」

 ひとしはその場を離れた。

「まったく……。ゆうき君、ニャにかいい方法考えようよ」

「い、いい方法と言われてもなにがあるかな?」

「お姉さんが君のこと、愛苦しく思ってくれたらな」

 と言うみちた。

「あいたっ!」

 まなみは足を踏みつけてやった。

「諸君!」

 声がした。そばの桜の木のそばで、腕を組み佇む少女、しおりがいた。

「話は聞かせてもらった。いい方法なら、ある」

 三人のいるところへと来た。

「い、いい方法って?」

 おそるおそるゆうきが問う。しおりは吹いてくるそよ風を少し浴びてから、答えた。

「秘技、変化へんげの術!」


 有給で一週間の休みを堪能しているゆうきのお姉さん。彼女はソファに横になりながら、ぬいぐるみを縫っていた。

「ねえ」

 お母さんが来ると、サッとぬいぐるみを隠した。

「な、なに?」

「ちょっと買い物行ってくるけど、洗濯物取り込んどいて」

「えー?」

「あと、食器洗いして、ご飯炊くのと野菜切っといて。じゃあね」

「ちょっとお母さん待ってよ!」

 待たずに行ってしまった。

「ったく……。こっちは連休を楽しみ中なのよ?」

 ムスッとしていたが、すぐにピンときた。

「ゆうきにやらせればいいじゃないのよ〜」

 ニヤニヤした。

「ただいまー」

「ゆうきー。ちょっとおいで〜」

 甘声を上げるお姉さん。

「ニャンニャ?」

「え? あんたなんか見た目変わった?」

「変ってニャ……ないよ?」

「はあ……」

 なぜか、ゆうきの目が一回り大きい気がした。

「まあいいわ。それよりさ、洗濯物と食器洗いと野菜切るのとそれから、米炊けってさあ。よろしくね」

 テレビをつけた。

「まニャみはやらニャいもーん」

「は?」

「じゃなくて、僕はやらないぞそんなこと!」

 指を差してきた。

「ま、まあ! なによその言い方!」

「警察だかなんだか知んないけど、家に帰ってきて早々わがまま放題はよくニャいニャ!」

「なにを〜!」

 お姉さんはカッとなった。

「わかったわ……。じゃあ、ここは一つ賭けをしましょ?」

「賭け?」

「賭けよ。トランプでもしましょ?」

 カードを切る。

「ババ抜きして、負けたほうがお母さんの頼んだお手伝いするのよ?」

「二人でババ抜きって楽しいかニャ?」

 配られたカードを持って首を傾げるゆうき。

「やかましい! 始めるわよっ?」

 ババ抜きが始まった。先行はお姉さんで後行はゆうき。それぞれぴったりのカードを置いていく。

(ふっふっふ! 気づいてないみたいだけど、実はババが三枚あって、私がラストにニ枚、ババをそろえてやる作戦よ! こいつは見事ババが一枚残るわけだわ……)

 ほんとは反則なルールを、平気でのこのこと行っていた。

 そしてお互い、あと一枚ずつとなった。

「さ、お姉ちゃん取りニャよ?」

 ゆうきが差し出しているのは、ババのカード一枚。そして、お姉さんが持っているのはババのカード二枚と、黒のスペードの七のカード一枚。

(ウ、ウソでしょ! いや、これはとんだ計算ミスだったー!)

 黒のスペードの七だけ一枚なくなっていたことに気づいた。このままでは、頼まれた自分が手伝いをすることになってしまう。

「えーいやめやめ!」

 カードを投げ捨てた。

「家の手伝い、あんたがやりなさいよ……。お姉ちゃんはね、仕事で疲れてんのよ!」

 ついに実力行使で、にらみを効かせてきた。ゆうきも怖気づいた。

「警察官なめるんじゃないわよ!」

「ただいまー」

 お母さんが帰ってきた。

「手伝いやってくれた?」

「今やりますはい……」

 お姉さんは急いで台所へ向かった。

「えー今から? あら、洗濯物も取り込んでないじゃない!」

「ごめんなさーい!」

 呆れているお母さんに尻込みしているお姉さんを見て、クスクスと笑うゆうき……いや、彼に変装したまなみだった。


 木曜日。ゆうきのお姉さんは、帰ってきて四日間、丸々家のソファーで過ごしていた。

「ただいまおかえり申した!」

「んー」

 ゆうきが帰ってきたのを適当に返事するお姉さん。

「!?」

 しかし、居間にやってきたゆうきを見て、昨日より遥かに背が高くなっているのに驚いた。

「え、ちょ、あんた?」

「ややっ。座卓どころか、床やソファーまで散らかすとは許し難き仕打ち!」

 居間はお菓子の袋やジュースの缶がたくさん散らばっていた。

「成敗致す!」

「ひえ〜!」

 お姉さんは、居間を飛び出していった。

「ふっ。またつまらぬ者を斬ってしまった……」

「いやあんたいつからそんなキャラになったのよ!」

 お姉さんが怒鳴り声を浴びせてきた。

「あたしもそこまでバカじゃないわよ? 昨日もなにかおかしかったけど……」

 腕を組み、ジトーっと見つめてくる。ゆうき……いや、彼に変装しているしおりは、額に汗をにじませながら、お姉さんを見つめた。

(まなみ氏! さすがにそめがしでは手に負えんのでは……)

「まあいいや」

 そのままあとにした。しおりはホッと胸を撫で下ろした。

「ああそれから!」

 お姉さんが戻ってきて、ビクッとするしおり。

「片しといてね」

 とだけ言って、この場をあとにした。

 そのあと、しおりはムッとして、

「まなみ、ゆうきめ〜! てめえら明日覚えてろよ?」

 壁を蹴った。

「いったあ〜!」

 痛かった。


 そして金曜日。いよいよラストスパートだ。というのも、ゆうきの策略では、お姉さんが滞在する一週間、計七日間のうち、早めに追い出してやるか、お姉さんから離れてやろうという魂胆だった。なので、あと残り三日は、お姉さんが寮に戻るかして、自分の家に帰りたい。当の本人は、水曜日はまなみに変装して彼女の家へ、木曜日はしおりに変装して彼女の家に行っていた。二人とも両親とはそれほど口を聞かないらしいので、一言二言話せば済んだ。というか、ゆうきは元々女の子らしい一面があるし、両者に変装したところで、両親は疑いもしなかった。まなみとしおりの変装のほうが、無理があった。

 では、本日金曜日に変装して頂く人は……。

「断る」

 ひとしは断言。

「いいのかニャ! ゆうき君、ほんとにお姉さんが家にいるのつらいと思ってるんだよ?」

「貴君の力が必要だ」

「なんで俺があいつの真似をして家に行かなくちゃいけないんだよ! 断るったら断る!」

 立ち去ろうとした。

「イエーイ! 君たち、変装なら僕ちゃまに任せたまえ。僕はこう見えて変装の名人なんだ? 小学生の頃の学習発表会では、木の役になったことがあるからな!」

「ひとし〜!」

 まなみとしおりはみちたのことはそっちのけで、立ち去ろうとするひとしの腕を掴んで引き止めていた。

「しつこいなお前ら!」

 ひとしは、掴まれている腕を振り払った。

「他人の家のことなんて、俺は知らねえ!」

「なら、誰のせいでゆうき氏は貴君を好きになった?」

「え?」

「誰のせいでなったと聞いておる」

 しおりがグンッと近づいてきた。ひとしは圧倒されてしまった。

「姉者の作った薬のせいであろう。少しは償ってみんか」

「いや、でも俺が作ったわけじゃねえし……」

 しおりは目を見開いた。

「なんでもいいから行ってこんかーい!」

 背負い投げで、ひとしを空の彼方に吹き飛ばした。

「ニャア……。星にニャっちゃった……」


 夜を迎えた。

「はあ〜あ! お腹空いたなあ」

 今日は一日部屋で、ぬいぐるみを作っていたらしい。裁縫道具を片付けて、ぬいぐるみにリボンを括り付けた。

「それにしても、なんかお焦げの匂いがするな……」

 リビングにやってきた。

「げっ!」

 リビングテーブルに置いてあるものを見て、凝視した。

 真っ黒に焦げたご飯が茶わんに盛られており、サラダは切りかけのきゅうりや大根が皿に盛られ、お肉は生焼けのものが皿に……。

「だーっ! これはどういうことやーっ!」

 大声を上げるお姉さん。

「しかたねえだろ? 俺は料理したことないんだから……」

「なによその男らしい言い方……」

 にらまれ、ゆうき……いや彼に変装したひとしが口を押さえる。

「一昨日からどうも様子がおかしいわね……。あんたさ、ほんとにゆうきなの?」

 上から目線で嘲笑してくるお姉さん。

(おいおい! 水曜日の時点でバレてんじゃねえかよ! アホかよあいつら!)

「お姉さん、脱ぐとすごいのよ?」

「え?」

 お姉さんは、着ているブラウスを脱ごうとした。

「どうしよう? 君が初めてになるかも……」

 ひとしは当惑した。まさかこんなことになるとは思わなかったし。このような状況って、実際はどうしたらいいかわからなくなるものだと、実感した。

(だが……。そういう時は直感でいくと事がうまく運ぶこともある!) 

 そしてひとしが出した行動は……。

「きゃっ!」

 生卵を投げつけた。

「黄身が初めてなんだろ? き・み・が!」

 と言って、家を出ていった。

 お姉さんは、黄身まみれになったまま、その場で佇んでいた。

 ひとしは急いで自分の家に向かった。

「くそーっ! ゆうきのやつ、なんか変なことやらかしてたりしねえだろうな!」

 家に着いて、入ろうとするも、カギが開かない。ドアをドンドンノックしたり、インターホンをけたたましく鳴らしたりした。

「出てこいこのやろー!!」

 カギが開く音がした。

 ドアが開き、ひとみが出てきた。

「姉ちゃん!」

「誰ですかあなた?」

 ひとしは顔を青ざめた。

「あっはっは! 冗談だよ冗談だよ。なに顔青ざめてんのよ?」

 それがわかったひとしは、一瞬殴りかかろうとしたけれど、腰に力が入らなくて、その場に座り込んだ。

「ニャ! もう帰ってきたのニャ?」

「迅速だな」

「ひとし君!」

 自分の部屋には、まなみ、しおり、ゆうきの三人組がそろっていた。

「なんでお前らがいるんだよ!」

「まあまあ。明日週末だし、どうせなら泊まりなよってことでさ」

 と、ひとみ。

「ゆうきもゆうきだぜ! なんでわざわざ俺たちに変装させてまであんなのに会いたくねえんだよっ?」

「ごめんなさい! で、でもどうしても離れてたかったし、みんなしか頼りにできなかったから……」

 と言ってから、

「ひとし君の家にもまた来ることができたしね!」

「まあひとし。帰ってこれたんだからさ、結果オーライてことで」

 ひとみがひとしの肩に手を置いた。彼はそれを振り払って、

「だから他人の家のことに手出しするもんじゃねえんだよ!」

 言い放った。


 ゆうきは翌朝に、朝食までごちそうしたあと、家に帰った。お姉さんにはなにを言われるか、なにをされるかわかったもんじゃないけれど、どうせあと二日の辛抱だと考えた。

「ただいま……」

 おそるおそる家に上がる。居間を覗く。誰もいない。

「トイレかな? それとも、部屋?」

 まずは自室に戻った。

「なんだろ?」

 机に、ぬいぐるみと手紙が置いてあった。近くで見てみると、意外なものを目にすることができた。

 ぬいぐるみは、ゆうきをかたどったもので、腕に赤いリボンが巻いてあった。手紙には、大きな文字で、『誕生日おめでとう!』と記載されていた。

「もしかして、これを渡すために帰ってきたの?」

 いつもわがままで手の施しようがないくせに、こういうの見せつけられると、ちょっと許してしまう。ぬいぐるみは、机棚にそっと置いた。

 居間に来て、久方ぶりにソファーを独占できると喜んでお尻を下ろした時だった。

 べちょっといやな感触がした。お尻を上げると、生卵の黄身がこぼれていた。

「ひゃあああ!!」

 悲鳴を上げた。さらに、黄身の隣に手紙が置いてあった。見てみると、大きな文字で、『誕生日おめでとう!』と記載されていた。ついでに、あかんべーしたお姉さんの顔が描かれていた。

「むむむ〜! 二度と帰ってくるなー!!」

 ゆうきはお姉さんに届ける勢いで、叫ぶのだった。

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