9.中華三人娘!

第9話

「ユー!」

「リン!」

「チー!」

「三人合わせて、中華三人娘!」

 と、ポーズを決める中華三人娘。

 彼女たちは、現在りこが買い取った空き地で、中華料理店を営んでいました。開店から一週間で人気もうなぎのぼりでした。

 ユー。彼女はホールの達人。

来々らいらい! お客さん初めてアルか? ユーちゃんがいるから大丈夫ネ!」

 持ち前の明るさともてなしの心が好評でした。

 リン。彼女はキッチンの達人。

「おりゃあああ! リンの料理は宇宙一世界一日本一!!」

 お客さんを待たせないスピードが好評でした。

 そしてチーは。

「よっはっ!」

 お客さんのいるテーブルの前で大玉に乗りながら、皿回しをしていました。彼女は大道芸の達人でした。

「チーにこなせない芸はないのだ!」

 年中無休で、土日と祝日はほぼ休憩もなく働きました。お客さんは入口から先の先の先の交差点にまで並ぶほどいました。これじゃキリがないので、一日二十名までの予約制にしました。それでも、キャンセル待ちや半年待ちなんてなるくらいです。ユー、リン、チーの営む中華料理店は、それだけの反響がありました。


「てことなのよ!」

 科学研究所で、りこが自慢しました。

「相手はアンドロイドだからね、バッテリーが切れなければ、延々と働いていけるわけだけども、さすがにそれはちょっとなと思ってさ」

「ふーん……」

 しらけた目でりこを見つめる20三銃士。

「やっぱり、私天才なのよ。三人が働いてる姿を映像撮って、世に知らしめてやれば、世界……いや宇宙をまたぐ発明家になれるわ!!」

「よかったですわね」

「よかったですね」

「始めからそうすればよかったじゃないか」

 三人とも呆れました。

「しかたないでしょ? 悪玉菌は簡単に採取できても、善玉菌はむずかしいんだから」

「善玉菌はどこから取ったの? てかなんで善玉菌?」

 まきが聞きました。

「ヨーグルトよ。あと、善玉菌は、お腹の調子をよくする働きがある。だから、それをエネルギーにされたアンドロイドは、良心的なアンドロイドになる!」

「……」

 三人は唖然としました。

「そうだ。三人とも今度中華料理店に来なよ。ごちそうするからさ」

「え、でも予約は……」

 と、ゆき。

「大丈夫! それは私がしといたからさ」

「いいんじゃありませんの。食事がタダでできるんですから」

「なわけないじゃん。中華三人娘のために、それなりの料金は……」

 と言うりこを、みきはにらみました。

「わかったわかった。あんたらだけ特別だよ? 特別!」

 みきは、まきとゆきにウインクしました。まきとゆきは苦笑いしました。

 影で、ダイヤが少し不服そうな顔をしていました。


 翌日の夜。

「ここが中華料理店か……」

 名前もそのまんまで、小さな料理店でした。りこがドアを開けると。

「来々〜! ようこそ、中華料理店へ!」

 ユーがお出迎えしてくれました。

「いつもより多く回しているのだ!」

 傘回しをしているチー。

「めでてえなったらめでてえな!」

 踊っているリン。

「かわいいです!」

「ずいぶんとにぎやかなところですのね」

「いいじゃないか」

 まき、みき、ゆきの三人は、感心しました。

「さあさあ。こちらへどうぞ。今日は予約してくれてありがとネ!」

 ユーが席へ案内しました。

「おしながきはこれよ? おすすめは、天津飯ぎょうざチャーハン全部盛りメニュー!」

 リンがメニューを提示。

「も、盛ってるね……」

 盛りメニューを見て唖然とするまき。

「あっちで作ってるから、見てね?」

 リンは厨房を指さしました。

「リン! 注文を聞くのはユーの仕事ネ! 厨房の掃除でもするアルヨ!」

「厨房ばっかりいてもおもしろくないのよ!そっちこそお客様が注文決まるまで、レジのお金数えたら?」

「オーナーはユーアルネ! 口答えする気か!」

「誰があんたなんてオーナーにしたのよ!」

「二人ともケンカはやめるのだー!」

 チーが、ユーとリンの頭にジャグリングのピンを当てました。

「ほ、ほんとにぎやかなところですわね……」

「こらこら中華三人娘。あんたたちを開発した私がここのオーナーですけど?」

 りこが仕切る。

「とりあえず、みんなおすすめの天津飯ぎょうざチャーハン全部盛りメニューで!」

「えっ?」

「そ、そんな炭水化物オンリーなの食べられそうにありませんよ!」

 困惑するまきとゆき。

「かしこかしこまりましたかしこ!」 

「お冷持ってくるから、ゆっくりしてってーネ!」

 ユーとリンが去っていきました。

「あたいはいらないわ」

 と、ダイヤ。

「あたいもあんたらと同じアンドロイドよ?いらないから」

「かしこかしこまりましたかしこ!」

 ユーとリンは去っていきました。ダイヤはつまらなさそうに、ほおづえを付きました。

 さて、待っている間は、チーの大道芸の時間です。

「いつもより多く回しているのだ!」

 傘回しを披露。20三銃士拍手。

 続いてジャグリングをしながら一輪車を漕いだり、逆立ちしながら大玉転がし、旅行バッグに入るなどの演目を披露しました。

「魔法じゃありませんのね!」

「当然だろ!」

 20三銃士は、楽しくて拍手しました。

「いいぞー!」

 りこも声を上げました。ダイヤだけ楽しそうにしていませんでした。

「おりゃりゃりゃ!」

 猛スピードで調理するリン。左手でチャーハンを炒めて、右手でぎょうざを焼いていました。

「ほわちゃあ!」

 あっという間に、四人分が完成しました。

「ど、どうしたらこんなの作れるの?」

 まきがりこに聞く。

「科学の力に聞いてみることね」

 「お待たせアル! 当店おすすめの、天津飯ぎょうざチャーハン全部盛りメニュー!」

「ほ、ほんとにそのまま……」

「食べ切れますかね?」

「いただきますわ」

 みきが、なんのためらいもせず、全部盛りを口にしました。

「あら。意外といけますわよ?」

「みきって、意外と食べるタイプ?」

 当惑するまきとゆきでした。

「さあここで食事中も演目!」

 と、司会進行をするリン。

「今からリン、歌いまーす!」

 店内が暗くなり、ミラーボールが天井から現れました。

「ちょっと待つアル! ユーも歌うネ!」

「チーも歌うのだ!」

「なによあんたたち! これはリンによるリンとお客様のための演目よ? 邪魔しないでよ!」

 言い合いを始めてすぐに、後方でスクリーンが下がってくる。

「でも今流れてきたメロディ、ユーたち三人がいっしょに歌うやつアルネ!」

「チーも歌うのだ!」

「だからリンによるリンとお客様のためのって言ってるでしょ! マイク掴んでるその手を離しなさいよ! 離さないと噛み付くわよ?」

「ユーが〜!」

「チ〜!」

「リン〜!」

 マイクを引っ張り合っている間に、前奏がおわりそうになる。

「はい三人娘!」

 りこが手をパンと叩く。

「その歌は私が作り、あなたたちのデータに内蔵したものです。だから、三人で歌いなさい!」

 ユー、リン、チーはしぶしぶ納得しました。


♪電子的中華飯店♪


来々〜!ユーアルヨ ホールの達人、ホールの担任

明るい笑顔ともてなす心 これさえあれば、商売繁盛!


コンロをカッチン!ここはキッチン 厨房のことはリンちゃんにおまかせ

三人四人、十人だって 秒で料理をあなたにお届け! 


Yo!Yo!チーだYo! お料理待つ時間食べる時間も芸でおもてなし

得意技は大道芸と 持ち前のキュートな笑顔なのだ!


ユーリンチー!アンドロイドが務める中華料理店 ユーリンチー!あなたを笑顔にし満足させる料理店


たららったったっら たららったったっら


 歌がおわり、呆然とする20三銃士。

「どうよ? 歌もうたえる天才アンドロイドは?」

 りこがカッコつけるように聞きました。

「ちなみに。この歌を披露したのは、あなたたちで二回目アル!」

「いやあ感心したよ!」

「魔法じゃなくて、科学ですのね!」

「これだけできれば、人気になるのも当然ですね!」

 拍手しました。

「いやあ……」

 照れるりこ。

「ねえねえ。僕たちも、君たちの手伝いができれば、バイトとして雇ってよ」

「そうですわね! ここなら、続けていけそう……」

「キ、キッチンならやります!」

 20三銃士は、中華三人娘にアルバイトの雇入れを申し出ました。

「あの、オーナー私なんだけど?」

 と、りこのことは目にせず、

「来々!」

 中華三人娘は、即雇入れをしてしまいました。

「よろしくね!」

 20三銃士と中華三人娘は、お互い手を繋いで、わいわいしました。

「ま、いっか」

 りこは肩をすくめました。

「ふん!」

 ダイヤはしかめっ面をして、去っていきました。


 そして翌日。

「いらっしゃいませ〜!で すわ!」

 ユーとみきが、ホールをしていました。

「あれ、新人?」

 と、お客さん。

「新人ですわ!」

 みきは、制服のスカートをひらっとさせました。

「まだまだ今日からアルヨ?」

 そして、厨房では。

「ゆきちゃん汁なし担々麺三名様ね!」

「は、はい!」

 ゆきが先輩のリンに指示されながら、担々麺の入った器を回していました。

そしてまきはというと。

「えーっと一円なーり二円なーり……」

 会計係を任されました。

「ほう。ちゃんとやってるじゃない」

 外から、りこが覗いていました。

「ふん。なにが中華料理店ユーリンチーよ?あたいのがすごいアンドロイドだってこと、教えてあげるわ」

 と言って、どこかに行ってしまいました。


 ダイヤは、人気のない、路地裏に来ました。

「さーてと。今さらだけど、あたい声色を変えれるのよね。のどのところ押して、すると、男の声とか、いろいろ変えれるのよね」

 のどを押して、声を変えました。そして、通話をかけました。

 ユーリンチーの厨房にある電話が鳴りました。

「はいもしもしユーリンチーでございます」

「さすがリンちゃん。アンドロイドでも、電話ができるなんて……」

 ゆきは感激しました。

『至急予約を任してくれないかしら?』

 野太い声なのに女みたいな口調の人から電話がかかりました。

「いいですよ。何時頃がいいですか?」

『そうね……。今日の夜九時頃でいいかしら?』

「わかりました。でも、当店は九時までなんですよね」

『そこをなんとかするのがプロってもんでしょ?』

「そうですよねわかりました。何名予約でしょうか?」

『百名よ』

「百名ですね。わかりました!」

 と言って、電話を切りました。

「え、今百名って……」

「うん。今日の夜九時、閉店時間なんだけど、予約したいって連絡があって、百名来るんだって」

「いやちょっと待って!」


 お昼休憩。十三時から十七時の間は、一度お店を閉める時間になっていました。

「いや、二十名が定員で、夜の九時が閉店時間だから、そんなの承れるわけないだろ!」

 まきもツッコみました。

「でもお客様からの予約だし……」

「そうネ。お客様には、親切に、楽しませてもらい、満足していただくことが大事ヨ?」

「チーもそう思うのだ」

「だからって! 定員八十人超、閉店時間超えて働くことないでしょ? あなたたち、少し……いやかなり良心が働きすぎでなくて?」

「じゃあ、どうするのだ?」

「断るしかありませんよ」

 休憩室の天井でチカチカと小さく光る赤い点。

 そこに取り付けた監視カメラの映像を見ていたダイヤは、「けけけ!」と笑っていました。

「ほんとおバカさんね。ウソに決まってるでしょ? やっぱり、アンドロイドとして能力が備わっているのは、このわたくしだけですわ」

 映像を見ていると、りこが現れました。

「どうしたのみんな。なんか浮かない顔してるぞ?」

「それが、予約の電話が来たんですけど、百名で、しかも閉店の時間に来るみたいなんですよ」

 ゆきの言うことに首を傾げるりこ。

「リン、間違えて予約受けちゃったのかな……」

 落ち込むリン。

「そんなことないのだ! お客様のために働くのが、チーたちの務めなのだ!」

「そうネ! 落ち込むなんて、らしくないアルヨ?」

「りこ、ゆきの言ったとおりなんだ。どうすればいい?」

「わかったわ。とりあえずその予約、受けましょ?」

「え!?」

 みんな驚きました。

「いたずらだと決めつけて、ほんとだったらお店の信用にも繋がるしね」

 とりあえず、りこの言うとおりにすることにしました。

「ふん。なによりこまで……。バカじゃないの?」

 ダイヤは、映像を映していた端末をほったらかして、その場をあとにしました。


「おりゃあああ!!」

 リンは、得意の猛スピードで料理を作っていました。

「ひえええ!!」

 ゆきは泣きながら、盛り付けや食器洗いに努めていました。

「一円なーり二円なーり」

 まきは、会計係の仕事をしていました。

「来々!」

 ユーの満点スマイル。

「来々!」

 みきのスマイル。

「もっと首を傾げて!」

「こ、こうですか?」

「もっと!」

 ユーの接客練習は、スパルタでした。

 りこは、少し考えていました。


 そして、夜九時ちょっと前。20三銃士と中華三人娘はそれぞれ持ち場に立って、待っていました。秒単位で刻まれる時計の針。時間まで、あと五分になりました。

「やっぱり来ないのでは?」

 と、みき。

 時間まであと一分。三、二、一……。

 結局、九時を回っても、来ることはありませんでした。

「料理、無駄になりましたね……」

 みんな、黙り込んでしまいました。

 と、そこへ。ドアが開きました。みんなドアにパッと目を向けました。

「お待たせみんな。お客さんだよ」

 そこにいたのは。

「ダイヤ!?」

 ダイヤでした。

「話は簡単。予約の電話はすべてウソ。ガセネタよ。その犯人が、この子ってわけ」

 肩にりこの手を置かれているダイヤの表情は、ふてくされていました。

「どうしてそんなことをしたんだ!」

 まきが怒りました。ダイヤはびっくりしました。

「まあまあ。しょせん、今までしてたみたいなのと同じいたずらでしょ? 怒ることありませんわ」

「でもどうしてやったのかだけは、聞きたいですね」

「ユーたち、無駄足を踏んだネ」

「そりゃ怒りたくもなるよ!」

「でも、まずは理由なのだ。理由によっては、怒りたくなるのだ」

「さ、ダイヤ話してごらん」

 りこは、少し前に背中を押しました。

「なによ……。どうせみんな、その中華娘たちのがお気に入りなんでしょ?」

「え?」

「あたいのことのけ者にして! ムカつくから、してやっただけじゃないの!」

 呆然とするみんな。

「いいわよ……。そんなにあたいを怒らせたいのね!」

 ダイヤの全身から、紫色の光が立ち込めてきました。

「きゃっ!」

 その光が勢いよく上に向かい、ダイヤを包み込む。やがてその光は、巨大な怪物に変化へんげしました。

「ダ、ダイヤ……」

 怪物を見上げ、立ちすくむりこ。そして、20三銃士と中華三人娘でした。

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