3.僕は愛のお医者さん♡
第3話
「ひとしく〜ん♡」
ゆうきはいつになってもひとしにベタ惚れのままだった。
「いい加減にしろ〜!!」
ひとしのストレスはマックスに到達していた。
「姉ちゃん! いい加減解毒薬を作れよ!」
家に帰って、速攻にひとみの部屋に来て抗議したが。
「うんうん! それでさ、あはは!」
友達と通話をしていた。ひとしはひっくり返ってしまった。
「あ、なんか弟が帰ってきたから切るわ。またねー」
スマホを切った。
「おかえりー」
「おかえりーじゃねえよ!! いい加減解毒剤作れって言ってるだろうが!!」
「どうしたのよ? そんな狂犬みたいに叫ばないで」
「誰のせいでこうなったと思ってんだよ!?」
ガルルとうなるひとし。
「ああもういやだ! なんでよりによってとなりの席にいるにぶちん野郎に好きになられるんだ! おまけに姉ちゃんはなにもしてくれないしどうしたらいいんだ!」
頭を抱えた。
「あ、そろそろバイトに行かなくちゃ」
ひとみはバイトに行く準備をした。
「そんなものより解毒剤作れや!!」
「バイトでお金稼がないと作れないでしょっ? お母さんに言いつけるよっ?」
「勝手にしやがれ!」
「じゃあバイト行ってきます!」
怒って、ひとみは部屋を出ていった。
「一生帰ってくんな!」
ひとしは閉められたドアに背をもたれて、腰を下ろした。下ろす時にため息をついた。
「けほけほっ」
咳込みした。
そして翌朝。
「う〜。なんか頭がボーッとする……」
顔を赤くしているひとし。
「もしかして……」
ひとしは部屋を出ると、居間の引き出しから体温計を出して、熱を測った。
「熱があるわ……」
台所に向かった。
「母さん……。ちょっと熱があるから休むわ……」
「熱!?」
「え?」
パッと振り返ったのは母ではなくて、姉のひとみだった。
「まあかわいちょうに! お姉ちゃんが抱っこでお部屋までちゅれていきまちゅからね〜」
なぜか抱きついてくるひとみ。
「ど、どうでもいいから離れろ……」
「えーちょっと。この期に及んで風邪なんて引くの? あんたもバカじゃないんだねえ」
「うるせえ。今日はおとなしく寝てるから……」
部屋へ向かった。
「やれやれ。せっかくの休日だというのに、弟の看護を任されるとは……」
ひとみは額に手を押さえた。
学校では、いつも自分より早く席に着いているひとしがいないのを、ゆうきが心配していた。
「ゆうきくーん!」
まなみが飛んで入ってきた。
「ま、まなみちゃん?」
「ひとし君、今日は風邪でお休みみたいだニャ」
「え……」
がく然とした。
「じゃあ今日は僕、なにを支えにして生きていけばいいんだ!!」
涙を流した。
「まニャみだニャン!」
ネコのポーズを取るまなみ。
「うわーん!!」
大泣きするゆうき。まわりもゆうきに目線を移す。
「まニャみのネコちゃんポーズが聞かニャいニャんて……。恐ろしい子……」
ある意味感心した。
「あ、今日金曜日じゃニャい? だったら、今晩泊まりに行って、看病してあげればいいニャ!」
「ぐすん……。看病?」
「そう! そうすれば、今日一日会えニャくても、今晩から二人きりだニャ!」
「そうか……。そうだよね!」
ゆうきは涙を拭いて、パアッと明るい顔になった。
「ありがとうまなみちゃん!」
「どういたしましてニャン!」
二人は手を取り合い、くるくる回った。クラスメイトたちは、唖然としながら二人を眺めていた。
夕方になった。ひとしは冷やしたタオルを熱くなったおでこに乗せて、寝込んでいた。
「やれやれ……。突然仕事が入ってきたって、姉ちゃんがいなくなってよかった……」
ひとみはバイト先で人手が足りないらしく、シフトに入ってくれと頼まれて、ダッシュで職場に向かったのだ。
「けど……。まだ熱が下がらないのに、今日に限って父さんも母さんも仕事で帰ってこない……。でもなにか食べないと……」
ゆっくりと体を起こし、台所へと向かった。
「姉ちゃん……」
ひとしは唖然とした。自分は病人だというのに、なにも用意されていなかったからだ。
「普通うどんとかおかゆとか、なにかしら用意してくれるだろうが! けほけほっ!」
咳込んだ。
「だる……。テレビでも観るか……」
居間へ向かった。向かうと、ソファでゆうきがテレビを観ていた。
「あ、ひとし君お腹空いた? 今からご飯を作るね」
「……」
「さーてと。風邪引きさんには、おかゆがいいかなあ」
エプロンを付けて、台所へと向かった。
「待て……」
ひとしが肩に手を置いてきた。
「な、なに?」
ドキドキするゆうき。
「なーんでてめえがここにいるんだよーっ!!」
怒鳴った。
「それは、ひとし君が風邪引きだから、心配で来たのです!」
「いやいつ!? なんでお前なんかが!!」
「もう学校が終わったらすぐ来たよ? だってもう今朝から心配で心配で……」
ゆうきはしくしくと泣いた。
「いや泣かれても困るし……」
「今日から日曜日まで、元気になるまで看病するからね? ひとし君♡」
ひとしは顔をしかめて、
「えー?」
という声を上げた。
「ひい〜!」
ゆうきはグツグツと煮える鍋に怯えた。
「うるせえな……。お前もっとだまって料理しろよ。俺今体しんどいんだからさあ……」
ソファでしんどそうにするひとし。
「だだ、だって〜! あっつーいお湯が僕にかかってきそうで怖いもーん!」
「じゃあ弱火でやればいいだろ!」
ゆうきはおそるおそるスイッチを回して、弱火にした。
「ほんとだ! あまり跳ねない!」
「はあ……」
ひとしはため息をついて、ソファに深くもたれた。
「どうしよう〜!」
「今度はなんだよ……」
「うどん入れる時にお湯が跳ねそうで怖い……」
震えているゆうき。ひとしは呆れていた。
「もういい、そこをどけ!」
結局ひとしが夕飯のうどんを作った。うどんができあがると、リビングのテーブルで食べた。ゆうきは買ってきた三日分のコンビニ弁当を食べた。
「はあ……。もう食えねえや」
箸を置くひとし。
「まだ半分も残ってる」
と、ゆうき。
(はっ! もしここで彼の箸を使えば……。間接キス!)
想像してニヤニヤした。ひとしは気味悪がった。
「ていうか、風邪薬あったかな?」
テレビの横にあるタンスを探った。
「あっ。それなら僕がいろいろ持ってきたよ」
ゆうきは袋を取り出すと、いろいろな市販薬をテーブルに置いた。
「コンビニに行く途中に買ってきたんだ」
「それはともかく、なんだこのゼリーは?」
そのゼリーとは、パッケージに"おくすり飲めましたね"とある市販薬だった。
「ん? これはね、お薬をスプーンにすくって……」
ゼリーで包んで。
「はい! あーんさせてあげる♡」
「いやガキじゃねえんだからさ!」
「やだなあ。ラブラブカップルは、お薬もこうして、あーんさせるのよ?」
「いやしないだろ! ていうか誰がカップルだよ!」
「ほら? あーん♡」
スプーンを向けてくるゆうき。戸惑うひとし。
「自分で飲む!」
スプーンを取り上げて、自分で飲んだ。
「あ、そ、それ下剤……」
「ん? うっ!」
ひとしは猛烈な便意を感じ、トイレへとかけ出した。
ピンポーン。インターホンが鳴った。
「もう夜の九時……。この時間にインターホンが鳴るってことは、ひとし君のパパかママ。もしくはあやしい人!」
ゆうきはバットを両手で抱えて、そーっとそーっと、玄関へと向かった。
「い、今開けまーす」
(よし。開けた瞬間にやばそうな人だったら、バットでギタギタにしてやる!)
決心して、ドアノブに手をかけた。
そして、開けた。
「ニャオーン! こんばんは~!」
まなみはあいさつしたが。
「おりゃあああ!!」
バットが振りかざされた。
「きゃあああ!!」
運良く、交わすことができた。
「はあはあ……。あ、あれ? まなみちゃん?」
ゆうきはバットを落とし、拍子抜けした。
「なーんだ! よかったあやしい人じゃなくて」
「おのれはなにすんのじゃ!? 死ぬかと思ったやんけ!!」
ヤンキーみたいにキレるまなみ。ゆうきは顔を青ざめた。
まなみは台所のコンロを勝手に使って、ホットココアを入れた。
「どうかニャ? ご飯はうまくできたかニャ?」
「それがその……」
「できニャかったかあ……」
と言って、ココアを一口。
「いい? これはひとし君のハートを掴む、チャンスかもしれニャいのニャ」
「チャンス?」
「そう。ただ会いに来るだけじゃニャくて、看病して三日間寄り添ってあげることで、愛情が芽生える。この機会を与えてあげたのニャ!」
「寄り添ってあげる……」
「だんニャさんは、奥さんが看病をしてくれるおかげで、身も心もあたたかくニャるのニャ。そうして愛が深まるのニャ」
「おお!」
ゆうきは感激した。
「わかった。僕料理もお薬飲ませるのもがんばる!」
「よーし! まニャみもできる限りサポートするけど、自分でやるのニャ!」
「ありがとう!」
「じゃあ帰るニャ」
「え? 泊まっていかないのっ?」
驚くゆうき。
「え?」
「てっきり、料理とか掃除とか手伝ってくれるのかと……」
「ひとし君とラブラブにニャりたいんでしょう? まニャみは邪険ニャ!」
ウインクして、ココアを一飲みしてから家を出ていった。
「よし!」
ゆうきは意気込んで、ココアを一飲みした。
「あちっ」
でも、ココアが熱くて一飲みはできなかった。
そして翌朝。
「うーん……」
ひとしは目を覚ました。まだ少しだるい。
「朝飯を食べなければ……。ん? なんかこげ臭いな」
リビングに来た。
「げっ!」
がく然とした。
「あ、おはようダーリン!」
ゆうきが台所で料理をしていた。
「なんだそのフライパンから漂ってる黒い煙は!」
「へ? 卵焼きだよ?」
「いやなんでそうなったんだよ!? どこの世界に真っ黒なこげた臭いの卵焼きがあんだよ!」
「ひっくり返すよー? よいしょ!」
勢いが強すぎて、ひっくり返したこげた卵焼きは、天井に張り付いてしまった。
「どうしよう……」
「取りに行ってこい!!」
怒鳴られて、ゆうきはあわてて脚立を持ってきた。
「けほけほっ」
ひとしが咳込んだ。
「くそ〜。これ治るかなあ……」
結局朝ご飯は、ひとしが作った。といっても、食パン一枚だけど。
「おかしいなあ。火の元はだいぶ慣れてきたんだけど……」
「もうお前コンロを使うな」
「あ、そうだ! ひとし君、食べ終わったら、お薬あーんの時間だからね?」
おくすり飲めましたねを差し出した。
「いや、自分で飲むから……」
「いやんもう照れちゃって! 恋人同士なんだから、子どもみたいにあーんしてくれちゃってもいいのよー?」
「だから自分で飲むつってんだろうがっ!!」
ひとしは怒ってツッコんだ。
ゆうきはひとしの両親が仕事でいない分、家事をがんばった。しかし、どれも手つかずだ。洗濯じゃ洗剤の中身すべてを入れてしまい、あわあわにしてしまうし、洗う前にひとしのトランクスを見つけては、ニヤニヤするし。また掃除をする時なんて、ひとしの母が大切にしている花瓶を割ってしまうし、詰まった掃除機に無理やりゴミを吸い込もうとして、爆発させるし、さんざんだった。
「もう家事なんていいから帰れー!!」
ひとしはしんどい体を起こして、怒鳴ってばかりだった。
「けほけほっ!」
そして咳込んだ。
夜になった。
「心配にニャって来てみたら、ゆうき君はやっぱり家事ができニャくて、みーんニャひとし君に任せていたのニャ?」
「はい……」
居間で正座してうつむいているゆうき。
「夕飯の時間にニャって、ひとし君また熱が上がって今寝込んでいると……」
「はい……」
「今夜はまニャみが料理を作るニャ。ひとし君の分も!」
袖をまくった。
「よろしくお願いします……」
落ち込んだ様子のゆうき。まなみはハンバーグ定食を作ってくれた。
「どうしてまなみちゃんは、ここまでしてくれるの?」
「え?」
「だって僕……。男の子だよ? それに、ほんとはひとし君のお姉さんが作った惚れ薬の香りを嗅いでこうなってるんだし……。正直、僕もどうしたらいいかわからなくて……。ただ、ひとし君のこと大好きだって気持ちには、ウソを付けないんだ……」
うつむいて話す彼に、まなみは微笑んで答えた。
「恋はね、誰がしたっていいものニャのよ」
「え?」
「例え君が薬で惚れていたとしても、恋する気持ちを抑えようニャんて、まニャみはしニャいニャ」
「まなみちゃん……」
「あーあ。まなみも恋してみたいなあ……」
ネコキャラじゃなく、普通に話すまなみ。ゆうきは、彼女も今、恋をしてみたいのだろうと感じた。
「きっとできるよ。まなみちゃん、かわいいから!」
まなみは顔を赤らめた。
「早くハンバーグを食べるニャ。ひとし君の看病があるニャ!」
ご飯を頬張るまなみを見てゆうきはクスッと笑った。
ひとしは氷水に浸したタオルをおでこに置いて、眠っていた。
ね〜むれ〜♪ね〜むれ〜♪
歌声が聞こえてきた。ひとしは目を覚ました。
「うわあ!!」
ゆうきが子守唄を歌っていたのだ!
「あれ? 目を覚ました……。もしかしてなにか悪い夢を見たの!?」
「そうか! 俺は今悪夢を見て……」
ゆうきがひとしを抱き寄せてきた。
「よしよし……。ね〜むれ〜♪ね〜むれ〜♪は〜は〜の〜む〜ね〜に〜♪」
子守唄を歌った。
「離れろー! そして歌うなー!」
ゆうきを突き放した。
「もうお前帰れよ! お前のせいで、風邪が悪化するだろうが!」
「そんな! 僕はひとし君のために……」
「それが迷惑なんだよ! いいからもう帰れ!」
なにも言い返せなかったゆうきは、そのまま部屋を出ていってしまった。
「ったく。しょせん姉ちゃんの作った変な薬のせいでああなってるんだ。本気で好きになってたまるものか!」
と言って、ベッドに戻った。
しばらくして、また部屋のドアが開く音がした。
(ゆうきのやつ、まだいたのか?)
イラッとして、体を起こした。
「おい、いい加減に……」
彼を見てビクッとした。
「これならどう〜ん?」
ゆうきはマリリン・モンローみたいなドレスをまとっていた。
「色気ムンムンで、男らしさなんて忘れさせてあげる。さあ、おねんねよお・ね・ん・ね♡」
と言って、
「チュッ♡」
投げキッス。顔を青くしたひとしは、そのまま気絶した。
「おやすみなさーい!」
ゆうきは遊園地のスタッフのお見送りみたく両手を振った。
そして週明け。
ひとしはすっかり風邪を治し、登校してきた。
「おはようニャン!」
まなみがあいさつしてきた。ひとしは無視をした。
「無視が一番傷付くんだニャ!」
「勝手に傷付いてろ」
ほおづえを付くひとし。
「ったく。こいつ腹立つなあ……」
舌打ちをするまなみ。
「なんか言ったか?」
「ニャにも言ってニャいニャー!」
ネコのポーズでごまかした。
「それより〜。ゆうき君、今日はお休みらしいニャン」
「は? なんで?」
「どっかの誰かさんが風邪を移したからでしょ!」
と、まなみはひとしの背中をバシッと叩いた。
「けほけほっ! おい!」
ひとしは咳込んだ。
「今度はひとし君が、看病してあげるといいニャ」
まなみは、ひとしにプリントを渡した。
ゆうきは部屋の布団で氷水に浸したタオルを、熱々のおでこに置いて、寝込んでいた。
「ひとし君……。ひとしく〜ん……」
ゼーハーゼーハー息を吐いて、苦しんでいた。
「待っててねひとし君……。早く治って……またラブラブしに来るからあ……」
息苦しそうにつぶやいていた。
一方で、マンションの入口では。
「二度とその面見せるな」
と言って、まなみに渡されたプリントをポストに入れるひとしだった。
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